エコノミスト誌が語る「民主主義はどのようにして死を迎えるか」

1. 関東甲信は早くも梅雨が明けたそうで、暑さが続きます。
朝早くから暑い中、東大キャンパスでは野球部の選手が練習をしています。
こちらは涼気を求めて散歩がてら図書館に入ることが多く、そこで雑誌を読んで時間を過ごします。


英米の雑誌は米朝首脳会談もあって、このところ毎号トランプ関連記事で賑やかです。
最新号のタイム誌は、全米で大問題になり、ローラ・ブッシュ元大統領夫人や現ファーストレディからも批判を受けた、不法移民の親子分離による強制収容の問題を特集にとり上げて、トランプ政権を痛烈に批判しています。
他方でエコノミスト誌は「民主主意の後退」を論説に掲げています。


2. まずは前者ですが、
(1) 記事は「アメリカの価値観」と題して、
「ワシントンからオバマに至るまで歴代の大統領は、この国が目指す価値、すなわち自由と民主主義、人道と人権、平等を語り続けてきた」と書き始めます。



(2)ところがドナルド・トランプは、そういう語り方をしない。彼が好んで語るのは、愛国心、経済の活力、そしてアメリカ第一である。

就任以来の18カ月の彼の5百万語に及ぶ言葉を検索したある調査機関によれば、
この中で「民主主義」という言葉を使ったのは100回(注:就任演説でも出てこなかったと思う)に過ぎず、「平等」「人権」に至ってはたった12回と10回。
これらは過去の大統領に比べて異常に少ない。

(3)このようにトランプの価値観は過去の大統領(共和・民主を問わず)とは異なると言わざるを得ない。
そして今回の不法移民に対する苛酷な措置である。
それは私たちに、この国はどんな国であるべきかを問いかけている。


(4)トランプは、「国境がなければ国家は存立しえない」と言うが、それはその通りである。
しかし、大切なのは、「存立すべきなのはどういう国家なのか?」という問いではないだろうか。


3.他方で、エコノミスト誌は、主に発展途上国でこのところ民主主義が後退している現状の懸念と提言とを論じています。

(1) 各国の「自由民主主義の成熟度合い」を指数でチェックしているある調査機関によると、最新時点で、89カ国が後退し、改善しているのは27カ国に過ぎない。
また、別の調査では、アメリカ人の若者で「自由民主主義が不可欠」と回答したのは全体の3分の1以下にとどまっている。
『民主主義はどのようにして死ぬのか』『人々対民主主義』といった気になる題名の本が次々に出版されている。
トランプ・習近平プーチンといった指導者の存在感が大きくなったことの影響もある。
とくに懸念されるのがトルコ、ハンガリーベネズエラなどの発展途上国の動きである。


(2)と書き始めて、権力者が自由民主主義を抑圧するやり方を以下のように解説しています。(具体的には、トルコの独裁的なエルドアン大統領に典型的にみられる手口)
・まずは、経済の不振、移民の急増、仮想敵国の挑発といった国民の不満や危機感を吸い上げ、国内外の敵対勢力を特定し、これらへの敵意をあおる。

・その上で、司法やメディアへの介入を図り、自由民主主義を支えるシステムの弱体化を図る。

・さらには、国民の反対派を押さえつけ、可能なら選挙制度憲法を改正し〜〜かくして民主主義が死んでいく・・・・

(3) と分析した上で、「しかし、楽観的になろう」と同誌は語りかけます。
・振り返れば、1945年の時点では「自由民主主義国家」は1ダースぐらいしか存在しなかったのだ。それから見れば現在は素晴らしい進展ではないか。

・しかもある調査機関の38カ国での調査によれば、5人のうち4人が「自由民主主義」を支持している。

アメリカだってトランプ大統領のもとでも「抑制と均衡」の機能は健全である。
心配なのは民主主義の歴史がまだ若い国々である。
そういう国で大事なのは、「民主主義を守る人たち(defenders)」を育てることである。それは健全で良質な選挙権者、独立した司法組織、そして物言うメディア、NPO・・・などである


4.日本の自由民主主義が仮に1945年からだとすれば、まだ若い国の1つかもしれないなと考えながら、この記事を読みました。

(1)そして、最近読み終えた『議院内閣制―変貌する英国モデル』(高安健将、中公新書)の中にある言葉を思い出しました。―――「英国のマスメディア環境は、日本と比較して、政治家にはるかに厳しい。政治家もジャーナリストの肩越しに有権者を意識して答えるのが習いであり、両者の関係はデモクラシーにとって不可欠のインフラとなっている。」
この点はアメリカも同じでしょうね。


(2)さらに、国際文化会館から送られる機関誌の最新号にある「英国人記者が見る日本」というインタビュー記事も思い起こしました。
インタビューに応じているのは、英国『ザ・タイムズ』紙アジア編集長&東京支局長で、6頁にわたる英語・日本語両方が載っていますが、質問者とのこんなやりとりが印象的でした。

Q――「日本に20年以上働いて、英国のジャーナリズムとの違いを感じることはありますか?」

A――「・・・役割や本質に違いがあると思います。
英国のジャーナリストや主要新聞は、権力あるものに対して盾付くことにプライドを持っています(英文は“〜take pride in being troublemakers, agents of resistance against the people in power”)。それが自分たちのやるべき仕事だと自覚しているのです。
(略)もちろん例外はありますが、日本のジャーナリストや新聞は逆で、対立を避けようとする社会的気質のせいか、権力を持つ機関を批判することに消極的だ(“pretty passive about criticizing the institutions in power〜”)
と思います」

新聞に批判的な政治家の発言などが伝えられる昨今、考えさせられるコメントでした。