1.今回は、週末に豪州がらみのイベントで家に居ないので、少し早めにブログをアップ致します。
前回は、5月18日に実施されたオーストラリアの選挙が面白いと書きました。
因みに、この国は日本と関係が深いのですが、その割に知られていないのではないかと残念に思っています。そんな思いもあってこの国の、ユニ―クな、「世界で最も完璧に近い選挙」と言う人もいる選挙制度について紹介しました。
事前の「予想」を覆した与党の勝利は、英国エコノミスト誌やニューヨーク・タイムズは辛口の意見も寄せています。経済を重視するあまり「気候温暖化」への対策が弱腰な与党の姿勢を批判しています。
保守的かつ改革に臆病・慎重だという指摘で、その点はそうでしょうね。ただ、中道路線ではあって、極右ポピュリズムでは全くない。同じ「予想外」の選挙結果であっても、トランプ勝利や英国ブレクジットと異なり、「人種差別、外国人嫌い、移民」などが争点にはなっていないーーこの点は英米のメディアも認めています。
2.「極右ポピュリズム&ナショナリズム」と言えば、5月23^26日に実施されたEU(欧州同盟)の立法機関である欧州議会の選挙です。
(1)EU(欧州連合)加盟国で5年に1度、4億人以上が投票権をもち、400の政党・約5000人の候補者の中から選びます。今回、英国も参加。
民主的な選挙としては、先般実施されたインドに次いで世界で2番目に大きな選挙。
(2)この選挙が果たして豪州の選挙のように面白いか?私が面白いと思ったのは、日本と英国のメディアとで報道の姿勢が少し違うなという点です。
3.日本では27日の夕刊が取り上げました。
(1)日経は「EU懐疑派が伸長、欧州議会選、仏・極右が第1党へ」です。
翌28日朝刊は「EU統合試練、懐疑派3割」という見出しで解説記事を載せ、「移民問題や財政規律などで対立が深まり、欧州統合にブレーキがかかりかねない」と危惧しています。
(2)東京新聞は、同じ27日夕刊1面で「親EU二大会派半数割れへ、仏伊極右第1党」の見出しで、2面には「極右伸長「すべてが変わる」。英離脱党が圧勝」と題して、フランスのルペン、イタリア、英「離脱党」党首の3人の得意満面の写真を載せました。
(3)これらの見出しも本文も、ほぼ間違いではありません。(「ほぼ」と書いたのは、後述するように、懐疑派は3割に達しなかった)。
(4)他紙の見出しと本文もほぼ同じでした。
しかも、これらの速報以後も、「EU懐疑派の政党が加盟国で勢力伸ばす」、「合意形成が困難になるとみられ、機能不全に陥る懸念もある」、「EUは岐路に立っている」(何れも29日)など、日本のメディアは、EUの不安定化を望んでいるのではないかと勘繰りたくなるぐらいです。
4.ところが、電子版で読んだ27日の、英国のエコノミストThe Guardian紙の2つのクオリティ・ペーパー、そしてロイター通信や日本のNHKに当るBBC,これらの見出しと本文は,ニュアンスを異にします。
(1)エコノミスト誌の見出しは―「欧州議会選で、ポピュリストは期待されたほど伸び
なかった。極右の政党は議席を増やしたが、その点は、リベラルと緑の党も同じだった」
(“Populists fall short of expectations in the European elections. Far-right parties have gained, but so have liberals and greens”)
(2)BBCは―「二大会派は過半数を得られなかった。増えたのは、リベラル、緑の党、そしてナショナリストだった」。
(3)エコノミスト誌の本文のさわりは以下の通りです。
・今回、投票率は51%、選挙開始以来の高い数字。
・確かに、極右ポピュリストは議席を増やした。しかし、数年前に彼らが欧州を席巻するのではないかと懸念された勢いは終わった。彼らはむしろ分断されている。
EU懐疑派あるいは超右翼は議員全体の21%から23%へと微増にとどまった。
・同じようにEU支持派も分断され、二大会派は過半数を得られなかった。リベラルや緑の党との多数連立を組むだろう。個々の意見の違いはあり、調整は時に難航することもあるだろう。
・しかし今回の結果は決してポピュリスト(&懐疑派)の台頭ではなく、EU議会がより新しい、多極化した様々な政党・意見の集合体になったことを示している。
5.日英でどうして、こんなに姿勢が変わるのだろうか?と考えると面白いです。
(1)いろんな理由があるでしょうが、日本のメディアは本件は所詮他人事であり、読者に面白い記事を提供したいという気持ちが働く。そのためには「極右・懐疑派が議席を増やした。EUの将来が心配だ」という記事の方が面白い。
(2)対して、エコノミスト誌などは、当事者としてより真剣にEUの将来を考えている。その立場からすれば、極右はたしかに議席を増やした、しかし予想ほどではなかった、同じようにリベラル&EU支持派も伸びた、と伝えたいと考えるのは当然でしょう。
(3)何れにせよ、読者に「面白く」読ませるという意識があまり強く働くのは少し無責任な感じがします。
(4)因みに、エコノミストは、「ヨーロッパの勝利だ。投票率は高く、EU支持派は強かった」というルクセンブルグ首相の言葉も引用しています。
(5)そもそも、同誌(紙媒体)は選挙前の5月18日号で「欧州議会選挙」について3頁の記事を載せています。
ここで同誌は、「ここ数年、EUに対するメンバー国の国民の信頼は上がっている。昨年9月の世論調査で、EUに肯定的な回答は62%、否定は11%に過ぎない」と紹介しています。そしてEU離脱(Brexit)をめぐる英国の混迷ぶりもその理由の1つにあるのではないかと推測しています。
6.最後に、その英国は,今回の選挙でどうだったか?
(1)ここでも日本のメディアは「離脱党が第1党」を強調した。
(2)他方で英国のメディアは、「既成の保守・労働の2大政党が歴史的な惨敗。「離脱党」が第1党だが、「残留を支持する自由民主党(日本の自民党とはまるで違います)と緑の党が同じように票を増やした」と伝えました。
(3)この点をGuardian紙によると,
・英国での投票率は37%で平均51%を下回った。
・45日前に結成されたばかりの「離脱党」がトップになった。
・しかし、「保守・労働」を除いて「離脱」組と「残留」組をそれぞれ合計した投票は、前者が5.9百万票、後者6.8百万票で、「残留」が上回った。
・仮に、保守党に投票した人の8割、労働党の4割が「離脱」と推定して両者の票を加えても、8.1百万票対8.7百万票と「残留」が上回る。
・しかし、Brexitをめぐって英国の世論が依然として真っ二つに分断されていることは事実であり、混迷はさらに続くと懸念される。
・問題は、離脱派は「離脱党」に的を絞って支持し、残留派は、リベラルや緑の党など分裂したこと。
かつ、前者は離脱党のファランジ党首や保守党のボリス・ジョンソンのように、(見かけが派手な人気取りの得意な)「表看板(figurehead)」を抱えているのに対して、残留派にはそのような存在がいないことである。
(4)このように、一貫して「英国のEU残留」を支持しているリベラルなThe Guardian紙は、現状を冷静に分析しつつ、今後の更なる混迷に大いに懸念を表明しています。
メイ首相の辞意表明を受けて行われる保守党の党首選では、この離脱強硬派のジョンソンが最有力との予想だそうです。ここでも「予想外」が起きるといいのですが・・・・
PS.冒頭に写真を載せたように、我が家のおんぼろ車には、高齢者マークと一緒に、なぜか昔からEUのスッテカーが貼ってあります。