春うらら、「源氏物語」の藤壺について語りました

  1. 東大駒場キャンパスの桜は、いまは八重が満開です。

良い気候で、あちこち出掛けています。

読書会の仲間7人の「源氏物語を語る会」もありました。お菓子を頂きながら楽しいお喋りです。

  1. 今回は2回目で、「藤壺中宮」についてでした。

藤壺光源氏との関係は物語の最重要の柱です。

(1)第一帖「桐壺」

―桐壺帝が寵愛した桐壺更衣は、生まれた光源氏3歳のときに死去。

帝は桐壺更衣と「そっくり」といわれる藤壺を妃に迎える。源氏は4歳年上の彼女を恋い慕う。

(2) 第五帖「若紫」―18歳の源氏は、藤壺に言い寄り密通を果たし、彼女は身籠ってしまう。

(3)第七帖「紅葉賀」―藤壺は男子(後の冷泉帝)を出産。

桐壺帝は自分の子(第十皇子)と確信、長男で東宮(後の朱雀帝)の後継者にするつもり。

(4)第十帖―「賢木(さかき)」―桐壺帝死去、朱雀帝即位。藤壺の子が無事東宮になるが別の皇子を擁立しようとする反対派の動きもあり、藤壺は出家する。(彼女の死去は十九帖「薄雲」で描かれる)。

――といった物語の流れです。

3.皆さんの活発な意見がでました。

もっぱら、<「藤壺」という存在をどう考えるか?>

私は以下の5つの論点を取り上げました(受け売りが殆どですが)。

 

(1)まず、いかにフィクション(虚構)とはいえ、

<『源氏物語』はなぜ帝妃の密通を書くことができたか>

――この点は、例えば今西祐一郎という九州大名誉教授の同名の論文参照。

(2)第二に、<桐壺更衣と藤壺中宮とがよく似ているという虚構>が重要。

――「血縁関係もない、他人である」二人が「そっくり」という設定が、その後の物語の展開を無理のないものにしている。例えば藤壺光源氏との間の子を、誰もが桐壺帝の子と信じて疑わない、など。

(3) 第三に、<源氏にとって最も重要な女性「紫上」も、晩年になって妻に迎える「女三宮」も、藤壺の姪である、という設定>

➡この3人がお互いに「似ている」のは不思議ではない。

かつ、彼女らは何れも、「先帝」の子ないし孫である。(「先帝」とはおそらく「桐壺帝」と父を同じくし、源氏の叔父にあたる人。彼は、桐壺の父(一院)のあと天皇になったが皇統は彼一代で絶えた)。

 

(4) 第四に、藤壺にとって源氏は、亡き桐壺帝の遺志を果たし、自らの子を皇位に就けるために守ってくれるパートナーとなった。

源氏も同じ思いであり、二人は共通の目的のために結束して反対勢力(藤原家がモデル)と対抗した。そのためにも「不義の子」であることを絶対に知られてはならなかった。

 

(5)そして最後に、秘密は守られ、無事に冷泉帝が即位する。しかし彼には皇子は生まれず、皇統は冷泉帝一代で絶えた。

➡これもまた、実にうまい作者の「設定」です。

4.「源氏物語」は「恋の物語」であると同時に「政治の物語」であり、前者を「女読み」、後者を「男読み」と呼ばれます。

 この二つを結び付ける物語の展開を辿りながら、読む(主に谷崎訳ですが)たびに、紫式部の物語作者としての技量にほとほと感心しています。