映画「丘の上の本屋さん」を観る

  1. よく晴れた3月初旬の某日、妻と二人、銀座で良い映画を観ました。

(1)邦題「丘の上の本屋さん」という2021年制作のイタリア映画。

最近は悲しいかな,老人によくある症状で、2時間の映画を途中で席を立たずに最後まで観ることができなくなりました。

今回は、たまたま新聞の評を読み、目下「シネスイッチ銀座」で上映中、時間は84分とあり、これなら「トイレ範囲」ギリギリだからと妻を誘って、翌日に出掛けました。

 お互い閑なせいもあるでしょうが、こういう誘いに即OKしてくれるのは嬉しいもので、渋られると、こちらも出かける気持が萎えます。

  1. 和光の裏手にあるビルの3階にある小さな映画館です。早めに着いたので、暫く銀ブラをしました。

「木村屋本店」でアンパンを買い、あとは映画までは別行動で、私は、本屋の教文館と文房具の「イトーヤ」に入りました。外国人を含めて人出は多く、思い思いに楽しんでいました。高級ブランドの店が並び、豊かさの象徴のようで、庶民には敷居の高さを感じます。

 しかし映画館はごく地味な場所で気楽に入りました。

  1. 以下、映画についてです。

(1) 舞台はテレビ番組「小さな村の物語イタリア」に出てくるような、中部の美しい村。

丘の上の広場にある村のオアシス的古本屋をめぐる老店主リベロ(イタリア語で「自由」)と少年エシェンとの交流を中心に、書店を訪れる人たちがスケッチ風に描かれます。石造りの歴史的な街並みと石畳の舗道に趣きがあり、広場からの眺望も素敵です。

(2) リベロは、店先で本が買えずに眺めていたブルキナファソ(アフリカの最貧国)からの難民でイタリアに来て6年になる貧しい少年エシェンに声をかける。

そしてエシェンの本好きと利発なのを見抜き、最初は大好きだという「ミッキーマウス」を、次いで「マンガは卒業しよう」と言って、本棚から選んだ本を「いつ返してもいいよ」と次々に貸します。

 

(3) 最初は童話『ピノキオ』。続いて、『イソップ物語』,『星の王子様』,『白鯨』,『アンクル・トムの小屋』,『ロビンソン・クルーソー』,『ドン・キホーテ』など、だんだん大人向きになります。

(4) エシェンは夢中になって読み、すぐに返しに来ます。

リベロは、感想を話し合い、次の本を選びます。

イソップ物語』の中のどの物語を面白く読んだか?を訊き、

「イソップは、君と同じ肌の色をしていたんだ」と繰り返し告げます。

「星の王子様」の時は「本は二度読む必要がある。最初は理解するため、二度目は考えるために」と伝えます。

「医者になりたい」と言うのを聞いて、シュヴァイツアーの伝記も渡します。

(5)もちろんリベロは老人ですから、二人の交流はいつかは終わらざるを得ません。

しかし彼は最後まで、難民としてやってきた少年に希望を与える言葉をかけます。

  映画の原題は「幸福になる権利(Il Dilitto Alla Felicita)」と硬いですが、リベロがエシェンに,1948年の国連総会で決議された「世界人権宣言」を渡し、「誰もが平等であり、誰もが幸せになる権利を持っている」と語る場面から取られています。

「丘の上の本屋さん」も良い邦題ですが、原題には意味があります。

(6) 本と読書の、そして日常を淡々と生きることの大切さを伝える、気持の良い映画です。

リベロを演じる1948年生れの俳優、日本人のような柔らかな雰囲気を持っていて、風貌も状況もまるで違いますが、「東京物語」の笠智衆を思い出しました。