トランプの再選戦略(タイム誌)と「テキサフォルニア」(エコノミスト誌)

1.昨年の今ごろは、近畿・九州で記録的な大雨がありました。今年も九州は大雨に見舞われました。

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我々は蓼科の田舎家にやってきましたが、日中はさほど雨は降らず、湿気の少ない気候で助かります。

体調もあって5月&6月に来られなかったので、今回早めにやってきた理由の1つに、畑の草取りがあります。

老骨に鞭打って二人で、畑に繁茂して、農作物の成長を阻害している雑草を抜き、畝がだいぶすっきりしました。

2.暫くは田舎暮らしが主になるのでたくさんの荷物を車に積んでやってきました。

その中に「タイム誌」(7月1日号)と「エコノミスト誌」(6月22日号)があり、どちらも表紙はアメリカです。前者は「人生の全ては賭けだった(My whole life is a bet)」と語るトランプ大統領の写真。後者はテキサス州カリフォルニア州を一緒にした新語「テキサフォルニア」です。

今回は、以下、アメリカの話題です。

f:id:ksen:20190626112055j:plain3.タイム誌の記事は、トランプが6月17日ホワイトハウスの執務室(オーバル・オフィス)に同誌の記者たちを招いて1時間の取材に応じたことを伝え、2期目を狙う彼の選挙戦略について論じたものです。彼が来年11月に行われる大統領選挙への出馬を正式に発表した前日です。

4.タイム誌の分析によれば、

(1)2期目を狙うトランプの戦略は基本的に前回と変わらない。自らの直感を信じ、それを選挙戦略の中心に据える「トランプ・ショウ」に終始するだろう。

(2)かつ、従来の大統領と異なり、今回も「例外的なスタイル」をとるだろう。

直近の2期を全うした3人の大統領(クリントン、ブッシュ子、オバマ)は何れも、党派を超えたメッセージによって国民に「結束」を呼びかけるのを常とした。

しかし、トランプは全く異なり、前例のないやり方で、自らの核となる支持者に訴え、かつ彼らの激しい怒りを引きだす戦術をとっている。

不法移民問題がその典型である。メディアへの、ムラー特別検察官への、民主党への怒りもそうである。

その特徴は、「人々の怒りの力」を信じること、「自分を支持する人たちを徹底的に囲い込み、反対派を取り込もうとしないこと」の2つである。

(3)アメリカが人種的にも思想信条でもいっそう多様化しているというのに、根っからのセールスマンであるトランプがこのように、決してより広い国民層に自分を売り込もうとしないのはまことに不思議である。

(4)トランプが再選に有利な立ち位置にあることは間違いない。好調な経済と景気もプラスに働いている。民主党が20人以上の候補者乱立で内輪事に時間と労力を費やしている間に、彼は自らの再選に的を絞って支持者受けする発言や施策を繰り返し、巨額の選挙資金を使うことだろう。

f:id:ksen:20190626112532j:plain(5)しかし、こういう「怒りの囲い込み戦略」が果たして今回も成功するだろうか?とタイム誌は、疑問も投げかけています。

彼のやり方は、戦前のドイツの政治学カール・シュミットの、政治とは敵と味方の区別が生じるところに成立するとする「友・敵理論」を思い出させます。トランプはそれを国内にも当てはめようとしている。

(6)他方で、民主党は現時点では、オバマ時の副大統領ジョー・バイデンが支持率でリードしていますが、6月27&28の両日、20人の公開ディベイトが実施されました。

TVで実況を眺めましたが、存在感は初日はエリザベス・ウォーレン上院議員)、2日目はカマラ・ハリス(上院議員、父は黒人、母はインド人)という2人の女性が際立っており、ディベイト後の支持率でバイデンに迫っています。

これから長い選挙日程、どうなるでしょうか?

f:id:ksen:20190628102111j:plain5.次に、エコノミストの14頁の特集記事「カルフォルニアとテキサス」です。

「二州物語(A tale of two states)」という、ディケンズの「二都物語(A tale of two cities)」をもじった副題があります。

カルフォルニア(加州)とテキサス州は、合わせてアメリカのGDP の4分の1、人口の5分の1強を占める。

・最大の、最も元気のいい、最重要な2つの州であり、双方ともに自分たちにアメリカの未来があると確信している。

GDPを他国と比較すれば、加州は単独で英仏を抜きドイツに次いで世界5位、テキサスはカナダを抜いて10位である。

・人種の多様化も進み、両州ともに非白人が白人を上回っている。

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6.しかし、両州のあり方は対照的に異なり、正反対の方向を目指している。

(1)加州は「進歩的」である。

民主党の王国であり、寛容かつオープンであり、気候変動対策、移民の受け入れなどに前向きである。公共サービスの質も高い。

貧困層への支援、高い技術と知識労働を身に付けさせる教育投資にも熱心である。

その分、州税は高く、規制は厳しい。州政府は強い権限をもち、高所得者に高負担を強いる。平均の住宅価格は高い。

➜加州はこういった良いところは残し、しかし、高い税金と「大きな政府」路線は変えるべきである、とエコノミスト誌は指摘します。

(2)他方でテキサスは「保守的」。共和党の強固な地盤であり、規制も緩やかでビジネスとも協調的であり、職の機会も多く、住宅も比較的取得しやすい。州税は低く、健全な財政路線は高く評価できる。

➜しかし、移民の受け入れ、少数民族貧困層、環境対策、産児制限などに対する後ろ向きの対応は改めるべきである。

7.このように2つの州はどちらも、多くの長所と問題点・弱点を抱えている。

(1)「エコノミスト誌」は、両州から学ぶべき点が多くあることを指摘した上でさらに、それぞれがそれぞれの長所を取り入れるのが望ましい、

とした上で、テキサスとカリフォルニアの良いところを取り入れた、目標とすべき仮想の場所・仮想の自治体を「テキサフォルニア(TEXAFORNIA)」と呼ぼうと言います。

f:id:ksen:20190626113007j:plain(2)いま、連邦レベルではトランプ流の政治・政策もあって、社会の「分断」があからさまになっている。だからこそ、両者の良いところを取り入れる「融合」をこの両州が地方レベルで志向し実現することに大きな意義があると主張します。

(3)そして最後に、長い目でみてどちらの州により「融合と変化」の可能性が高いだろうか?と考えます。

加州は、総じて理想に走り過ぎる傾向があることに加え、民主党王国が当面不変なこともあって、変化にやや硬直的ではないか。

他方で、テキサスは、ヒスパニック系や若者が増えて共和党の地盤が揺らぎ、民主党が勢いを増やしている状況もあり、もともと「実際的・現実的」な州民性もあって、変化に対してより柔軟ではないだろうか、と予測しています。

8.以上、日本とはやや縁の遠い話を長々と触れてきました。

しかし、

(1)「進歩・リベラル」と「保守」の実験場として、2つの大きな自治体が競い合っている状況を認識し、

(2)それぞれに長所があることを理解し、その「融合」の可能性を提案する「エコノミスト」誌の前向きの姿勢は、

私たち日本人にとっても考えさせられるところがあるのではないでしょうか。

そして、政治のトップ・リーダーの最大の責務は、同誌が言うように「融合・結束」を訴えることにあるのではないでしょうか。