『日本の国難』(講談社現代新書)と「地方都市の健康寿命」

1. 柳居子さん、我善坊さん、コメント有難うございます。
我善坊さん「コナシは実に美しい花です」とありましたので、霧ヶ峰湿原での写真をまた添付します。

2. 柳居子さん、「京都も一地方都市」とは千年の都の住人のご謙遜ですね。しかし「動かないというのも1つのパワー」には共感します。


たまたま人に勧められて『日本の国難、2020年からの賃金・雇用・企業』(中原啓介、講談社現代新書)を読み終えたところです。
本書は、日本の将来についてきわめて悲観的なシナリオを予測しています。

(1)大企業は淘汰や再編が進み、増税によって可処分所得は減り、生産性向上に伴って失業者は増加する・・・

(2)その最大の問題は「少子高齢化」にあり、少子化の元凶は「東京への一極集中」にある。
(3)したがって問題解決には「地方活性化」しかないのだが、長年にわたって、為政者も企業も、この課題に真剣かつ・長期的な視野に立って取り組んでいない。

(4)と批判したうえで唯一の例外として、建設機械大手コマツが創業の地石川県への地元回帰を中心とした、本社機能や工場の分散に取り組んでいる稀有な実例を紹介しています。
部品調達本部を東京本社から石川県小松市に移したり、総合研修センターを同市に統合したりして、これまでの地方回帰で150人以上の社員が転勤になった。

(5)そしてプロジェクトを推進した元社長坂根氏によれば、同社はその効果について、
「女性従業員の出生率が飛躍的に上がった」のをはじめ、
「従業員の生活が豊かになった」
「退職者の健康寿命が延びた」そうです。

(6) 具体的には、同書によれば、コマツの30歳以上の女性社員のデータを取ると、東京本社の結婚率が50%、対して石川は80%、結婚した女性社員の子供の数が東京は0.9人に対して石川は1.9人
➜これを掛け合わせると子供の数に3.4倍もの開きが出ている。


(7) しかもこの動きは一企業レベルの話にとどまらず、行政、学校、銀行、農協までも巻き込んで、地元を活気づける様々な副次効果を生み出している。


(8)地方で暮らせる環境を整えることがいかに大事かということですね。
そういう意味では、京都も「地方」と言っていいでしょうし、前回ご紹介した茅野の蕎麦屋で偶然一緒になった甲府の美女4人もおそらく地方生活の豊さ(物理的にも精神的にも)を享受しているのではないか、そんな余裕を感じました。


3.以下では、本書を読んで地方について考えたこともあって、元気で頑張っている高齢者のことをご報告したいと思います。


(1)まずは私の小学校の同級生Nさんです。
長年さいたま市に暮らしている彼はこの5月19日に80歳の誕生日を迎えましたが、この日に同市にある「カフェギャラリー」というのを借りて、コンサートを開きました。

(2)たまたま小学校で仲良かった、彼を入れた3人で久しぶりに会食をして近況報告をし合った中でそんな話を聞いて2人で大いに驚き、感動しました。

彼は現役時代は普通のサラリーマンで、大学時代にコーラスをやったという経験もなく、10数年前にずぶの素人ながら女性の先生から歌曲を習い始めたということは聞いていました。
また会社を退職してから腹話術も習い、ボランティアで施設訪問をしているという活動も聞いて感心していました。


(3)しかし、80歳にして初めてコンサートを実現して成果を披露したとは大したものです。


当日は聴衆を含めて35人も集まり、先生や仲間も歌とピアノ伴奏で応援したうえに、本人はなんと8曲も歌いました。
しかもそのうちの4曲はオペラのアリア、うち3曲は独唱で1曲は二重唱です。

独唱は何れもよく知られたアリアばかりで、テナーの曲が2つ(「魔笛」のタミーナが歌う)と「トゥーランドット」の例の「誰も寝てはならぬ」)、バリトンの曲が1つ(「椿姫」で父親がプロバンスを想って歌う)。
まったく大したものです。


4. もう1人は京都在住のFさん。この方はまだ私より10歳ぐらい若いので老人と言ったら怒られるかもしれませんが、京都検定1級保持の生粋の京都人。
同氏がこのたび、テレビに登場しました。

(1)6月15日のNHK・BSの「新日本風土記」という番組で、「鬼」をテーマに日本あちこちの「鬼」をめぐる伝説や踊りなどを紹介する番組です。

(2)番組の冒頭は「鬼門」についての紹介で、Fさんは長年、京都を中心に「鬼門除け」の研究をしています。実地調査をして論文も発表しています。
論文の冒頭は以下の通りです。
「京都の町なかを歩いていると、至るところで「鬼門除け」を見ることができる。昔ながらの町家の一角に留まらず、マンションや近代的なビルに施されていることもある。
 その形態は、角を削った本格的なものや白砂を敷いた角、南天や柊を植えたものまでさまざまである。
 「鬼門」という考え方は、古代中国よりもたらされたといわれ、艮(うしとら、北東)は鬼が出入りする場所として嫌われていた・・・・(以下略)」

(3)彼とは私の京都勤務以来の長年の友人ですが、「鬼門除け」の研究を始めたと聞いたのは5,6年前でしょうか。
恥ずかしながら東京生まれ・育ちの人間は、「鬼門」も「鬼門除け」も聞いたことも見たこともなく、そのとき全く無知だったのです。


(4)しかし彼は私の驚きにも無知にも臆することなく、地道な研究を続けました。
他にそれほど熱心に調べる人も少なかったのでしょう。今や第一人者として、「鬼」をテーマとする番組の冒頭に、京都における「鬼門除け」の様子を紹介するべく登場したものです。

これもまた、「動かない地方都市」に根を下ろして地道に自らの好きなことを追い求めた成果だろうと思っているところです。