1,日本時間の昨日、アメリカの最高裁判事、ルース・ベーダー・ギンズバーグ(RBG)が87歳で死去しました。この時期の彼女の死はアメリカにとって大きな事件です。5月31日のブログで彼女を紹介しました。
https://ksen.hatenablog.com/entry/2020/05/31/081606
主要メディアは「先駆者」「チェンジメーカー」と呼び、「アメリカのICON(偶像)だった」と追悼しています。
選挙の直前にも拘わらず、大統領と上院共和党は後任を決める方向で動いています。ニューヨーク・タイムズは社説で、「彼女が成し遂げた輝かしい成果が脅威にさらされる」強い懸念を表明しました。
後任人事を強行すれば、民主党は猛反発するでしょうが、トランプにとっては3人目の判事を指名する機会を得たことになり、最高裁の保守化は一層確実になります。
民主党の反発には理由があります。1人目ゴーサッチ判事を任命したとき、実はオバマ在任中2016年2月に前任スカリア判事が死去したにも拘わらず、共和党が多数を占める上院が後任指名を引き延ばし、2017年トランプ大統領が就任してから保守派ゴーサッチを選んだという、強引な前例を作りました。今回これを理由に民主党は新大統領での指名を主張するでしょうが、トランプと上院共和党は応じないでしょう。分断はますます深まりそうです。
2. 15日にはもと職場の同期会があり、アメリカ大統領選の話題でした。
毎月開催で200回以上続いていますが、3月からお休みでした。場所は神田の如水会館で、今回から昼の会に代わり、12人出席。距離を空けて座り、マイクを使いました。
かなり真面目な同期会でテーマを絞って話合います。今回はあと2か月を切ったアメリカの選挙について。アメリカ勤務の長い某君がニューヨーク・タイムズなどから集めた丁寧な資料を作ってくれました。
ーーオバマ政権時の副大統領だった民主党バイデン(B)と再選を狙う共和党トランプ(T)の争いの、二人の主な政策の違いは以下の通り。
・人種差別――Bは、差別解消を訴え、警察改革の推進も。
Tは、「法と秩序」を理由に過激な行動を取締る。
・税制――Bは法人税を28%に引き上げる、富裕層の課税強化、社会保障の充実。
Tは、35%から21%に大幅に下げた法人税をさらに減税する。
・環境――Bは、パリ協定復帰、環境インフラで4年で2兆ドル支出。
Tは、規制緩和で石油ガス施設の建設推進。
・外交――Bは同盟国との関係深化、アメリカの指導力を取り戻す。
Tは、米国第一主義堅持(同盟軽視、反自由貿易、反グローバリズム)。
・対中政策――Bは強硬策は変わらないものの、同盟国と共同での圧力を重視。
Tは、大国間競争と意識し、一方的な制裁関税で圧力。
3. 現時点の直近の支持率の差は、民主党のバイデン(以下B)支持49.0%、対して共和党トランプ(T)支持43.1%で、その差5.9ある。
(1)選挙は州ごとの選挙人獲得数になるので、全体の支持率では予測できないが、州ごとの支持率の合計でも、バイデンが3.7ポイントリードしている。
かつ、オハイオ、ミシガン、ペンシルベニア、フロリダといった、選挙人数の多い激戦州で何れもバイデンがリードしている(2016年は、この4州何れもトランプが僅差でヒラリー・クリントンを破った)。
(2) 以上から、現時点では「バイデン当選の確率大」というのが、講師の見立てでした。
(3) ただし、投票率は毎回6割弱で、とくに民主党支持層である黒人やヒスパニックの投票率が低いという不確定要因はある。
またバイデンと組む副大統領候補のカマラ・ハリスが、黒人とインド系の両親で女性という売り込みにも拘わらず、黒人の間の人気がいまひとつである。
現職にも拘わらず、トランプ支持が伸びない理由は、言うまでもなく、・コロナ対策の失敗、・黒人差別に対する抗議の動きと国民の分断、・景気の悪化、の3つ。
3.今回の選挙は、上院・下院の両議会の選挙も行われます。
下院(定数435名、民主232、共和197)は全員が改選。
上院は定数100名(民主47名、共和53名)のうち35名が改選され、改選議員の内訳は民主12、共和23。
上院では改選議員の多い共和党に不利に働くとみられており、上下両院とも民主党が過半数を握る可能性あり。つまり、大統領・両院を全て民主党がおさえる「トリプル・ブルー(青は民主党のシンボル・カラー。共和党は赤)」も夢ではない(しかし司法は、一層保守化する)。
4. このあと出席者の間で活発な話し合いがありました。アメリカ勤務者も多いので、国際問題への関心は高いです。
アメリカの場合、二大政党の間で激戦になることが多く、常に政権交代の可能性があり、野次馬でも気になります。与野党が競い合う状況が民主主義の土台ではないでしょうか。
国民が直接選び、民主・共和両党の政策の違いが明確に可視化されていることも大きいと思います。
5.私は以下のような質問をしました。
(1)仮にトランプが敗けた場合、彼の性格として敗戦を「郵便投票」などを理由に認めないかもしれない。その結果、選挙で決着がつかずに最高裁に落ち込まれる可能性についてどう考えるか?」
(2) 「よほど僅差ならともかく、敗けを認めないのは難しいのではないか」というの
が、講師の回答でもっともな意見だと思います。
(3) ただ、前例はあります。2000年、アメリカ大統領が史上初めて最高裁によって選ばれるという「ブッシュ対ゴア」事件がありました。フロリダ州の再集計をやめるという決定を不服としてゴア側が訴訟を提起。最高裁は5対4のきわどい判決で同州の決定を支持し、ブッシュの勝ちを認めました。
この判決をゴアも「同意できないが、決定には従う」として受け入れました。大統領候補といえども最高裁の決定には従う。このあたりは「法の支配」が徹底していると言えるでしょう。こんな事態にならないことを願いますが、何をやるかわからないトランプだけに気になります。