『物語ウクライナの歴史』と藤原帰一教授の想い

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  1. にわか勉強で、中公新書の『物語ウクライナの歴史、ヨーロッパ最後の大国』(黒川祐次、2002年)を読みました。著者はもと駐ウクライナ大使です。

 

(1)たまたま、ドイツ在住の刈谷さんもこの本を読み終えたそうです。同じことを考える人は少なくないでしょう。

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(2)まえがきで、「ウクライナ史の最大のテーマは、「国がなかったこと」だ」という言葉を紹介します。しかも、「「国がない」という大きなハンディキャップをもちながらも(略)、そのアイデンティティを失わなかった。ロシアやその他の外国の支配下にありながらも、独自の言語、文化、習慣を育んでいった」。

 

(3)「そしてついに、1991年独立を果たした・・・・」とあり、本文ではそこにいたるまでの長い苦難の歴史が語られます。

 

(4)これを読むと、いまウクライナの人たちがロシアの侵略に対して、命を懸けて戦っている心が私なりに理解できたように思います。ふるさとを、祖先の地を、自らのアイデンティティを守る戦いです。

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  1. さらに今回は、国際政治学者である東大大学院の藤原帰一教授の意見も紹介したいと思います。

因みに教授の父上は旧東京銀行、ご自身は帰国子女ですが中学・高校は麻布で、僭越

ながら、親近感を感じています。

ご紹介するのは、3月16日の朝日新聞夕刊「時事小言」。

それと実は教授は、この3月定年を迎え、8日に東大で「最終講義」を行いました。

何れもロシア・ウクライナ戦争を取り上げており、この2つからごく簡単に紹介します。

「時事小言」はフェイスブックから読むこともでき、最終講義はYoutube で視聴可能です。

   藤原 帰一 | Facebook

 https://www.youtube.com/watch?v=tUFXHcvpAfI

 

(1)講義で「今回の出来事は明確な侵略戦争である」と言います。 そして、ドイツの作家ブレヒトの言葉を引用します。――「そう、この時代は暗い。笑っている者は、まだ悪いニュースを聞いていないだけだ」。

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(2)さらに、「プーチン政権がウクライナ制圧に成功する可能性はない」と言い切ります。なぜなら、軍事的に勝利しても占領を維持できないから。

(3)だからこそ戦争の見通しは暗い。停戦交渉と大規模な破壊・殺りくが同時に、しかも長期にわたって継続する状況である。突き放して言えば、プーチン政権が自壊するまで、この残酷なゲームは続くだろう。

 

  1. しかし、藤原教授は、

(1)そもそも、今回のように外交と抑止によっても防ぐことの出来ない「戦争」にどう対処するかを指摘したうえで、出口は何だろうか、とも問いかけます。

 

(2)そして、次のように言います。

―――戦争の終結は国際秩序を形成する機会だ。

日本国憲法は、軍国主義の日本を世界との協力の中に再統合する貴重なステップだった。

今度こそ、冷戦終結時につくるべきであった、「負け組」も参加する秩序、大国が自制する秩序、日本国憲法前文が示すような世界各国の国民もロシア国民も受け入れることのできるような力の支配ではない国際秩序をつくらなければならない」。―――

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4.同教授の言う「リベラルな国際秩序」をつくることは、果たして可能でしょうか。

 

(1) 「最終講義」では最後に、「これは予測ではなく、私の願いです」と言われました。

それだけに、「何だか青臭い理想論で終わってしまったな」と感じるかもしれません。

 

(2)「ロシアが負けるのを待って国際秩序を考えるのではウクライナでの被害があまりにも大きくなる懸念がある」というコメントもあり、まことに尤もと思いました。

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(3)しかし、私には、心に残る言葉でした。

「時事小言」には、「日本国憲法前文」という言葉が何度も出てきます。

「前文」なんてきれいごとの典型だ、と思う人も多いでしょう。

しかし藤原先生の言葉からは,「今度こそ、「憲法前文」の世界を実現してほしい」という強い想いを感じました。身びいきで言えば、さすが麻布OBらしい思考だと思いました。