ミシェル・オバマ前大統領夫人、厳しいトランプ批判と「共感」について語る

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1.アメリカ民主党大会が17~20日コロナ禍の中で「バーチャル開催」され、ジョー・バイデンとカマラ・ハリスの正副大統領候補が決まりました。11月3日共和党トランプ・ペンス組との選挙で、今後4年間のアメリカの帰趨が決まります。

 

 大会初日の最大の話題はミシェル・オバマ前大統領夫人のオンラインによる18分強の「基調演説」でした。

「熱情的な」あるいは「容赦ない」スピーチと各メディアは評し、彼女の「ドナルド・トランプがこの国の大統領でいるのは間違っている(Donald Trump is the wrong president for our country)」という痛烈な言葉が各紙の見出しを飾りました。

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2.印象に残ったのは以下のような言葉です。

(1) 私たちが本来リーダーシップや救いや安心を求める筈のホワイト・ハウスに、いま見るのは、混乱と分断と共感の全き欠如です。

(2)私は最近、「共感(empathy)」についてよく考えます。共感とは、誰か他の人の靴を履いて歩くこと、他の人が経験したことには同じように価値があると理解することです。

(3)いまこの国で起きていることは、正しくも、私たちが望んでいることでもありません。

(4)それではどうすればよいか?「高きを目指しましょう(going high!)。

決して自らを貶めることなく、憎しみに負けずに、違いを超えて共に生き、ともに行動する道を見出しましょう」

(5)そのためには現状を変えることです。4年前の結果に失望してひきこもることなく、ジョー・バイデンに投票しましょう。

 彼は素晴らしい人物です。共感を抱き、人の話を聞く人です。子どものときに父親の失業を経験しました。若い上院議員時代には妻と生まれたばかりの娘を亡くしました。副大統領のときには最愛の息子を失いました。だからこそ、座っていない人のいる椅子があるテーブルにいることの悲しみを理解し、どんな時でも時間を割いて他の家族の苦しみに耳を傾けることを厭わないのです。

 もちろん彼は完全な人間ではありません。しかしそのことを真っ先に自ら認める人です。どんな大統領も完全ではありません。大切なのは、学び・成長する人間であるかどうかです。

 

(6)困難な時代だからこそ、私たちは一緒にならなければなりません。私たちの英雄だったジョン・ルイスが言ったように「何かがおかしいと気付いたら、発言し、行動すべき」であり、歴史に新たな1頁を加えることに参加しなければなりません。それこそが共感の本当の姿なのです。自分や自分の子どもたちだけではなく、皆のために、すべての子ども達のために行動することです。

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3. 因みにジョン・ルイスは7月に80歳で死去した下院議員。長年アフリカ系アメリカ人の人権のために戦い、公民権運動の象徴的存在。キング牧師の盟友、ロバート・ケネディの親しい友人。タイム誌8月10日号は「一国の良心」と題する16頁の追悼記事を載せました。 

 1963年、差別廃止と自由を訴えるワシントン大行進の日、大群衆を前にキング牧師が「私には夢がある」という有名な言葉を発したとき、「学生非暴力調整委員会」の委員長だった23歳の若きジョン・ルイスは同じく演壇に立って、「我々は、今日ここで示された愛と尊厳の精神を失うことなく、これから行進していこう」と呼びかけました。

 キング牧師ジョン・ルイスだけでなく、ミシェル・オバマさんのスピーチのうまさにも感心しました。しかし、選挙はきれいごとではないから、彼女のスピーチが感動的だからといって、それが選挙戦にどこまでプラスに働くかというと、それは別問題だろうとは思います。

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 4. 他方で8月18日の英国紙「ザ・ガーディアン」は、「コロナ危機で、女性の指導者の対応の方がよりすぐれている」とする調査結果が出た、と報じました。

(1)すでに、ドイツのメルケル首相、ニュージーランド(NZ)のアーダーン首相、台湾の蔡英文総統などはメディアの注目を集めている。しかし専門家や研究者からの反応は少なかった。

(2)ところがここにきて、ワシントンDC所在のシンクタンク「経済政策研究センター」と毎年ダボス会議を主催することで知られる「世界経済フォーラム」の共同研究が発表された。

(3)この研究は、193ヵ国のコロナ危機への対応(5月19日時点ではあるが)、を比較調査した。基礎データとして、各国のGDP, 人口、人口密度、高齢者比率、1人当たりの健康支出、海外旅行者、男女平等の度合いなどの総合的な統計も活用した。

 

(4)その結果、「違いは明らかに事実であり、女性指導者の国々の方がうまく対応している。その理由は、先を見越した、協調的な政策対応にあると考えられる。また、命の危険への意識の高さ、経済対策でもリスクをとることを恐れない姿勢が特徴的である、その結果、早期に断固たる対策をとることに成功している」と結論付けている。

 

(5)女性がトップ・リーダーである国は、19ヵ国しかない。そして本調査は、メルケルやアーダーンのような「特別注目されている存在」を除外して、ほかの17の国だけを他国と比較調査しても同じようなことが言える、と指摘している。

 

(6)また、同調査は「もっとも似通った2か国の相互比較」も行った。具体的には、ドイツと英国、NJ とアイルランドバングラデッシュとパキスタンそれぞれの比較で、前者が何れも女性が、後者が男性がトップ・リーダーの国である。

そして、何れも前者の方がこの危機にうまく対応している、と結論付けている。

 

(7)その上で、「この研究結果が、これからもコロナ危機が続く中で、政治のリーダーシップのあり方を議論するきっかけになればと願っている」と述べているそうです。

 むろん異論もあるでしょううが、それを含めての議論を期待しているのでしょう。

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5. 以上、ミシェル・オバマさんにしても19ヵ国の女性トップ・リーダーにしても頑張っていますね。調査報告の中で「女性のリーダーは、命の危険への意識が(男性より)高い」という指摘はなるほどと感じました。どうしても役割分担として、子どもを育て、他の子どもたちに接する機会も多く、病人や老人の介護に携わることも多いのは、えてして女性にならざるを得ない、それだけ「人の命」への感受性が高い、と言えるように思いました。

 昔、この国で介護保険の制度が導入されて、男性議員が殆どの国会で議論が続いているときに、家人が「この人たちって、自分の親の介護をしたことがあるのかしら、苦労をどこまで知っているのかしら」と呟いていたことを思いだしました。

 そういえば、ミシェル・オバマの18分のスピーチで、いちばん多くでてきた言葉は「共感」と「子ども達(もちろん自分の子どもだけでなく、子ども達一般の未来)」の2つだったと思います。