京都府「人づくり事業」の研修生と「1冊の本」

1. 前回は京都の日曜日をのんびり過ごした記録でした。
日曜日を除く5日間は多少は仕事らしい時間でした。
メインは社団法人京都ソーシャルビジネス・ネットワークが企画・実施、京都府が支援する「ソーシャルビジネス人づくり」の研修プログラムにて、今回の3日間私が研修を担当したものです。
12名の参加者とはこれから11回合計22時間付き合いますが、今回が最初の3回。
場所は「カスタネット交流サロン」と名付けた町家ですが、四条堀川に近く、同じ通りに
「26聖人発祥の場所、もと南蛮寺」と書かれた建物があります。

http://everkyoto.web.fc2.com/report384.html
このあたり、信長・秀吉の時代は、教会、修道院、病院が並び、200人ほどの信者がいて、宗教行為の他、貧者やハンセン氏病を収容して手当する慈善活動を行っていた。
しかし秀吉はキリスタン禁制令を出して、主要メンバーを長崎で残酷な磔の刑に処した。
殉教した5名のスペイン人神父・修道士、3名の日本人イエズス会士、17名の日本人信者はその後、ローマ教会から「聖人」に任じられ、「26聖人」と呼ばれます。

日本人も西洋や中国ほどではないけど、けっこう残酷でしたね。


2. ところで私の研修テーマは「アメリカXビジネスXソーシャル」と題して、大学でのゼミのように、本を読んでの発表と意見交換を中心に進めるつもりです。


課題図書は『ウィニング勝利の経営』(ジャック・ウェルチ)と『小さな企業のソーシャルビジネス』(植木・川本)の2冊。
皆さんこの種の本は手に取ったこともないでしょうが、自分の関心の対象にない・どんな本でも、とにかく「読み上げる」という経験を大事にしてほしいと考えています。


メンバーは、意欲はあるが職が見つからない、NPOを始めたがまだ事業にはなっていない、絵や書道でそれなりの実績はあるがそれでは食べていけない、何か事業を始めたいと考えている・・・等々、男女ほぼ半々、30代から59歳まで、経験も多様で、なかなか面白い人たちです。
夫々が、自らの「事業プラン」を作り上げて将来の人生設計につなげることも来年3月までの課題です。

私が、どこまでお役に立てるかは自信ありませんが、他者としてのアメリカも理解しつつ、いまの日本で、自ら考え、動き、「働くこと」への意欲と自信が少しでも大きくなれば嬉しいなと思っています。


3. 初回の3回は、イントロということで、
(1) 印象に残った「1冊の本」
(2) 印象に残った「1人のひと」
(3) 自らの事業プラン
を適宜喋ってもらい、同時に、夫々の「働くこと」「起業すること」についても考えてもらいました。


「これからの設計」を立てるためには、まず「振り返ること」が大事、その契機として「本」と「人」を考えてもらいたいという狙いです。
抽象的な「自分探し」というような作業は好きではなく、具体的な「名前」や「固有名詞」「出来事」から思考を進めるというのが、私がいつも学生に伝える流儀です。

4.各人の発表に、皆が参加し、意見を交換しあい、適宜、私が「感想」を述べて終りにします。

ある研修生が「テレビで見たサンデル教授を思い出して、とても楽しい授業だった」と評してくれて、さすがに「それは誉めすぎだよ」と赤面しましたが、厚かましいけど、まあ嬉しかったです。


彼らが紹介した「1冊の本」は以下のようなものです。


(1)『宇宙からの帰還』(立花隆)・・・「宇宙に興味を持っている」
(2)上につられたか別の人が、『生き方は星空が教えてくれる』(木内鶴彦)・・・この人は、知りませんでしたが立花隆が取材した人で、臨死体験を語るそうです。
(3)佐渡裕『僕はいかにして指揮者になったか』・・・何回も読み返す。年末の彼が指揮する第九はいつもパワーを貰う。
(4)父親が出張のたびに「偉人伝」をいろいろ買ってきてくれて夢中になって読んだ・・・私も、「伝記」や「自伝」を読むのが好きだ、という話をしました。
等々。

(5) 絵本をあげた人もいました。
私は、私の好きな「ちいさなおうち」というアメリカの絵本の話をしました。

(6) マンガをあげた人も2人いて
手塚治虫の『火の鳥』『ブラックジャック』は全員が読んでいて、大いに盛り上がりました。
彼の後継者ともいえる浦沢直樹の『PLUTO』は傑作と思う、「いのち」「こころ」について考えさせられる。ぜひ読んでほしい、と熱く語り。
宇宙兄弟』秦の始皇帝の話『キングダム』や『三国志』をあげた人は、主人公がだめ人間なのが共感できて、自分なりに頑張ろうという気持ちになる・・・というコメントも。

お金がないから、立ち読みが多いが、立ち読みのコツは、1カ所にずっと立っていないで、時々、ヨコに移動すること(なるほど!)。


6.「出会った1人の人」で面白いと思ったのは、中日ドラゴンズ落合博満前監督に会った話。

・・・・彼の「野球記念館」が、昔からの捕鯨で有名な和歌山県の太知町に最近できたそうで、研修生の1人・和歌山出身の某さんが、奥さんと2人で郷里に帰ったついでに寄ってみた。

他に、誰も入場者がおらず、どこのおじさんかという人が丁寧に出迎えてくれてこれが落合氏自身だった。ずっと付き合ってくれ、熱心にいろいろ話をしてくれた。
奥さんがコーヒーを入れてくれた。
落合氏の話は終始、野球で、彼が心底野球を愛しているという想いが伝わってきた。

テレビで見ている彼は、何となく、無愛想で、厳しそうで、あまり好感を持っていなかったが、実物の印象がそれとはあまりに違うので、たいへん驚いた・・・・

という体験談でした。

おそらく、何か自分の猛烈に好きなこと・一生けん命やったことを持っている人から1対1で聞く話は興味深いだろうし、隠された人柄も出てくるでしょう。
「この人、何か思惑や魂胆があって話しているのではないか」なんて余計なことを考えず、人間に対する限りない好奇心を持って素直に接し、素直に話を聞く、そしてこちらも遠慮せずに思ったことを言う、・・・・
他人との、そんな接し方が大事ではないか・・・そんな感想を最後に述べました。