英国の総選挙、保守党の大勝利とエコノミスト誌

1.先週は、忘年会がひとつ、上野の都美術館内のレストランであり、夫人連れで集ま

る場所としては、なかなか良いアイディアだと思いました。ロンドン・コートルード美術館展の最終日の前日でした。

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2.私のブログは週1回なので、今回は1週間ほど前の出来事、12日の英国総選挙を振

り返りたいと思います。

 エコノミスト誌も週1回発行で、自国の出来事だけに、2週続けて大きく取り上げました。

(1) まず選挙前の「論説」で、与党の保守党も最大野党の労働党も支持できないとして、自由民主党(注:名前は同じでも、日本の自民党とは中身はまるで違う)支持を明確に打ち出しました。

(2) 支持の理由は同党の「EU残留」の主張と、気候温暖化対策・社会保障などの施策でも「本誌創刊の基盤であるリベラリズムにもっとも近い」という点にあります。

(3) さらに言えば、保守党の有利は選挙前から予想されていた。だからこそ、少しでもチェック&バランスを実現することが大事だという姿勢です。

(4) 結果は、保守党の予想以上の圧勝に終わりました。労働党自民党も惨敗しました。エコノミスト誌の失望がいかに大きかったか想像に難くありません。

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3.しかし結果如何に拘わらず、同誌のような「クオリティ・ペーパー」が、選挙前に、

与党に対抗する第三党を明確に支持して立場を鮮明にしたことは、英国では当たり前でしょうが、評価されて然るべきと思います。

日本ではメディアが「選挙で本誌は~党を支持する。何故なら~」と、立場を鮮明にすることはないのではないか。そんなことをしたら、即座にSNS上に下らぬ中傷記事があふれるのではないでしょうか。

 まず自分の意見・立場を明確にする、同時に「自分と違う意見」があることを認めて、お互いがフェアに・冷静に「ディベイト(論争)」するという文化はこの国には少ないのではないか、そんな気がしてなりません。

4.保守党圧勝の理由はご存知の通りです。

(1) 国民投票から3年半、「BREXIT」をめぐる迷走に国民が飽き飽きしていた。

 そこへ保守党がジョンソン首相による「離脱実現」で一本化し、その単純明快な主張で有権者に訴えた。

(2) 他方で労働党は党首の不人気もあり、政策も大衆受けする明快なものではなかった。「離脱」派の支持層も抱えていて、「残留」で一枚岩になれなかった。

この結果、従来の支持層が多く保守党に鞍替えした。

(3) この点は、長年にわたる労働者階級(総じて、低学歴・中高年、白人男性の肉体労働者)の不満が根っこにあり、たまたまそれが「EUからの離脱」をはけ口に保守党の支持につながった。

 因みに、英国在住のブレディみか子さんという最近活躍中の女性も書いていますが、

「この層は、政治的にもともとそんなに進歩的ではない。労働党を支持してきたのも別にリベラルとかいう理由ではなく、単純に自分の利益のために戦ってきたのだ。」

EU離脱は文化闘争なのではない。重要なのは労働者階級の価値観ではなく、生活水準なのだ。」

 だからこそ、数十年にわたって自分たちは無視され・疎外されてるという不満が、「もともと労働党の支持が強かったイングランド北部や中部の労働者階級の街でEU離脱派の票が上回るという事態を招いた」のであり、今回の選挙で「ジョンソン首相はこの層を労働党から奪うことを狙って」、まさに成功したと言えるでしょう。

f:id:ksen:20191216095148j:plain5,こうみてくると、今回の結果は2016年のアメリカ大統領選挙と似ています。

(1) アメリカでは、長年民主党の支持基盤だった東部・中西部の労働者階級が共和党に鞍替えしたことがトランプ勝利の大きな要因になった。

 今回の英国の選挙も同じで、その結果、本来、富裕層やビジネスエリートを支持基盤とする保守党(アメリカは共和党)は、伝統的な労働者層を取り込むことで内部に2つの階層を抱え込むことになった。

(2) 他方でアメリカの民主党、英国の労働党は、一部のインテリに加えて若者や女性、

少数民族貧困層を主体にして、より左傾化した。

(3) その結果、

・保守かリベラルかという区分けが明確でなくなった(ブレディみか子さんが「文化闘争や価値観の問題ではない」と言う所以)。

・中道が埋没して、右と左が両極化した(エコノミスト誌が支持するリベラルな中道路線の「自由民主党」の支持が伸びない)。

6. 選挙制度の問題もあります。米国は州をベースにした選挙、英国は全てが小選挙区制、かつ過半数でなくても単純1位で当選する。

(1) 2016年のアメリカ大統領選挙であれば総得票でヒラリー・クリントンが3百万票

も上回ったにも拘わらず、30州を確保したトランプの圧勝となった。

 英国では保守党プラス「離脱党」の総得票は全得票の46 %弱に過ぎないにも関わらず、大勝利となった(650議席の385と6割弱を獲得)。

(2) この結果、アメリカではカリフォルニアやニューヨークが、英国であればスコット

ランドや北アイルランドが割を食う、その結果、国の分断が深まる。

f:id:ksen:20191214135645j:plain7. これにさらに、トランプとジョンソンという特異な人物がリーダーだという点も加わる。両者ともに、政治家にもっとも必要とされるのは「責任倫理」であるとするマックス・ウェーバーの理念を体現するような人物では全くない。

8 .というようなことが、今回の選挙から浮かび上がってくる構図ではないでしょうか。

 ある友人から、「民主主義とか自由主義という、世界の指導原理だった思想に疑問符が付いたような最近の世界の動きに、不気味なものを感じます」というメールを貰いました。

 その点は多くの人が感じていることだろうと思います。

 ただ他方で、今回の英国総選挙を見て以下のようなことも考えました。

(1) たとえ少数でも、悲観的でも(選挙直前のエコノミスト誌の表紙と論説は「クリス

マス前に英国が見る悪夢」と題しました)、

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たとえ敗れても、自らを毅然として主張するメディアは健在であり、それを中傷したり、脚を引っ張ったりする風潮はない。

(2) 選挙によって、良くも悪くも社会が変わるであろう。

 EU離脱をめぐる混乱はまだ続くだろう。しかし、政治家も変化を意識して対応していくことが求められる(保守党は新しく抱えた労働者層を意識した政策を入れていくだろうし、労働党自由民主党は反省に立って従来の支持層の奪回を真剣に考えるだろう)。

(3) 対して、この国では、選挙で何かが変わるという期待が一向に持てないように思う

のですが、どうでしょうか?

 支持層の多数が従来の長年の支持政党から別の政党に鞍替えするというような事態が、将来日本でも起こり得るでしょうか?