京都の梅見、NYタイムズの「安倍氏の危険な修正主義」社説訂正


1. 13日は全国的に荒れた天気でしたが前日12日はおだやかによく晴れて、たまたま京都滞在、梅の名所北野天満宮に行ってきました。
先日、東京学士会館で冷泉貴実子さんの「現代に生きる冷泉家の和歌」という講演を聴いたことを思い出しました。
彼女の著書『冷泉家八百年の「守る力」』についてはブログでも紹介しましたが、講演でも日本人の心と文化がいかに季節とともにあるかを熱く語ってくれました。
http://d.hatena.ne.jp/ksen/20131004
(1) 講演の日はたまたま3月9日でしたが「旧暦では今日は2月初旬。春は旧暦の1月(睦月)2月(如月)3月(弥生)で、春は「若菜」と「梅」から始まる。
(2) 「まだまだ寒いが、昔の日本人は気温ではなく、日の光と緑と花で春を感じた。だから旧暦の1月はまさに春である」
(3) 「梅は花の兄、菊が花の弟。梅が珍重されたのは春の到来を告げると同時に、匂いのかぐわしさにある。とくに夜に匂い、当時、夜は闇で人々は嫌がったが、だからこそ闇に匂う梅に惹かれた」
として
梅の花にほひをうつす袖のうえに軒もる月のかげぞあらそう」という藤原定家のうたを紹介してくれました(新古今)
(「いまは残念ながら、香りと言うといい意味で、匂いはあまり良くない意味になってしまっている」という補足のコメントもありました)
(4) 「和の文化の基本は歌にあり」というのが彼女の主張であり、それは「芸術」ではなく「芸だ」とも言います。
「最初に咲くのは梅で最初に鳴くのはうぐひす、とする。そう決めたところに、日本の春がある、ということです」
「「梅にうぐひす」「紅葉に鹿」、こういった言葉で約束する、いわゆる日本的な美意識というのは御所の文化・・・」
「そういう残り香のようなものがまだ京都にはある。守り、伝えているものがある。それを求めて、みなさん京都に足を運ぶのではないでしょうか」

そういえば道真公の歌も「東風吹かば匂ひおこせよ梅の花〜」だったなあと思い出しながら、北野天満宮の梅苑を歩きました。


2. ところで、優雅な話はこのくらいにして、話題を変えます。
前回のブログで、3月2日付のニューヨーク・タイムズ社説に「安倍氏の危険な修正主義」と題する社説を載せたこと、これに日本政府は「事実誤認がある」と抗議したことを書きました。
東京新聞によると、菅官房長官の反論は「南京虐殺はなかった、と安倍氏は主張していると社説にあるが、これは誤りで、首相はそのような発言はしていない」というもの。
「この反論をNYタイムズは無視している」と前回のブログに書きましたが、その後同紙は「訂正」しています。ここで私のブログも「訂正」とともに、以下、補足致します。

(1) 社説の該当の部分は、拙訳で当初以下の通りです。
安倍氏ナショナリズムを理解するのは難しい。何故ならそれは他国に向けられたものではない。むしろ、本人が恥ずべきものと思っている第2次世界大戦以後の自国の歴史認識に向けられたものである。彼は戦後の体制を「自虐的」と称し、新しい愛国主義を再構築しようとしている。
しかし、まずその前に彼がやろうとしているのは、戦争の歴史の修正である。彼とその他のナショナリスト達は、1937年の日本軍による南京虐殺は起きなかった、と主張している。政府はまた、戦争中に日本軍によって強制連行されたとする慰安婦問題について再調査“し、おそらくはその事実を撤回”すると発表した。
さらに彼は、「有罪とされた戦犯(convicted war criminals)」を祭る靖国参拝固執し、参拝は国に命を捧げた犠牲者に敬意を表する意図しかないと発言している。アメリカ政府から、やめて欲しいという明確なシグナルがあったにも拘わらず、12月に参拝した。」



(2) これに対して、5日付のNYタイムズは、2日付の社説を訂正し、上記引用の8行目の“”の部分「おそらくはその事実を撤回(“Japanese government would re-examine and possible rescind an apology to Korean women who were forced into sexual servitude by Japanese troops”のうち”and possible rescind“の部分)」を削除し、この部分は誤りだった、と補足し、新しい社説は翌3日の印刷版に掲載した、と説明した。
(3) 以上から明らかな通り、日本政府は、従軍慰安婦問題についての河野発言を再調査するという事実は認めた。しかし、調査の結果、これを「修正ないし撤回する」ということは認めていない。そして、その点で、NYタイムズは自らの過ちを認め、訂正した。

・・・・ということは、仮に「再調査」の後でも、政府見解は変わらないという意味だろうか?いわばNYタイムズは「日本政府から言質を取った」と理解するだろうか?


(4) 上述のように、東京新聞は「安倍首相は南京虐殺を否定していないと抗議・反論した」と報道している。
しかし、NYTIMESはこの部分を訂正していない。
とすれば、政府は再度強く抗議すべきではないか。
そして、仮にNYTIMESがこれを入れて再度訂正したとすれば、それこそ、安倍首相は南京虐殺を否定していないということ、某会長の見解とは異なる、ということが世界にメッセージとして伝わるのではないか。

以上のように考えるのですが、如何でしょうか?


最後になりますが、同紙はもちろんこの社説の「事実の誤り」については日本政府の抗議を受けて訂正しましたが、当然ながら、「意見」に当たる部分は全く変えておらず、同紙の「社説」欄に2度掲載された訳です。

これを読んだ日本人がどう思うかは、様々かもしれませんが、
以下、その冒頭と最後の部分を拙訳でご紹介します。
安倍晋三首相の標榜するナショナリズムは、日米関係にとって、今までにない脅威となりつつある。
彼が妥当とする修正主義的な歴史観は、東アジアにおける危険な挑発であり、すでに現実問題として、東および南シナ海における中国との領土をめぐる紛争を激化させている。
しかしながら安倍氏は、こういう現実と、条約によって日本防衛の義務を負ってり、中国と日本との衝突に巻き込まれることを全く望んでいないアメリカの国益を無視しているように見受けられる」
・・・(ここで前出の部分が入り)

「この時期に日本が中国との対決姿勢を強めていることは、安倍氏が、きわめて平和を愛好する日本国民に対して、軍備力の強化を納得させるためだけに役立っているとしか思われない。軍備力強化を主張する人たちと歴史修正主義者とが重複しがちであるというのが、いまの日本の奇妙な現象であると思われる。
しかしながら、安倍氏ナショナリズムを別にすれば、彼も与党の主要なリーダー達も、日米同盟に深くコミットしているアメリカの同意なしに、日本の軍備力を強化しようとは考えていない筈である」

この社説、日米同盟の将来と、米中関係の展望が問われているようでもあります。