「キーワードは多様性」とロンドン市長「市民カーン」

1, 我善坊さん、長文のご説明有難うございます。
諏訪大社については、以下のような研究が定説になりつつあるようですね。
「祭神が建御名方(タケミナカタ)神に固定されたのは明治になってから」、
「柱立てという行為は世界中の原初的な信仰にみられる」
「縄文の血脈を受け継ぐ御柱祭
他方で、フェイスブックでは、「お祭りで命を落とす「危険な祀り」はこれだけではなく、日本には多い」という指摘も頂きました。

大和政権前の「この国」を考えると、そこには「単一民族・日本」とは違う多様性ある日本の姿が想像されて、面白いです。


2. 今回は「多様性」をキーワードに、5月9日に誕生した新しいロンドン市長の話です。
何れも最新号ですが、タイム誌(㋄23日号)は「市民カーン(Citizen Khan―オーソン・ウェルズ監督・主演の名画「市民ケーン」のもじりでしょう)」、エコノミスト誌は「ドナルド・トランプの悪夢」と題して、彼が登場した意味を論じています。

日本でも報道されている通り、サディ・カーン氏は45歳、パキスタンからの移民の長男、父親はバスの運転手、母親は裁縫師、低所得者用の市営住宅で生まれ・育ち、治安が悪いので、自衛のためにボクシングを習ったそうです。


人権派の弁護士を経て、国会議員になり、労働党内閣では大臣にも。
行政区としての大ロンドンが統合されて、2000年以来選挙で選ばれるロンドン市長の役職が出来て、彼は3人目。

人口9百万人(うち44%が非白人)が住み、直接選挙で個人が選ばれる公職としては、欧州ではフランス・ポルトガルの大統領についで3番目に多い地位だそうです。前任は、保守党のボリス・ジョンソン。彼はいま、キャメロン首相に対抗して、EU離脱の急先鋒。キャメロンの後を狙う有力な1人と目されています。


カーン氏はEU残留支持です。
今回の選挙は、保守党の対抗馬の獲得投票43%に対して彼は57%と圧勝でした。

綱領は、
(1) 多民族・多文化の社会をいっそう目指す
(2) 人種や宗教の間の緊張を和らげる。
(3) 統合の成功と失敗とを具体的に検証する

3. 以下両誌の書いていることですが、
エコノミスト小見出しは「彼の勝利(win)は、啓蒙されて、成熟した無関心(indifference)の勝利(victory)だ」とあります。

ここで「無関心」というのは、彼がイスラムかどうか気にしない、ロンドンはそういう社会になりつつあるということでしょう。他方で、WinとVictoryはどう使い分けるのかな?と考えました。英語は難しいですね。


また同誌は、以下のエピソードから始めます。
―――カーン氏が大臣を務めたとき、枢密院という女王への諮問機関(名目的な存在だが)に出席することになり、そこでは発言への宣誓が必要となる。
「宣誓には、旧約、新約、どちらの聖書を使いますか?」と訊かれて「いや、私はコーランです」と答えた。


ところがバッキンガム宮殿にはコーランの備付けがなく、彼は自分で持参した。
終わって返却しようとすると、彼はこう答えたという。「次の人のために、置いておいて頂けるでしょうか?」


このエピソードで始まり、以下の文章で終わります。
―――ドナルド・トランプはおそらくヒラリーに負けるだろう。しかし彼が決定的に敗北するのは、
バッキンガム宮殿に、もう何度も使われたコーランが置かれ、しかも誰もがそんなことに「無関心」になった、その時なのだ。

因みに、大統領になったらイスラムの入国を禁止すると主張しているトランプは、「カーン氏は例外だ」と語ったそうです。
そしてカーンは「私を例外扱いしないでほしい」と直ちに反駁したそうです。


4. 両誌は続けます。
もちろん、彼の勝利の意義は、トランプ的思考と行動に対するだけではない。


大事なのは、西欧で、偏見と差別に苦しみ、不満と怒りを抱え、最悪の場合過激主義に惹かれていくアラブ(だけではないが)の若者たちに、
「英国人でムスリムで、しかも成功することは不可能ではないのだ」というメッセージを与え、生きる意味を見出してほしい、と訴えることにある。

それは、こういう不満と怒りを抱える若者たちをリクルートする努力を続けるISに対する強力な対抗手段になるだろう。

カーンは語る。
「私は、ロンドンっ子で、英国人で、イスラム教の信者で、アジアに出自をもち、パキスタン人の血を引いています。

だから、ISでも誰でも、我々のような生き方を否定し、西欧について語るとき、彼らは、私のことを語っているのです。私という人間ほど、彼らの憎しみにとって邪魔な存在はないのです」


このコメントは、彼の覚悟を示すと同時に、一抹の不安を感じさせます。
彼は労働党内でもリベラルな言動で知られ、例えば同性婚も支持しています。
支持を表明したときは、(おそらくイスラム原理主義者から)脅迫状が送られたといいます。


英国の治安当局の情報によると、いま、約800人の若者が英国からISに参加するために出国し、うち半分以下がまた戻ってきているそうです。
「いつ、テロを仕掛けようとする動きが始まってもおかしくない」とも。

ロンドンの大規模な悲惨なテロは、2005年7月7日以来ありません。この時は、地下鉄で自爆テロがあり、52人が死亡しました。
カーンさんには元気で頑張ってほしいし、テロが起きないことを願わないではいられません。