1.東大キャンパスの早咲きのしだれはもう咲いていますが、一昨日の我が家の桜はまだほとんどつぼみでした。
先週は、実家の墓がある谷中の天王寺に墓参に行きました。終わって谷中銀座を歩いて、行列ができる「すずき」のメンチカツを買って、生ビールと一緒に暫し憩いました。
2.前回は、私にとって思い出の地の1つ、オーストラリアが中国に「侵略」されつつ
あると警告する本『静かなる侵略、豪州での中国の影響(Silent Invasion, China’s Influence in Australia)』を紹介しました。
最後に「オーストラリアはこれからどういう道を選ぶのでしょうか?」と書きました。
(1)本書の出版は1年前ですが、今年の1月に、カナダにおける中国の影響を警告した同じような本が出ました。読んでませんが、題名は『パンダの爪(Claws of the Panda: Beijing's Campaign of Influence and Intimidation in Canada)』です。
(2)また今年の2月6日、豪紙は、内務省はHuang Xiangmo(黄向墨)という在豪中国人、大富豪の不動産デベロッパーの永住権を無効とし、再入国を禁止し、市民権の申請を却下したと報じました。
➜本書に呼応するように、「豪情報機関は長らく、中国当局が豪州の政治献金制度を用いて接近を試み、介入していると警告を発信していた」とあります。
3.そういうこともあり、今回も本書からの紹介です。
まずは、「影響」あるいは「静かなる侵略」という場合、貿易・投資・人の移住の3つがカギになりますね。
貿易・投資面での中国の影響力について、本書は、
・中国が豪州からの資源の輸入(天然ガスなど)での「アメとムチ」作戦、
・戦略的な投資(電力、エネルギー、インフラ、農業。北豪州ダーウィンの港湾施設の中国資本による買収など)
を懸念しています。
「人の移住」については、中国共産党の戦略は、
(1)上述したHuang Xiangmo(黄向墨)のような大富豪を活用する。
(2)優秀な人材を投入し、現地の政界、ビジネス、大学や研究機関で活躍させる。
(3)留学生を含めて120万人いる在豪中国人の組織化を図る
などで何れにせよ、党は、「人種が中国人」であれば、国籍が豪州であっても「中国=党」への忠誠を第一に要求する(これは豪州の「多文化主義」の思想には反します)。
4.上述した、今年2月に国外退去となったHuang Xiangmo(黄向墨)は、「周沢栄Chau Chak Wing」などと並んで、本書に度々登場します。
彼ら大富豪の活動は、
(1)中国共産党との深いつながり
(2)豪州の政治家への巨額の献金
(3)大学や研究機関への巨額な寄付(自分の名前を付けた建物、豪中リサーチ研究所を設置してその所長に元外相ボブ・カーを据える(「ベイジン(北京)ボブ」と呼ばれる人)。
(4)豪州にいる中国人(OC)組織の管理運営とそれを通じての地元との交流、
といったところです。
5.大学であれば、「学問の自治」が守られているか?と以下のように著者は懸念します。
(1) 中国では2013年、大学に対して、立憲民主制、報道の自由、人権など7つの教育禁止項目が党から命じられた。
この「党の思想の管理」は中国人の海外留学生にも及ぶ。
(2)豪州の大学内に中国人学生の組織があり、(1)に沿って授業内容を批判し、「愛国的な」抗議行動に出る(例えば、台湾、天安門事件、チベット問題など)。
(3)大学は彼らが大きな収入源であり、概して弱腰である。総数は13万人、豪州の東大と言えるオーストラリア国立大学では留学生の6割が中国から)。
(4)大学や研究機関の教授や上級管理職に中国系が増えている。
彼らが、機密情報を流したり、スパイ行為を働くこともあり得ると本書は大いに懸念している。
6.中国企業の豪州拠点や豪州の企業内の中国人も気になる存在である。
アメリカで、中国の通信大手ファーウェイ(華為技術)をめぐって、トップが逮捕され米中が衝突していることご承知の通りで、豪州でも同社の活動について本書は疑惑を投げている。
7.世論形成や諸活動について言えば、
・2015年のダライ・ラマ訪豪時の抗議活動支援、「日本勝利の日」を祝う
・春節(中国の正月)を祝う。
春節は年々盛大になっており、写真のようにシドニーのオペラハウスを赤く染めたり、豪州の首相など要人が参加する。
(因みに、世界中で春節を祝う国は2010年の65から2015年は119か国900都市に拡がった)。
・豪州に住む、作家、文化人、教会の牧師、元人民軍の兵士まで動員して、イベントを開き、宣伝活動をする、
などなど。
8.以上、本書で紹介する内容のごく一部を紹介しただけですが、
それでは豪州はこれからどうすべきか?民主主義か中国か、の二者選択を迫られる時が来るのか?
著者は、悲観することはない、米・日・インドなどの民主主義国と連携し、豪州の風土と価値観を愛する人たち(在豪中国人を含めて)に期待しよう、と語るのですが・・・・
9.以下は私の感想です。
(1)前回書いたように、豪州はまだ立憲君主制で、元首はエリザベス英国女王です。
(2)元首といっても、もちろん名目的な存在に過ぎません。権限はいっさいありません。しかし、英国との歴史的・精神的な繋がりの象徴として、このことは大きいのではないか。
(3)1999年に共和制移行を問う国民投票が実施されたが、その時は反対多数(有効投票99%、反対54%賛成45%と決して大差ではない)で立憲君主制が維持された。
(4)しかし、ターンブル前首相は2016年に、2022年に再度国民投票にかける、と表明したことがある。
将来、同じ主張をする首相が現われて、国民投票が再度実施されるとしたら?
多文化主義の進む国で、1999年以来英国と繋がる人は減り、英国への愛着はさらに薄まっているのではないか。
(5)仮に、賛成が多数となり、豪州が英国女王と別れを告げて共和国になるとしたら?
どんな大統領が生まれるか、分からないのではないか。
その時こそ、豪州は引き続き自由と民主主義を守り続けるかどうか、国民の意志と覚悟が問われるのではないかという気がします。