国連「世界幸福度報告2019」に「さまざまなこと思ひだす桜かな」

  1. 朝の散歩が気持ち良い季節です。家人と二人で、駒場の住宅街から東大キャンパスへと歩きます。どなたかのお宅の花桃もキャンパスの桜も満開です。

春の到来は、何がなし幸せな気分にさせてくれます。

「さまざまなこと思いだす桜かな」(芭蕉

f:id:ksen:20190328080530j:plain2.3月20日は. 「国際幸福の日(The International Day of Happiness)」で,この日に合わせて今年も国連「世界幸福度報告2019」が発表されました。

2017年報告についてブログに書いたことがあります。今回も取り上げます。

f:id:ksen:20190327081510j:plain(1)二百頁近い膨大な報告書ですが、インターネットに掲載されて誰でも読むことができます。その年ごとに様々なテーマを取り上げてそれが「幸福度」とどのように結びつくかを調査し、報告し、提言します。

今年であれば、「良い政府の存在」と「平和と紛争」がどの程度「幸福感」に影響するか?

「社会の寛容度」の指標として「ボランティア」と「寄付」も取り上げました。

例えば、1500人以上の日本の大学生に対して、「夏休みに他人のためにお金を使ったか?」の追跡調査をして、「使った」学生の方がそうでない学生より「幸福感」が高いと結果づけています。 

(2)昨年であれば、移民や移動(例えば、中国での農村から都市への)した人たちの「幸福度」を追跡調査しました。 

(3)2017年であれば,「幸福度」には経済的な豊かさや健康だけでなく「その国の社会的基盤(social foundation)」が重要だという国連の立場を強調しました。

その上で、「トップ10か国は西欧の比較的小さな、産業化された国が多い。1人あたりGDPも極端に大きい国ではない。彼らの「高い幸福度」の主因は、1人1人を支える強固な社会基盤と平等感にある」というメッセージを披露しました。

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3.というように毎年、中身の濃い調査報告ですが、どうしても最大の関心は国別ランキングになるので、以下はこの点の報告です。

(1) 「幸福度」の国別ランキング調査に当たって国連は、「主観的」な(自分が幸せだと思っているかどうかの)物差しが重要だという考え方を採用しています。

(2) 具体的には、各国で聞き取り調査を実施して、自分の幸福度を0から10までのスケールのどこかに位置付けてもらいます。

このポイントで各国を比較して順位付けします。

さらに、説明変数も使って、このポイントが客観的にも納得いく説明になるか検証します。説明変数は、(1)1人当たりGDP (2) 社会の助け合い状況 (3) 健康寿命予測 (4)社会の自由度 (5)寛容さ (6)腐敗度の6項目について、統計データと聞き取り調査を使います。

 

(3) そして、各国の「幸福度の順位付け」が毎年公表されます。

今年3月20日発表された「報告2019」 では、156か国の中で、フィンランドが昨年に続いて1位、日本は58位でした。ポイントは10点を満点として、フィンランドが7.719、日本は5.886で1.833の差でした。

 

(4)「幸福度ベスト10」は、1位フィンランド、2位デンマーク(7.60)、以下3ノルウェイ、4アイスランド、5オランダ、6スイス、7スエーデン、8ニュージーランド、9カナダ、10オーストリア(7.246)。

f:id:ksen:20190331072450j:plain順位はともかく、この10か国の顔ぶれは毎年変化がありませんでしたが、今年の報告では、オーストラリアが11位に後退し、オーストリアが入りました。

(5)「幸福度」の下位グループに来るのは、シリア、イエーメン、アフガニスタンなどの紛争地域で、最下位の南スーダンのポイントは2.853と、上位諸国とは4点から5点近い差があります。

(6)因みに、英国15位(6.99),ドイツ17、アメリカ19、フランス24、台湾25、シンガポール34、イタリー36、ロシア68・・・など。

(7)中国は93位で、一昨年79位、昨年86位と3年続けて順位が下がりました。日本も51位から54位、今年は58位に下がりました。G7の中では最下位です。

(8)日本はOECD経済協力開発機構)に加盟している36か国の中でも最下位グループです。

因みに、上位20位の19か国がOECD加盟国です。非加盟国は1国だけ、12位に入っているコスタリカです。コスタリカは中米にある人口5百万ほどの小国で、軍隊を持たない「丸腰の平和国家」として知られています。

 

4.以上が国別ランキングのあらましです。

(1)もちろん、順位に一喜一憂しても仕方ないでしょうし、所詮「君は幸せか?」という主観的なサンプリング調査で、気にすることなんかないという意見も多いかもしれません。

この「報告」、日本であまり話題になりませんが、そういう理由もあるかもしれません。

(2)たしかに、国連も、「主観的な」幸福感と「6つの指標」の数値に若干の乖離があることを認めています。 例えば、ラテン・アメリカでは前者が「説明変数」より高くなり、東アジア(日本を含む)では逆に低くなり、ラテンの人たちは一般に楽観的だというような国民性の違いのせいもあるだろうと言います。しかし、乖離はさほど大きくはなく、上述した6つの指標で、「主観的な幸福度」の4分の3以上が説明できるとしています。

f:id:ksen:20190328075346j:plain5.無視するのもおかしいのではないか、と私は思うのですが・・・・。

(1) 少なくとも、国連が主導している、世界に公表されている国際調査で、日本のランクは決して高くない(今回は韓国より低い),しかも毎年下がっている、この事実は認めるべきではないか。

(2)なぜこんなに低いのか?どうやったら国連調査手法による「幸福度」を上げられるか ?

(序でに言えば、中国はさらに低く、しかも経済は発展し豊かになっているのに順位は下がっている、なぜなのか?)

(3)そのためには、毎年の「調査報告」の内容を理解して、社会に何が不足しているか?どうしたらよいか?を考えるべきではないか、と思うのです。

f:id:ksen:20190331072653j:plain(4)例えば、「2017年の白書によると、人口10万当たりの自殺者数を示す数値で、日本は世界で6番目に高かった。若年層の自殺と事故の死亡率を先進7か国で比較すると、自殺が事故を上回ったのは日本だけ」という報道があります。

「日本の「相対的貧困率」は高い。OECD加盟国で、アメリカに次いで2番目。2015年で全世帯の16.1%が「貧困層」」という統計もあります。

(5)ところが東京の街を歩いていると、皆あまり世の中を憂いているようには見えないし、内閣支持率も高いし、パリの「黄色いベスト」運動のような激しいデモもない。

外国人観光客は増え続けて「日本は素晴らしい」と言ってるとテレビは伝えている。 

――その辺りが、私には不思議で、よく分かりません。「58位とはけしからん。国連統計なんか無視しよう」ではなく、皆で考えてみたいものです。