やはりアメリカ大統領選挙と上下院議会選挙。

1. 前回は古今集の「秋の巻」巻頭の歌「秋来ぬと〜」を紹介しました。
百人一首にもとられている〜」と書きましたが、これは間違いで、2人の方から指摘して頂きました。
定家卿が選んだ藤原敏行の歌はもちろん「住の江の岸による波よるさえや〜」ですね。

それにしても季節感の変わってしまったこと。
古今集の時代であれば、冬は陰暦で10月から12月。ですから10月1日、陽暦では11月8日(今年は7日)が「立冬」ですから、もう冬近きころ。
しかし今は、やっとこの頃になって「秋立つ〜」の感じですね。
数日前は、あまりに暖かくて、茶箱に家人が仕舞った夏用の半袖シャツを出そうかと迷ったぐらいです。

2. 立冬と言えば、11月8日はアメリカ大統領選挙日です。
このブログで、トランプ・ヒラリーの両者を取り上げたのは、5月1日が最後です。
翌週はサンダースについて書いて、以来大統領選挙には触れませんでした。
http://d.hatena.ne.jp/ksen/20160501
http://d.hatena.ne.jp/ksen/20160508/1462664669
両党の候補が正式に決まって、あまりに低レベルの戦いなのでうんざりして、以後興味を失いました。

しかし、2人のディベィトも終わり、立冬も近く、選挙前に1度は触れておきたいと思います。
米国「タイム誌」はこのところ毎週、トランプさんを取り上げて、他の大手メディアと同じく、痛烈に批判しています。

同誌は、まだ彼が共和党の候補者に指名される前の3月18日号から、彼を
bully(弱いものいじめ)」「 showman (芸人)」
「party crasher(党の破壊者)」「demagogue(扇動者)」と呼んでいました。
最近はこれに「womanizer(女たらし)」が加わりました。


3. 10月17日号は「真実はどこか他にある(The Truth is out There)」と題し、
翌24日号はついに「Total Meltdown」という表題でトランプが溶けていく写真を表紙に掲げました。「メルトダウン」はご承知のように原発の「炉心融解」という言葉で知られました。

(1) 前者の記事は、トランプ陣営が、真実とは程遠い情報を平気で流して続けているという批判です。


(2) 例えば、トランプ支持の某「ソーシャルメディア」は、「オバマ大統領が憲法を改正して、3期目に就任するつもり」という根も葉もない噂を流しており、結構これを信じている人がいる由。
(たしかに、ヒラリー・トランプともに不人気度が高く、むしろもう1回オバマさんがやった方がよいのではないか、なんて言ったら、どこかの国の首相が喜んでしまうかもしれず、やめときましょう)


(3) オバマ氏については、トランプ候補が「彼はアメリカ生まれではない」と言いだして、ハワイでの出生証明書まで提出する羽目になりましたが、トランプはこれを認めたものの、謝罪は一切なかった。
しかも、「(虚偽の情報を流すことで)打撃は十分に与えた。世論調査によると、今もオバマアメリカ生まれではないと信じている人が20%いる」とタイム誌は報じています。

(4) なお、ここに来てトランプ陣営は、「(政府・メディア・ヒラリー陣営などの)陰謀説」を盛んに流しています。


 この点に関しては、タイム誌8月29号が「大衆の暴虐、なぜインターネットは憎悪の文化に敗れたのか」と題して、アメリカ社会におけるインターネットの負の側面、「ソーシャルメディア」が如何に虚偽の噂に基づく誹謗・中傷・攻撃を流し続けているかを摘発していますが、この点は日本も似たような状況でしょうから省略します。

4. おそらく、トランプ氏に勝ち目はないでしょう。
しかし少なくとも40%の有権者が彼の言動に共感を持っている事実は無視できない。それは選挙が終わっても、「分断」という形でこの国にしこりを残すのではないかが懸念されます。


(1) トランプ氏の言動が共和党の主流派に与えた打撃は大きい。
従って、彼らは今、トランプとの距離を拡げて、大統領選での勝利は諦めて、議会選挙に全力を集中しているのではないか、と推測されます。

(2) アメリカの議会は、上院は各州2人ずつで100人、任期は6年、うち3分の1ずつ、2年毎に改選、下院は各州の人口割りで435人の定員、2年毎に全員が改選されます。

   過去、例えば、ビル・クリントン時代から12回選挙が実施されていますが、上院では7回、下院では実に10回、共和党過半数を制しています。
いまも、上下院ともに共和党が多数派で、いわゆる「ねじれ」状態となっており、オバマは望む法案が議会を通らないので、大統領に認められた特権を行使して、議会に諮る必要のない「大統領指令(executive order)」を乱発して、これがまた共和党議会の厳しい批判を浴びています。

(3) 議会選挙は大統領選挙と同じく、11月8日に実施されますが、共和党が最も懸念しているのは、トランプの負のイメージが、議会選に影響を与えることです。
事前の予想では、下院は数は減らしても共和党過半数はまず大丈夫。
他方で、上院は両党の大接戦が報じられています。

仮に、上院で共和党が敗北すれば、ヒラリーさんにとっては議会運営がやりやすくなる。
再度、共和党が上下両院で多数をとれば、オバマと同じく「ねじれ」が続き、しかも共和党の対決姿勢はさらに強まることが予想される。

しかも、トランプ支持者の不満や怒りは、残り続けるでしょうから、これにどう対応していくか。

今回明らかになったのは、共和党の「分断」のみならず、社会の「分断」「二極化」の状況でしょう。右と左に加えて、上と下との「二極化」です。
これを何とかまとめていこうとすると、
しばらくは、アメリカは内向きにならざるを得ないのではないかと懸念されます。
さて、日本はどうでしょうか?