タイム誌9月5日号「素晴らしい子供たちの秘密(The Secret of Super Siblings)」


1. 前回の「トランプに失望」のブログには、フェイスブックから珍しく多くの方からコメントを頂きました。有難とうございました。

教えて頂き、私の間違いも1つ分りました。十分調べずに、トランプはペンシルニア大学ウォートン校という名門ビジネス・スクール卒と理解していましたが、実はペン大卒だが、ウォートン卒ではない、つまり「学士」であって「修士MBA)ではないようです。

最近のアメリカは高学歴社会ですから、これはちょっと珍しいですね。クリントン夫妻もオバマ法科大学院卒、ブッシュ・ジュニアはイェールのビジネス・スクール卒MBAです。
何れにせよ、トランプもブッシュ・ジュニアと同じく、「法律」ではなく、実利思考の「ビジネス」を学校で学んだ人物ではあるでしょう。


2. そのトランプさん、選挙が終わってもアメリカの主要メディアは、連日関連の記事満載です。タイム誌も英国エコノミスト誌も直ちに特集を組みました。

エコノミスト論説は「トランプの時代」と題して、内容は省略しますが、「彼の選出は、本誌を含めて全てのリベラルに対して「ノー(rebuff)」を突きつけたのだ」と嘆きます。

ということは、日本はいまや大勢が「保守」のようですから、「ノー」と言われたと思っていない人が多いかもしれません。

その日本では早速首相がNYに会いに行き(異例の早さで)、他方でオバマは最後の外国訪問でメルケルに別れの挨拶をする・・・・同じ日の2つの行動は象徴的ですね。
”Japan’s Abe calls Trump ‘a leader I can trust’”
は、FTの見出しです。


3. この話ばかりしているといささか気がめいるので、アメリカの少し明るい話題を紹介したいと思います。9月5日号の特集記事「普通の家族と飛びぬけた子供達の物語(Ordinary Families. Extraordinary Kids)」です。
記事は普通のアメリカ人9家族を取り上げ、その子供達がいかに素晴らしい成功を収めたかを紹介し、その共通点は何か?を探ります。
まず、取り上げる前提条件は以下の通りです。


(1)親が資産家の子供は除外する。普通の(時にはごく貧しい)両親であること。

(2) 子供達が全て違う職業についている事例に限り、かつ「全員」が成功していること。
(3) 「成功」の定義は、名声やお金よりも、リーダーシップや業績を重視する。

(4) DNAも大事だが、むしろ、ダイナミックな育ち方や子供同士の関係に注目する。
以上です。

4. そして多くの家族に共通する特徴として、以下の6つを指摘します。

(1) 両親が移民であること。
――7家族がそうです。残り2家族は黒人とユダヤ人。移民には中国人も1家族含まれます。


(2) 親が教育者である事例が多い ――やはり7家族が該当します。
教育者といっても、大学教授から幼稚園・小学校の先生まで多様です。そして、例えば、
小学校の先生をしていた・ある母親は「0歳から5歳までの育て方がいちばん大事」と語る。

(3) 何らかの形で、親が政治活動・公民活動をしていた事例が多い
タイム誌は、例えば、60年代のシカゴで親が公民権運動に参加していた事例など幾つも紹介して、子供は小さい時から「世界は変えられる」という感覚を持ったことが大きいのではないか、と考えます。


(4) 小さい時から、戦うことを目にしたり・学んだりしたりする厳しい(場合によっては治安の悪い)環境に育った子供が多いこと。

・しかも自分自身、決して優等生の少年少女ではなかった事例が多い(未成年の飲酒、マリファナや、万引き、10代の妊娠まで経験した事例がある)
・周りの環境が劣悪で、暴力が珍しくない環境で育った子供も多い。
・子供同士の兄弟・姉妹けんかも珍しくなかった・・・・


(5) 人の死(mortality)について子供の時から経験した事例が多い。
・例えば,13歳で死んだ末の妹の存在が大きな影響を与えた事例、あるいは、
・劣悪な環境で、自宅の真ん前で従妹の女性が射殺された事例など、
彼らのすべてが、若死(untimelyな死)を身近に経験している。

(6) 最後に、全てに言えることとして、子供時代が実に自由だったこと。
モンスター・ペアレンツ(アメリカでは「ヘリコプター・ペアレンツ」と言います)はどこの家庭にもない。周りの友人の誰よりも、自由放任だったと口をそろえる。

・例えば、学校に行きたくなければ行かなくともよい。好きなことに時間を使えばよい
(ある男性は、そういう時、一人でよく詩を作ったそうです)。
・また、子供に小さい時から責任を持たせ、自主性を尊重する。
・例えば、ある家庭では、長女だった5歳の時に、親に言われて度々、自分一人で、4歳と生まれたての2人の妹の世話を任された由。
・また、小さな女の子たちが自分だけで自転車に乗って1マイル(1.6キロ)も離れた雑貨屋まで買い物に行く姿を見て、近所の人は目を向いた、という。


5. ということで、本当は、こういう具体例をたくさん紹介すると面白いと思うのですが、紙数の制約もあり、事例は最小限にとどめ、一般論に整理する字数が多くなりました。

もちろん、アメリカとは、社会の構造も環境も国民性も人種構造もまるで違いますから、比較にも参考にもならない、と考える人が多いだろうと思います。

しかし

(1) こういう話題を「タイム」という、ドラッグ・ストアや空港の売店やどこにでも置いてある、ごく一般的な週刊誌で取り上げるのは、結構真面目な編集方針だなと思います。
(2) それと、分断も格差も治安も差別も、日本よりはるかに重症で、大きな問題を抱えている、「アメリカン・ドリーム」なんて死んでしまったと感じている人が増えているこの国で、何とか明るい話題を提供したいという想いを感じるのですが、如何でしょうか?