またまたオルテガの『大衆の反逆』とミレニアル社会主義

1.世田谷羽根木公園の梅まつりも先週終わりましたが、六本木の国際文化会館の梅は満開です。

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2.「保守とリベラル」について、前回「世界のリベラルよ再び結集しよう!」という英国エコノミスト誌の呼びかけを紹介したところ、自称「真正保守」の我善坊さんからコメントを頂きました。

(1)その中で「保守の価値を唱えたオルテガを高く評価している」と書いていて大いに嬉しく思いました。

彼こそ最良の「リベラル」の1人と考えるからです。彼を評価する我善坊さんも「隠れリベラル」ではないでしょうか?

過去の私のブログを「オルテガ」で検索すると、10回以上彼に触れています。

 

(2) 今回もまた、代表作『大衆の反逆』(神吉敬三訳、ちくま学芸文庫)から引用します。

 

―――「自由主義的デモクラシーは、隣人を尊重する決意を極端にまで発揮したものである・・・」

自由主義は・・・権力は全能であるにもかかわらず・・・自分を制限し、自分を犠牲にしてまでも、自分が支配している国家の中に、権力、つまり、最も強い人々、大多数の人々と同じ考え方も感じ方もしない人々が生きていける場所を残すよう努めるのである」

(いまの為政者に、こういう言説を読んで、何かを感じてほしいですね)

 

自由主義とは至上の寛容さなのである。(略)それは、多数者が少数者に与える権利なのであり、したがって、かって地球上できかれた最も気高い叫びなのである。」

―――

これこそ、リベラル宣言そのものです。

f:id:ksen:20190305085426j:plain(3)ちなみに、ホセ・オルテガ・イ・ガセト(1883~1955)は2つの世界大戦の間から第二次世界大戦直後にかけて活躍したスペインの政治哲学者。27歳でマドリッド大学哲学正教授、政治活動と著述を続けたがスペイン戦争発生とともに亡命した。

ルソーの『社会契約論』が18世紀を代表し、マルクスの『資本論』が19世紀を象徴するように、『大衆の反逆』(1930年)は20世紀を表現している、と評されます。

 

(4)『オルテガ、現代文明論の先駆者』(色摩力夫中公新書、1988)という解説書には以下の紹介があります。色摩氏もまったく同じ理解です。

――「オルテガは、自分の政治的立場を規定して、常に、自分は「自由主義者である」と語っている。」

――「オルテガが、当時のファシズム及びボルシェビズムの勃興に直面して、「自由民主主義」を事あるたびに擁護した~~」

f:id:ksen:20190305085448j:plain(5) もっともオルテガを読むと、「保守とリベラル」とは意外に親和性があるな、と感じるところはあります。「右派右翼極右を保守と呼ぶことだけは、ぜひ止めて欲しい」という我善坊さんの願いは真面目に考えてみたいと思います。

しかしそれでも、「保守」という言葉の持つ特定のイメージは社会通念としてなかなかぬぐえませんね。アメリカであれば、共和党が「保守」で民主党が「リベラル」、そして前者は銃規制に反対、人口中絶に反対、LGBTの権利を認めない、国民皆保険にも反対、難民や移民の受け入れに警戒的、人種差別を解消する措置(たとえばアファーマティブ・アクション)にも積極的でない・・・・といったイメージが社会の共通認識になっています。

言うまでもなく、トランプ大統領誕生で、これらの「イシュー(論点)」について「リベラル」との分断はますます広がり、意見の対立は先鋭化しています。

「保守を右派右翼極右と一緒にしないでほしい」という我善坊さんの願いが、果たしてマスメディアを含めて一般に理解されるでしょうか?

 

3.ところで、もう一つの流れに左翼というか、「社会主義」があります。

英国エコノミスト誌が2月16日号に「ミレニアル社会主義」と題する5頁の論説と記事を載せていますので、この点を最後に補足します。

f:id:ksen:20190224114023j:plain(1) 「ミレニアル世代」とは、1980年ごろから2000年代初めまでに生まれた世代のこと。ミレニアルは「千年紀の」の意。生まれたときからデジタルな環境で育った若者である。金融危機や格差の拡大、気候変動問題などが深刻化する厳しい社会情勢のなかで育ったことから、過去の世代とは異なる価値観や経済感覚、職業観などを有する、と言われます。

(2) 1989年、ベルリンの壁が崩壊し、ソ連が解体し、その後、英国労働党のトニー・ブレアドイツ社会民主党シュレーダー首相は「第三の道」と称する中道路線に舵をきった。

 

(3) ところが、最近、この「ミレニアル世代」を中心に、社会主義の復活を期待する声が高まっている。

例えば最近の世論調査で、アメリカの民主党支持者の間で、資本主義を肯定する見方は50%を切り、他方で社会主義に対しては60%近くが肯定的になった。(写真)

エコノミスト誌2月16日号はこういう現象を「ミレニアル社会主義」と読んで、5頁の論説と記事を載せています。

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(4) 彼らが支持する政治家は、労働党の現党首ジェレミー・コービンであり、アメリカのバニー・サンダースであり、昨年の米中間選挙で最年少で下院議員に当選したNY州選出のアンドレア・オカシア・コルテス(AOC)です。彼らは、自らを「民主的社会主義者」と称しています。

サンダースは先の大統領選挙の予備選で、若者からは、ヒラリー・クリントンやトランプよりも多くの得票を獲得した。

AOCは、いま若者の熱烈な支持を受けている。

 

(5) エコノミスト誌は、1%の富裕層が世界全体の40%の富を保有しているといった現状をふまえて、こういう若者の心情に理解は示します。

また、彼らの主張が、日本では当たり前の国民皆保険制度など、さほど過激な施策ではないことも認めます。

しかし、彼らの主張する診断には留保をつけ、とくに処方箋については、その実効性や透明性、説明責任(アカウンタビィティ)への懸念などを理由に、強い疑問を呈します。

 

「われわれリベラルは、彼らの主張する施策には反対である」というのが、同誌の「ミレニアル社会主義(Millennial socialism)」と題する論説の結論です。

賛成か反対かは人によって異なるでしょうが、リベラルはこのように、過激な姿勢はとりません。

あくまで現実的に、漸進的に、中庸と寛容を大切に、草の根の努力で少しずつ改革し、「進歩=いつか、より良い、すべての人が自由と平等を享受できる社会が実現すること」を目指そう、とします。

それは、夢物語・理想論に過ぎないかもしれない・・・・

しかし、夢や理想を忘れて、生きることに意味があるでしょうか?

それにしても、英米の若者と比較して、日本の若者はいま何を考えているのでしょうか?