東山散歩・ゴスペル・歴史小説リンカーン

いろいろ所用があって11月の初めから10日ほど京都に滞在しています。

紅葉はまだですが、週末は気持ちよい小春日和で、柳馬場姉小路の理髪店
で散髪をしてもらったあと、東山まで往復を歩き、法然院(上の写真)の近く、

鹿ケ谷通りにあるカフェ「ゴスペル」(下の写真)で休憩しました。
まさに「パブ」感覚で1パイントのビールでひとり読書の時間。

このところ、歴史小説家として著名な
ゴア・ヴィダル1984年の作品『リンカーン』を読んでいます。


リンカーンが歴代の中でもっとも偉大な大統領だというのがアメリカ人の
大方の見方だと思います。


彼を主人公にした「歴史小説」ですが、これがたいへん面白い。


(なぜか?)


1.「小説」と言う以上、大統領と夫人や秘書官との、閣僚や政治家との、
あるいはチェイス財務長官と最愛の娘ケイトとの会話等々
伝記と違って臨場感をもって書いているので飽きない。


2.しかも著者が「あとがき」で述べるように歴史的な事実はいっさい
変えていないし、主要な登場人物もすべて実在の人物である。
かつ「彼らの言動も、少数の例外を除いて事実と大きく違わないはずである」。
従って当然ながら、例えば徳川家康
早死にし、影武者が後を継いだというような「伝奇小説」とはよくも悪くも
全く異なる。


3.物語は、リンカーンが大統領に当選して首都ワシントンに到着した1861年
2月から暗殺される65年4月までの4年間に絞っている。伝記であったら
こうは行かないのでどうしても、「集中と選択」がうまく利かない。

4.語り手は、主として
(1)大統領の秘書官である若いジョン・ヘイ(後のルーズベルト内閣の国務長官

(2)国務長官のウィリアム・スワード(もとニューヨーク州知事)

(3)財務長官のサーモン・チェイス(もとオハイオ上院議員

(因みに、スワード・チェイス2人とも、1860年の大統領選挙で共和党
指名を狙って、リンカーンに敗れた。
しかも第1回投票ではスワードがトップでリンカーンは2位だった。
南部11州が合衆国から離脱して「南部連合」を結成し、戦争が始まり、
当初は、南軍のほうが優勢で、北軍は苦戦を強いられ、戦争およびリンカーンへの
批判が強まる中で、この2人は、64年の大統領選挙で再びリンカーンに挑戦し、
自らが大統領になるという野心を捨てていない)


(4)そして、リンカーン暗殺グループの1人(首都にいながら
南部に味方しスパイ行為を続けている若者)

の4人の視点で語られる。
従って主人公のリンカーンはあくまで彼らが理解するリンカーンであり、
この仕掛けと語り口が読みやすくさせている。

ということでしょうか。


(それなら、なぜ今ごろ、リンカーンなんていう異国の、歴史上の人物に興味を
持ったのか?というと)
私事で恐縮だが、


1. 昔から、購入して何れ読みたいと思っている本がたくさんある。
ブログでたびたび紹介した『逝きし世の面影』(渡辺京二)もその1つだが、
リンカーン』(ゴア・ヴィダル)は、もっと昔、ちょうどNYに勤務中に
出版され当時から非常に評価が高かったので、ぜひ読みたいと思って
買ってあった。


2.4月から有難いことに時間の余裕ができたので、こういった「ツンドク」に
なっている書物を少しずつ、手にとる楽しみが増えた。

それでも、


3.なぜ、今になって「リンカーン」なのか?ということだが、


僭越ながらやはり、いまの日本の政治状況も多少は関係するのではないか?と思う。


(1) 自分では、50年前、大学生の時に安保改定をめぐるデモに参加して以来、
政治に対する関心をなくし、ノンポリを自称している。
とくに,いわゆる「時事問題」というか、現在の政治状況についてフォローも
まともにしていないし、庶民として何か意見を言う資格もないし、
言うことを恥ずかしいとも感じている。


(2) しかし、一国の政治とそれをつかさどるリーダーの存在が
どんなに大切かは理解しているつもりである。
その点で、異論のある人も多いだろうが、戦後の日本を振り返ってみて、
「傑出した」政治リーダーがあまりにも居ない・・・ように思われる。
(日本は第2次世界大戦で、多くの優秀な日本人を
失ってしまったからではないか、とさえ思う)



 この点は、私の勉強不足かもしれないので、こんなに優れた政治家が
日本にも居るのだという意見があったら、ぜひとも教えてほしい。


(3) そういう時に、世界と過去を見渡して、(もちろんこれも私見だが)
「一国を救った人物は居たのだ」という感慨を持って振り返るとしたら、
その人物とは、アブラハム・リンカーンウィンストン・チャーチル
の2人に尽きると思う。
塩野七生さんだったら、ジュリアス・シーザーを加えるだろうが)


繰り返すが、日本人のくせになぜアメリカとイギリスなのか、
といわれるかもしれないが、日本にそういうリーダーが居たか?
不幸にして私には思いつかない。



(4) もちろん、この2人は、それぞれ米国・英国の、国が滅びるかもしれない
という未曾有の国難に対処した、しかも戦争を戦い抜いたリーダーである。


従って、戦後65年、「平和な」日本とはまったく状況が違う、平和時には
誰が総理大臣でも大して変わらない、誰がやっても同じだろうという意見も
あるかもしれない。


(5)しかし、果たしてそうだろうか?
戦時と平和時との大きな違いを超えて、我々庶民として、
・ 彼らから学ぶことはないだろうか?
国難のときに、こんな人物が過去にどこかに居たという歴史を理解する
ことは何の意味もないことだろうか?


(6)日中だの尖閣だのヴィデオ流出だの、そういう「時事問題」には
ほとんど関心を持っておらず(良くないこととは思うが)新聞もまして
テレビもほとんど見ていませんが、



一庶民として、せめて、リンカーンの歴史を読むことで、
将来日本にもこういう政治家が生まれるかもしれないと、この国の未来に
勇気と希望を持ち続けていきたいと考えています。