読書週間―「この一冊にありがとう」

  1. 読書週間が11月9日に終わりました。今年の標語は「この一冊にありがとう」。

(1) 初日10月27日の毎日新聞は「きょうから読書週間」と題する社説を載せました。

「紙の本の販売額は昨年15年ぶりに前年を上回った」

「最近は短歌の歌集を手にするひとも増えている」

  私はいずれにも驚きました。

岡野大嗣、岡本真帆、木下龍也など若い作者の歌集が大いに売れているそうです。

(2)短歌ブームをけん引しているのは「Z世代」と呼ばれる20代の若者で、「満たされない想いや、さりげない日常を切り取る新鋭歌人の独創的な作品がSNSで共感を呼ぶ」、

「現代短歌に限らず、明治時代に石川啄木が困窮の中で詠んだ歌に目を向ける若者もいる」。

(3) タイミング良く、読者会の仲間と和歌や短歌を話合う7人の「集まり」があったので、社説のコピーを皆さんに配りました。啄木を詠む若者がいるのは嬉しい、と同時に、いまの社会の生きづらさを反映しているのではないかという感想もありました。

 

  1. 「集まり」は、

(1)「万葉」「古今・新古今」「近代」「現代」に分けて、あらかじめ一首ずつ自分の好きな歌を選んで当日話し合う、なかなか楽しい会でした。

 その中で、「近代短歌」から、3人が啄木を選びました。私もその1人で、あとは女性です。

 

(2) 自らも歌人永田和宏氏は、『近代秀歌』(岩波新書)で、明治・大正期を中心に<これだけは知ってほしい近代100首>を選び、啄木を8首選んでいます。茂吉の11首、与謝野晶子9首に続きます。

「総じて、啄木はいわゆる専門歌人からの評価は低い傾向にあるが」としつつ、「近代歌人のなかでもっとも愛誦歌の多い歌人はと尋ねられれば、誰もが迷うことなく啄木と答えるだろう」。

(3) 女性の1人は、

「東海の小島の磯の白砂に われ泣きぬれて 蟹とたはむる」を選びました。

この歌を、永田氏はこう評価します。

「単純ななかに端倪すべからざる技巧がある、その一つはカメラのズームインの仕方である。(略)東海、小島、磯、白砂、そして我と蟹という景が、あたかもカメラのレンズがどんどん絞られていくように小さなものへ収斂していくのである。この「の」の使い方は見事である」。

 

(4) 啄木を選んだもう一人の女性からは、

「啄木の短歌には多くの作曲家が曲をつけていて51人にのぼる。なかでも越谷達之助作曲の「初恋」が良く知られ、私も大好きでくちずさみます」という説明があり、実際に独唱をして頂きました。いい曲です。

https://www.youtube.com/watch?v=hCltaXxFQSM

「砂山の砂に腹這ひ初恋の いたみを遠く おもひ出づる日」

  1. 秋の季節にふさわしい歌も選ばれました。

(1) 与謝野晶子の,

「金色(こんじき)の ちひさき鳥のかたちして 銀杏ちるなり 夕日の岡に」は、

永田氏も絶賛しています。

「どこか童画風のイメージを喚起し、(略)あたかもおびただしい鳥が飛び交うように、夕日のなかに飛びつづける落葉は、永遠に降りつづくかと錯覚するほどだ・・・・」。

(2)「古今・新古今」からは、別の女性が紅葉の歌を選びました。

「ちはやぶる 神奈備山のもみじ葉に 思ひはかけじ うつろふものを」(古今和歌集、詠みひと知らず)

 

大意は、「神奈備(かんなび)山の紅葉は美しいけれども、すぐに色変わり(心変わり)するのだから、思いを寄せないでおこう」。


蓼科の紅葉もそろそろ「色変わりしているだろうな」と思い、彼女が読むのを聴いていました。