オバマ再選から考えたこと


1. アメリカ・オバマ大統領再選については、日本でもマスコミの報道や専門家・識者の意見が多くみられます。

いまさら異国の素人が追加するのもどうかと思いますが、主としてNY TIMESを読んでとくに、誰がオバマを支持したかについて書いておきます。

他国の話ではありますが、NYに30年以上住む友人の北島さんが熱烈にオバマを応援していたので、お祝いのメールをしたところです。
彼女は永住ヴィザがあるが市民権はなく従って投票権もありません。
しかし、高額の民間医療保険に入る余裕がないだけに、今回の医療保険制度に大いに期待している1人です。(永住者にも適用される)

彼女のような、経済的な余裕がなくて医療保険に入っていない人たちが、大抵なことでは病院やお医者さんに診てもらわない(もらえない)、日本に比べて、ある種の潔い「覚悟」のような生き方については、3月にNYを訪問して彼女に会った感想をブログに残しました.

しかし、もちろん彼らは日本のような「素晴らしい」国民皆保険を期待し、オバマを応援しています。


2. 今回のオバマ勝利の話になりますが、投票率50(前回は53)対48で「薄氷の勝利」と日経は伝えていますが、NYTIMESの判断は「08年ほどではないが、それでも十分な勝利」とあり、少しニュアンスが違います。

その大きな理由に、アメリカにおける人口構成の変化、即ち、ヒスパニック系アメリカ人の急増があります。
いま、約3億1千万の人口のうち、いわゆる「白人」(ユダヤ人を含む)が72%、黒人が13%弱。対してヒスパニックは、2000年には9%だったのがいまは黒人を抜いて16%強、2050年には30%弱になろうと予測されています。(そのころ、白人は多数派ではなくなっている、とも予想されている)。

7日当日アメリカABC の開票速報をNHK・BSで見ていましたが、解説者がこの「人口構成の変化」について、度々発言していたのが印象的でした。

言うまでもなく、共和党は、これらに支持基盤を伸ばしていない。これは、これから大きな課題になるだろう、というものです。


3. 今回のオバマ支持層を要約すると、
(1) 白人の支持は前回の共和党との差マイナス12%(白人全体の44%がオバマを支持したということ)が19%(40%強の支持)と大きく減らした。
(2) しかし、女性の支持は女性全体の55%で08年と変わらず。
(3) 若者の支持は減ったが、それでも6割強の支持を得た
(4) ヒスパニックは実に44%の差をつけた(72対28でオバマ支持ということ。前回より8%もアップ)。黒人は90%以上の差だが、アジア系もヒスパニック以上にオバマ支持の比率が高い。


4. 要するに、共和党ロムニー支持者の多数を占める人たちのイメージは
(1) 白人・男性・年長者特に65歳以上の高齢者・高所得者キリスト教福音主義原理主義者・田舎や郊外の居住者、ティーパーティの支持者・・・という姿。
(2) 問題は、この人たちが、マイノリティになりつつあること。
(3) もう1つの問題は、課題(イシュウー)で見ると、(1)の人たちの中でさえ共和党の施策への支持は分裂していること。
例えば、ヒスパニック系に多い不法移民の問題について、世論調査によると、「強制送還すべき」という強硬な意見は3分の1に過ぎない。
医療保険制度についても、「オバマの施策を撤回すべき(共和党はこれを主張している)」の意見は25%に過ぎない。
かつ、60%が富裕層の増税に賛成している。

(4) また、「経済が悪い」と答える人が4分の3で、今回の選挙も「経済・雇用」が最大の関心事だったことは報道の通りだが、そう答えた半数近くが「経済悪化にはブッシュ前大統領に責任がある」と答えている。


5. というような姿が浮かび上がってきます。
ヒスパニック系の支持をどう拡げていくかが、これからの大きな課題でしょう。
(とくに共和党にとって)

ということは、今のような2大政党が変質していく可能性、さらには2大政党そのものが変わる可能性も否定できないかもしれない。


さらに、そのうち「スペイン語も国の公用語に」という動きが強まるかもしれません。
アメリカ人は英語が国際語であるために、バイリンガルの比率が低い、英語しか喋れない「モノリンガル」とからかわれますが、これからはスペイン語も話せる「バイリンガル」のアメリカ人が重要視されるのではないか。
日本人もアメリカとビジネスをするに当たって、これからスペイン語も学んだ方が有利ではないか・・・・


というようなことを考えました。

6. 何れにせよ、政治システムを支える「政党」については、日本では、原発にせよ、消費税増税にせよTTPにせよ、「政党」による明確な主張の違いがない、というか、民主党の中にも自民党の中にも、反対もいればそうでない人もいる。


これに対して、アメリカは(英国もむろん同じ)民主・共和の主張・理念・価値観・政策の違いがはっきりしている。

これは、当然といえば当然ですが、そもそも支持基盤が違う、つまり人種・富・性別・地域・職業・学歴等々の、実に多様な国民からなっている(あるいは英国であれば階級の問題)だからでしょう。


アメリカであれば、人口構成等の要因でその多様性と分裂がますます拡がっている、という難しい問題がある、
日本の場合は、「みんな同じ日本人」という意識を持っているにも拘わらず、現実には資産や男女や年齢や地域によって、多様性と分裂が進んでいる。
それを政治も社会も、まして「政党」もフォローしきれていない、という難しい問題があると思います。
どこの政党も「自分たちの支持基盤は〜だ」ということを明確にしないし、したくない、或いは出来ない。
これをどう解決したらよいか、私にはよく分かりません。
なぜなら「俺たちはアメリカのヒスパニック系みたいに(あるいは日系アメリカ人みたいに)、この国に新しく参入し、これから増えていくであろう、体制派とは違う新しい日本人なんだ」なんて考える日本人はいないでしょうから。
そこにいまの政治や政党に対する国民の不満の大きな要因があるのではないかと思います。つまり、多様性を認めて「俺たちは、彼らとは違う日本人だ」と考えられるかどうか?
私たち自身の問題かもしれません。