『円山応挙論』(冷泉為人、思文閣)を読む

1. 岡村さん、長文のコメント有難うございます。絵本に詳しいですね。やはりお孫さんとの関わりでしょうね。

今回は私は絵本ではなく、『丸山応挙論』(冷泉為人)という堅い本についてです。
昨年11月25日に京都の思文閣出版から出ました。9500円もする大著を恵贈して頂いたので、すぐに読んで感想を著者に送りました。一番早い感想文だったようで、その点だけは大いに評価されました。

冷泉家25代当主である著者の、美術史研究者としての50年にわたる日本近世絵画史の集大成」と「紹介」にあります。


2. たまたま、丸山応挙の作品で唯一の国宝「雪松図屏風」が、所蔵する三井記念館で
2月初めまで公開されており、それを記念して「美の巨人たち」というテレビ番組が1月20日「日本絵画の革命家円山応挙の国宝」と題して、この絵を取り上げました。ブルーレイに録画してあったのをやっと観る機会があったので、遅ればせながら冷泉さんの著書の紹介をしたいと思います。


テレビでも、「江戸時代の安永天明期」における京都画壇の中心的な存在であった」円山応挙(1733〜1795)は、「写生を重視し、伝統的な日本画にリアルを融合させて、革命的な表現を生み出した画家」と紹介します。

もっとも私は日本画など無学無知で本来語る資格はありません。
ただこの「屏風絵」が、三井記念館で公開される前に、京都の国立博物館の「国宝展」に展示されており、これを京都で観る機会があり、本書を読み進める上で大いに役立ちました。


3.著者は「はじめに」で「彼の研究を始めた大学の学部生の頃から数えるとほぼ50年が経つ。そこでいつも頭の片隅にあったのは「応挙の写生とは何なのか」ということであった」と書きます。この間書きためた論文をこの度大著にまとめあげた訳で、「冷泉家時雨亭文庫」理事長という要職にありつつ、研究を続けてきたことは立派だと思います。


本書は3部に分かれていますが、
第1部は、まず「第1章、江戸時代と絵画」と題して、

・日本絵画の特色に、「情緒性」と「平明性」と並んで「装飾性」があること。
・江戸時代の日本画にも、正統➡バロック元禄文化)➡ロココ(安永天明文化)➡デ
カダンス(文化文政文化)、という西洋美術になぞられた流れが存在すること。

が述べられます

応挙も江戸のロココ時代を生きた人です。
脱線しますが、私はロココの代表と言われるフランスの画家フラゴナールの「ぶらんこ」が好きな絵で、ロンドンのウォレス美術館にあるので、昔何度も観ました。

さらに言えば、フラゴナールには「読書する少女」という絵があり、ワシントンのナショナル・ギャラリーに展示されていますが、友人の神戸在高橋さんが、この絵をこよなく愛し、昔これを見たいというの理由でワシントンまで旅をされました。
こういう目的を持った旅っていいものだなと、その話を聞いた時に羨ましく感じました。


4.本書に戻りますが、第1部第2章は「知の集積」と「京都の文化的風土と安永天明文化」と題して、
(1) この時代に、日本画家は「外国からの新しい「知」の影響を受けてそれを日本風に展開させて革新的なものの創造に繋げたのである」

とあり、まさにここが著者の言いたいことの1つだろうと思いました。

(2) 円山応挙ももちろん彼本来の天稟と努力はあったでしょうが、それだけではなく、漢学・中国の絵画や蘭学・洋画から学び、この時代だからこそ生まれ得た画家だった、新しい「写生画」を創造することが出来た、と言えるのでしょう。


(3) そして、新しい「知」の影響とそれを日本風に展開させることがいかに大事かは、時代を問わず、絵画いわんや芸術・文化の分野のみならず学問一般、政治や社会について言えることだろうと思います。

「日本文化は、前の文化を活用しながら新しい時代の精神、思潮に合致調和させて新しい文化を創造してきた。つまり変容に変容を繰り返し繰り返し重ねて今日に至っている」という著者の言葉はまさに至言でしょうし、これは文化だけのことではないでしょう。

昨今の日本の政治・社会の風潮には、外国からの新しい「知」を学ぶという
姿勢、多様な文化や価値観から学ぶという謙虚さが乏しくなっているような印象を受けるのですが、どんなものでしょうか?


5.円山応挙の絵そのものを論じる本論、本書の第2部・第3部について、最後に簡単に触れますと、―――

(1) 第2部は応挙の絵の個々の特色や工夫について述べ、第3部では「応挙の写生」とは何か?を考えつつ、日本画と西洋との比較・違いにまで考察を進めます。
応挙の絵が写生であること、それは当時にあって画期的であり、日本独自であり、革新的であったこと、その写生表現は西洋の写実とは異なり、「しかけ」の工夫などをこらしていることなどを私なりに理解しました。

(2)そして改めて、日本と西洋美術との違いについて素人なりに考えました。

著者は恩師源豊宗先生の「西洋はヴィーナス、中国は龍、日本は秋草」という言葉を紹介しています。

 中国については浅学で分かりません。しかし「ヴィーナス(モナリザでもいいけど)と秋草(梅や松でもいいでしょうが)」は実に分かりやすい比較ですね。


(3)欧米の美術館に入って気づくのは、中世以降まず絵画は宗教画から始まった、と同時に、ギリシャローマ神話から画題を持ってくることに力を注いだという歴史だと思います。

これは当然に、人物が題材の中心になる、絵が物語性を帯びる、という二つの特徴で、とくに後者はキリスト教ギリシャ・ローマの物語を知らないと絵の背景や意味が分からないことが実に多いということです。

もちろん、日本でも人物画や浮世絵はあるし、「源氏物語絵巻」のような物語にのっとった絵もあるでしょうが、メインの主題は「花鳥風月」なのでしょうね。
それにしても、素人なりに、円山応挙の「雪松屏風絵」は良い絵だと思いました。
東京は、20日にまた雪の予想です。