米大統領選まで4カ月弱と「リンカーン・プロジェクト」。

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1.前回のブログは、キング牧師ロバート・ケネディ暗殺の年の思い出を書きました。以下は頂いたコメントです。

(1) Masuiさんは同年齢ですが、ちょうどこの年西ドイツの大学で勉強中、プラハの春で欧州が揺れている状況を身をもって体験されました。毎日ラジオ放送にかじりつき、不安に駆られ、恐怖も大きかった、忘れられない経験だったと書いておられます。

たしかに、1968年は世界的に激動の年でした。日本でも学生の抗議デモで揺れました。

(2) 京都の飯島さんと岡村さんからは、アメリカと黒人問題についてです。

飯島さんは目下、同志社女子大で「アメリカ地域研究」を受講中。「女子大」というのが羨ましいですが、ハリエット・タブマンの話を書いて頂きました。

彼女は、南北戦争の前、自ら奴隷だったが逃亡し、その後逃亡奴隷の援助などに生涯を捧げました。

オバマ時代に、黒人女性として初めての20ドル紙幣の肖像画に決まったが、その後トランプ大統領はこの実施を延期しているというニュースは飯島さんのコメントまで知りませんでした。

 因みに、彼女を主人公にした映画「ハリエット」は、コロナのお陰で日本公開が遅れ、いま上映している筈です。

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(3) 最後に、岡村さんは、私が最初のアメリカ暮らしの頃、同国やメキシコなど旅していました。黒人問題がからむ本2冊を読んだというコメントです。

『私のように黒い夜』(ジョン・ハワード・グリフィン)とアンジー・トーマスの『ザ・ヘイト・ユー・ギヴ』です。

前者は有名な本ですが、私は読んだことはありません。1959年、まだ差別が強烈に残る南部を、自ら肌を焼いて見かけは黒人になり人種差別を身をもって体験するという白人男性の壮絶なルポルタージュです。

 後者は、本の存在も知りませんでした。「幼馴染みのカリルが、白人警官によって射殺される現場にいたスター。汚名を着せられたカリルの無実を訴え、憎しみの連鎖を断つために、スターは立ち上がることを決めた」とはアマゾンの広告です。本国では賞を受賞し、2018年邦訳。

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2, 以上、ご自身の体験やアメリカの黒人問題への関心などを伺い、大いに勉強になりました。

(1) それにしても根深い問題です。

タイム誌は、新型コロナウィルスの拡がりと警官による黒人殺害事件の根っこにあるのはともに「人種差別」という共通の問題だと指摘します。

(2) しかしコロナについて言えば、差別は黒人だけではない。

同誌は、「私は黙っていない」という10人のアジア系アメリカ人がニューヨークで差別にあった体験談を長い記事にしています。「阪口はるか」さんという写真家の日系アメリカ人が1人、あとは中国系・韓国系のアメリカ人で、被害者は若い男女、加害者は中年以上の白人の男性です。

コロナがらみで、罵倒されたり、脅かされたり、トイレでつばを吐かれたり、殴られたり、嫌がらせにあったりという体験です。

(2) 他方で、英米のメディアはミズーリ州セントルイスの抗議デモに銃を向ける夫婦のヴィデオを公開して話題になっています。

https://www.bbc.com/news/av/world-us-canada-53226495/couple-stands-in-front-yard-to-point-guns-at-protesters

大邸宅の前の私道をデモ隊が入ったことに怒った夫婦が、夫はライフルを、妻はピストルを持って威嚇している姿です。

 デモ隊にも行き過ぎた行動があったでしょうが、さすがにやり過ぎだという夫婦への批判も多いようです。それにしても、普通の市民(傷害専門の弁護士だそうです)が当たり前のように銃を振りかざすアメリカ社会にはあらためて驚きます。

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3.こういう事態になる理由に、再選を目指す現職のトランプ大統領が、宥和と連帯を訴えるどころか、むしろ分断をあおるような発言を繰り返していることがある。(前回紹介した、52年前のロバート・ケネディの呼びかけといかに異なるか!)。

彼にとっては岩盤支持者を大事にという戦略でしょうが、さすがに共和党の一部からも批判が出ています。

今回は、最後に「リンカーン・プロジェクト」について報告します。共和党の中から公然とトランプに反対し、民主党ジョー・バイデン支持の運動を始めました。

(1)「リンカーン・プロジェクト」は、スーパーPACと言われる特別政治資金管理団体として昨年末に設立された。企業や個人から寄付を集めて、それを反トランプの選挙運動に使うというもの。

https://lincolnproject.us/

(2)話題になったのは、設立者が元ブッシュ大統領や大統領候補になったマケイン、ロムニーなどの選挙参謀やアドバイザーだった人たちだということ。

リンカーン当時の本来の党に戻そう」という理念で「2020年にトランプとトランピズムを打ち負かす」をスローガンに「この11月は、アメリカかトランプかの選択だ」と訴え、ソーシャルメディアを駆使した運動を行う。共和党内部の造反ともいえ、異例の動きです。

(3)例えば、1984レーガン大統領が選挙運動に使ったスローガン「Morning in America(アメリカに朝が来る)」をもじって」「Mourning in America(アメリカは喪中だ)」と題した1分のツィッターを流す。主なターゲットは長年共和党を支持する白人男性であり、「今回限りは民主党候補を応援しよう」とするもの。

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(4)アメリカのメディアNBCが7月7日付の記事でこの最新の動きを伝えています。

――当初はさほど注目されなかった。しかしコロナ感染や人種差別抗議デモの拡がりの中でのトランプの言動に呆れ、反発し、その結果寄付が急激に増えている。

従って「プロジェクト」の、ソーシャル・メディアによる反トランプの活動も勢いを増している。「資金収入が増えてきたのは彼のお陰だよ。我々の政権だったら、彼を(論功行賞で)スロベニアあたりの大使に任命したいぐらいだ」とジョークを飛ばす責任者もいる(スロベニアはメラニア夫人の母国)。

(5) もちろん、このような共和党内部の内輪もめに批判的な意見もある。何が起ころうとトランプの岩盤支持者は変わらないだろうから、「プロジェクト」の影響力は小さい、と冷ややかに見る向きもある。

しかし、これから11月に向けて、ひょっとしたら「台風の眼」になるかもしれない、とNBCは今後も彼らの動きを注視していくようです。