1. ここ10日間で、家人が1回、私が2回、合計3回日帰りで東京と茅野を電車で往復し
ました。
因みに、家から中央線の茅野駅までは公共交通機関がないので、どちらかが車で送り迎えします。電車通学する高校生の子を持つ親は連日、車で送り迎えをする必要があります。地方暮らしもなかなかたいへんです。
2.この間、年下の友人が1人で京都から訪れて一泊してくれました。有難くも嬉しいことです。
狭い日本と言っても、京都と茅野の往来は面倒です。帰りであれば、まず茅野から中央東線で塩尻で降り、中央西線に乗り換えて名古屋まで行き、新幹線で京都に行く、2回乗り換えで5時間はかかります。はるばるよく来てくれたものだと感謝です。ちょうど長女夫妻も休みを取っていましたので話も弾みました。
彼は、京都検定1級の所持者で御所のすぐ南に住んでいます。古い町家で市の重要文化財に指定されて、昨年は一般公開もしました。
NPOに長く関わり、山登りが趣味です。今年の初めには、友人とニュージーランドの南島にある、「世界で最も美しい散歩道」と言われるミルフォード・トレッキングに出掛けました。ガイド付きの山小屋に5泊する旅程でしたが、途中で40年に1度という大雨に見舞われ小屋に閉じ込められ、最後はヘリコプターで救出される事態になりました。貴重な経験をして、一緒に歩いた異国人との交遊や助け合いも強まった、という話を聞きました。
家の周りを2人で散歩し、鹿にも出会いました。
根っからの京都人で、いつも京都の話を面白く聞きます。京都人特有の人との付き合い方と言葉遣いがあるそうで、
「あんたはん、いい時計してはりますな」という言い方を今回初めて聞きました。
「いやいや、安物ですよ」なんて応じると、「何も分かってない、東京の田舎者やな」となる。
翻訳すると、「ご自分の時計で時間を確かめたら如何ですか?大分長居していますよ。そろそろ引き揚げられた方がいいんじゃないですか」という意味だそうです。
角が立たずに人と付き合っていく、洒落た日本語の文化ですね。
3. 他方で、以下は東京に行った話です。電車も結構混んでいました。全員がマスクの光景は茅野も変わりませんが、それでも人間の多さが違うので、マスク姿の印象ははるかに強烈です。これがいまの日常なのだと改めて感じました。
実は東京行きのうちの1回は、やはり京都に縁のある出来事でした。この日、京都からはるばる上京した下前さんの講演会「床屋談義」に参加しました。
松井孝治氏というもと民主党の国会議員が、いまは慶応義塾大の教授をしています。この方がシンクタンクも主宰して、さまざまなイベントを企画していて、今回は代表的な京都人を招いて東京で京都の話を聞こうと実施したものです。当日は赤坂にあるシンクタンクのオフィス内会議室で開かれて、マスク姿の40人強が出席し、まことに盛会でした。
京都からも下前さんの友人飯島・岡村の両氏が招かれて上京し、私も声を掛けて頂いたので喜んで出かけました。
京都には、1月末に従妹の家で「新春かるた会」という集まりで出かけて以来、新型コロナの中上洛していません。京都に行くと必ず「イノダ珈琲店」で朝食をとり、この方々とも会えるのですが、すっかりご無沙汰しており、残念に思っていたところです。そういう、「京都のお仲間」と7カ月ぶりに東京で会うというのも楽しいものでした。
4.下前さんは、柳居子と号し、たいへん博識な知識人かつ趣味人で、しかも家人が「何でも出来る人ね」と感心するように、料理も上手です。この日は、お手製の「ちりめん山椒」を持参して頂きましたが、家人は「錦小路で売ってるものよりおいしい。絶品」と感嘆し、早速二人で炊き立てのご飯に載せて賞味しました。
しかもご友人の書家がラベルに「くもり、柳居子製」と命名して揮ごうしてくれたそうです。人脈も多いのでしょう。
毎日365日、ここ15年以上ブログを書き続けていますが、本業は三代続く散髪屋さんです。
理容は、明治の文明開化から始まった職業ですが、当時なかなか洒落た仕事だった、同氏の先祖ももとはと言えば刀を扱っていたそうで、それで明治になって西洋からの「理髪」文化にすんなり転業出来た、と聞いたことがあります。 「天皇陛下にまともに刃物を向けられるのは私たちだけじゃないでしょうか」とよく言って笑います。
しかも本来は西洋渡来の「散髪」が日本風の接客に進化して、これがいまや一部の外国人観光客に話題になっています。柳居子さんの技術と京都人らしいコミュニケーション能力のせいもあって、彼の「理容店」を初めて訪れた外国からの観光客が、髭を剃ってもらって感激してSNSに投稿し、それを知った観光客が次々に訪れるという事態になっています。
今年の初めには、英国から来たジャーナリストだかが、同店での散髪の模様を数十分のビデオに撮影し、You tubeで流したところ、何と300万回以上のヒットがあったそうで、驚くべき反響です。世界の有名人ですね。「いまはコロナで駄目だが、行けるようになったらここで散髪してもらうためだけでも京都に行きたい」というコメントもあったとのこと。
5.この下前さんに何とか東京に来てもらって京都の話をして欲しいと、上述の松井教授が長年にわたって説得、今回やっと応諾して上京したのですが、何と東京に来るのはお嬢さんの結婚式以来20年ぶりとのこと。この日も講演が終わったあと、二次会に六本木の国際文化会館までお連れしましたが、もちろん泊まることなく、そそくさと引き上げました。
そういえば私の従妹も生粋の京都人で氏と同じく他の場所で暮らしたことはありませんが、用事があって上京する時も可能な限り日帰りで帰洛します。京都人はほんまに京都が好きなのだなと思います。
6.今回は余談ばかりで、講演「床屋談義」の中身に触れる紙数がなくなりました。松井教授と柳居子さんとの仲を紹介して終わることに致します。
松井先生の実家は、松井本館といって京都の老舗旅館です。「下前理髪店」はすぐ近くです。この日の講師紹介でも、「祖父から息子にいたるまで四代にわたって頭の面倒を見てもらっています」という紹介がありました。単なる「理髪と客」の間柄ではないようです。
これまた、いかにも京都らしい「付き合い」だなと感じました。人や場所の移動の多い東京では考えられない濃密な人間関係ではないでしょうか。