『僕たちのバルセロナ』(田澤耕、西田書店、2022)と岡田さん


1.今回は、法政大学名誉教授・田澤耕氏の著書『僕たちのバルセロナ』を取

り上げます。田澤氏は日本におけるカタルーニャ研究の第一人者です。

2002年に日本で初めて本格的な「カタルーニャ語辞典」を刊行しました。

一般向けの著書には、中公新書の『物語カタルーニャの歴史』『<辞書屋>列伝、言葉に憑かれた人びと』、岩波文庫の訳書数々など。

 

2.『僕たちのバルセロナ』は同氏が40歳になって博士号取得のために暮らした留学時代を、同行した6歳の長男の目を通して語る、とても楽しい回想録です。

刊行した西田書店は、私が編集の手伝いをしている雑誌「あとらす」の出版社で、親しい編集長が送ってくれました。

 

3.「あとらす」には友人が何人か参加して、その一人に岡田多喜男さんがいます。

彼は昔の職場の1年後輩で、20代のとき共にニューヨークの研修生だった頃からの

長い付き合いです。NYでスペイン語に目覚め、スペイン&南米に勤務しました。独学でカタルーニャ語も学び、「あとらす」には同国についての文章を毎号寄稿しています。

 

4.田澤氏は、私たち2人と同じ旧東京銀行出身です。1976年に入行、78 年にスペイン語の研修生としてマドリッド支店に派遣されたとき、岡田さんが上司でした。

研修する現地の大学を、日本人が多く住むマドリッドでなくバルセロナに選んだのは岡田さんだった由。

そして、本来はスペイン語研修生として派遣された田澤氏は、カタルーニャ語も学び始め、8年勤務した銀行を退職して研究者となる途を選び、辞書を作り、カタルーニャを日本に知らせる上で多大の貢献をしました。

6.岡田さんの受け売りによると、カタルーニャはスペインの自治州ですが、「かつては輝かしい独立国であり、独自の歴史、文化、言語を持つ民族であり、独立を希望する機運はかねてから強い・・・」。

 数年前には独立運動が激しく起きました。

「首都はバルセロナです。サグラダ・ファミリア教会を設計したガウディや、画家のダリ、ミロ、ピカソ、世界最高のチェリストとされるカザルス、三大テノールの一人カレーラスなどで知られる豊かな文化を誇る地域です」と紹介します。

「州都」ではなく「首都」と書くところが、この地を愛してやまない岡田さんらしいと思います。

7.田澤氏の著書『<辞書屋>列伝』は、「言海」「オックスフォード英語辞典」など辞書を編んだ人たちがどんな苦労と情熱を持って取り組んだかを取り上げた本です。同書の「終章」で、これらの偉大な先達とは格が違うと謙遜しつつも、自らを「辞書屋」と呼び、辞書を完成させる苦労と喜びを語ります。

 

 そして、Oさん(岡田さん)に触れて、自分がたいへん世話になった銀行の先輩であり、彼もまた言葉への高い関心を持って、社会人になってからスペイン語カタルーニャ語の習得に励んだことを評価し、「もう一人の辞書屋」という一節を設けて紹介しています。

 東京銀行という職場は、こういう文化を備えた良い職場だったなと改めて懐かしく思い出しました。

8.と書いてきて、この本の中身を取り上げる紙数はなくなりました。岡田さんの情報によると著者はいま病の床にあり、本書は本人としては遺作のつもりだそうです。ご回復を祈ります。

最後にバルセロナと京都との縁について触れます。両市は文化交流が盛んで、2019年京都に「バルセロナ文化センター」がオープンしました。

バルセロナ文化センター Centre Cultural Barcelona - CCB | Facebook

田澤氏は自著を30冊以上寄贈したそうです。