「せめては・・・きままなる旅にいでてみん」

  1. 一週間前の日曜日、夏を過ごした田舎家から二人で帰京しました。

蜜柑箱を二つ宅急便で送り、重いキャリーケースをそれぞれ引っ張り、私はPCと妻のアイパッドを入れたリュックも背負って移動しました。

 中古のレンタカーを返し、茅野駅から新宿まで特急「あずさ」で2時間ちょっと、小田急線の東北沢駅で降り、炎天下のなか汗をふきふき、またゴロゴロを引いて自宅に帰り着きました。

 自転車に乗る人が(とくに歩道に)多いのに、改めて「都会だな」と感じました。

  1. 茅野駅では、最近「みどりの窓口」がなくなって駅員は減り、切符を買うのも機械対応です。

ジパングという高齢者割引制度があり、切符購入時に手帖を提示することが必要です。機械から呼び出すと集中窓口に繋がって、画面越しに会話をして対応してくれます。老人は慣れるまで時間がかかり、数少ない駅員に訊きながら操作する人がまだ少なくありません。

  1. 荷物のことを考えると車の移動の方が利点が大ですが、中央高速を運転するのはこの年ではさすがに疲れます。

その点電車は楽で、Masuiさんから頂いた山旅の本を手に車窓の眺めを愉しみます。電車は昔はもっぱら本を読む場所だったのですが、最近は目もかすみ気力も衰え、ぼんやり窓から眺めるだけで時間が過ぎます。

萩原朔太郎の詩「旅上」がいつも頭をよぎります。

ふらんすへ行きたしと思へども、ふらんすはあまりに遠し

せめては新しき背広をきて、きままなる旅にいでてみん

汽車が山道をゆくとき、みづいろの窓によりかかりて

われひとりうれしきことをおもはむ・・・・」

  1. それでも、新宿から小田急線への乗り換えなどエレベーターが整備されて、そういう点は便利になりました。エレベーターは荷物を持った老人やベビーカーと一緒の若い母親ですぐ満員になります。お互いにちょっと相手を労わる雰囲気も感じられます。

赤ちゃん連れや障害のある人や老人が比較的外出しやすい社会になっているとしたら有難いことです。

  1. それしても暑さは続きます。

茅野でも静かな・涼しい図書館で過ごしました。

そこで読んだ8月某日の新聞には、「これから日本列島は、四季が“二季”になっていくと考えられる」という言が紹介されていました。

「夏が長くなって、秋と春が縮まって、冬は冬でちゃんと寒い」、そんな気候になるらしいです。

 

6.茅野の図書館では、「文学界」という雑誌も広げて、「老耄(ろうもう)よりの忠告」という作家・筒井康隆の短い文章を読みました。

「読者諸氏におかれては、いつかは老齢となる日が来るであろうことに留意されたい」と始まり、「歳をとって情けないことがある」と幾つか例をあげます。

 その上での心構えとして、

大江健三郎(略)といった同世代(略)がどんどん亡くなっていく中、彼らを心で葬い続けるのも仕事のひとつと思っている。滅多に逢うことのなくなった友人たちのことを思い続けるのもそうだ。歳をとるというのは悲しいことだが、泣いてばかりはいられない・・・」

ちなみに、大江・筒井の両氏はともに88歳です。私もこの夏は蓼科で、もっぱら大江健三郎を読みました。