BBC(英国放送協会)の「健康に暮らす国とCOVID-19」の記事

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1.京都では、山鉾巡幸も中止、祇園お茶屋も「イノダ」も臨時休業とのことで、一時的とはいえ、文化と伝統も消えていきます。

 このところ毎回COVID-19の話題ですが、前回の岡村さんのコメントに、家に四六時中一緒にいると、「DVを初めいろんな問題が生じているという報告が気に掛かります」とありました。本当にそうですね。

「戻ると気配でわかるのか、ネコが玄関先でうるさく鳴いてまとわりついて来たのに、近頃は家に居る時間が長い為か、僕が居てもそそくさと二階に上がって行くのです」ともあり、猫でもそうなんだと面白く読みました。

 それで思い出したのは、欧米人のダブルベッドの習慣です。欧米ではどんなに大きな家に住んでいても夫婦のダブルベッドが習慣のようですね。数年前に日本でも評判になった「ダウントン・アビー」という英国発の連続TVドラマで、主人公の伯爵夫妻がお城のような、部屋が何十もある大邸宅に住んでいながら、寝るときは同じ部屋で、しかもダブルベッドで寝る場面が何度も出て、不思議でした。

 あれでは日本人以上に、夫婦間の感染の度合いは高いのではないでしょうか。

 

2.下世話な話になりましたが、今回は、英国放送協会(BBC)の電子版4月20日の、「「健康指数」の高い国におけるCOVID-19への対応」に関する記事の紹介です。

・レガタム研究所という英国シンクタンクが毎年「繁栄度指数(prosperity index)」を発表しています。

 各国の繁栄度を「生活の質」で測るという考えで、160 ヵ国以上について、国連などの公式統計をもとに著名な専門家が、(1)治安と安全保障(2)経済(3)政治と統治(4)生活水準(5)教育(6)自然環境など合計12の項目ごとに評価をして、それを総合して国別の順位を発表しています。

・実は、このブログでも2011年度の「国別順位」を紹介したことがあります。ランキング付けにどれほどの意味があるかはともかく、大まかな傾向を見るには参考になります。

 2019年の総合順位の上位10か国は、北欧4国にスイス、オランダ、ニュージーランド、ドイツなどでほぼ固定メンバーです。年ごとの順位の変動も少しはあります。例えばアメリカは、2011年の総合ランキング10位から2019年は18位に、中国は52位から57位にランクを落としました。

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3.この12の評価項目の1つに「健康度」があります。

 BBCは今回、このレガタム研究所の指数を使い、もともと「健康度」評価が比較的高い国を5つ選び、これらが新型コロナウィルスの対応でも評価できるか、評価できるとするとどういう点か、を調べました。

 選んだ5か国は、

・「日本」(レガタム研究所の「健康度」順位は2位、「総合評価」は19位。)

・「韓国」(同5位および29位。)

・「イスラエル」(同11位および31位。)

・「ドイツ」(同12位および8位 )

・「オーストラリア」(同18位および17位。)です。

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4.BBCは、この5か国の新型コロナウィルスへの今までの対応を総じて評価していますが、その理由を私なりに整理すると以下のようになります。

(1)政府の対応の速さー日本以外の4か国(例えば豪州は、写真にあるようにシドニー郊外ボンダイビーチを早くも3月21日に閉鎖した)

(2)検査体制の充実と効率よい迅速な対応―日本以外の4か国(例えば写真にあるように、イスラエルは容易に検査ができる仕組みを整えた)

(3)医療システムの充実(国民皆保険・安い医療コストを含む)―日本を含めて全て

(4)トップのリーダシップと政府への高い信頼感―ドイツ、韓国

(5)地方分権のメリット(州政府への権限移譲)ードイツ

(6)国民の健康意識の高さ―日本

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5. ここで私が面白いと思ったのは、(3)の医療システムは日本を含めてすべての国が評価されている。

ところが、政府の対応と検査体制(上記の(1)&(2))となると、日本だけが評価されていない。

代わりに、唯一「国民の意識」が出てくる、という点です。

―具体的に日本についてどういう点を評価しているかというと以下の通りです。

 (1) 新型コロナウィルスへの今までの的確な対応は評価される。

 (2) 心配は徐々に悪化の傾向が見られることで、首相は「緊急事態」を宣言した。ただロックダウンには至っておらず、ここまでは優れた医療システムのお陰と言える。

(3) 加えて、もともと清潔好きな国民であり、普段から健康志向がきわめて高い。日本人の6割が毎年、定期健康診断を受けるという統計もある。

(4) マスクも、以前から当たり前のように国民の多くが使用していた。

(5) 検査数は少なく、この点は遅れている。しかし、誰もが具合が悪いとすぐに病院に行き、CTスキャンをしてもらう。

―他方で、韓国やドイツでは、政治リーダーに対する高い信頼と支持が強調されます。

―他国についての評価で出てくる「政府(government)」という単語は、日本について1度も出てきません。 

 以上、BBCの記事を読むと、「日本は政治のリーダーシップは、特筆することはない。しかし医療システムと国民の健康志向の高さは従来から「レガタム」も認めている。それが今回の伝染病感染にも生きている」ということになりそうです。

 もちろん、事態はこれほど単純ではなく、医療現場の崩壊も懸念されて、楽観視はできないでしょう。しかし日本の強みは「国民の健康志向だ」という見立ては、納得的ではないでしょうか。

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6. ところで、この「レガタム繁栄度指数」ですが、「健康度」では日本は2位(1位はシンガポール)と立派なものです。

 しかし、総合評価は19位です。もちろんこれでも高い評価ですが、この順位は「個人の自由度」は31位、「ソーシャル・キャピタル」は132位という低い数字が足を引っ張っていることも報告しておきます。

ソーシャル・キャピタル」は「社会関係資本」と訳されますが、社会における人々のつながり・ネットワーク・信頼関係などの指標です。

 皮肉な言い方になりますが、「日本では、社会や人々はあまり頼りにならない。だから自分の健康は自分で守る、そのため病院にも頻繁に行く」ということでしょうか。

 もちろん、最初に書いたダブルベッドに寝ないといった文化や風習も大きいかもしれません。少なくとも夫婦間では、日本人は昔から「ソーシャル・ディスタンシング」に慣れているのかなとも思いますが、それにしてもDVが増えているのは悲しい話で気になります。 

朝の散歩で考えた、新型コロナウィルスの「死者率」

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1.「あの戦後の惨めな経済情勢から,我々は努力して今日の繁栄を築くことが出来ました。しかし戦争で失った命は帰っては来ませんでした」。

 前回頂いたMasuiさんのコメントを読み返しながら、命を守る人たちを思い、自粛を続けています。

 ここ2週間、出かけたのは朝の散歩と病院行きのみ。(家人は食材を買うため、ごく近くのスーパーに行きますが)。

 まだ「宣言」が出る前に、中央高速を走って「桃源郷」と呼ばれる釈迦堂SAにある花桃を眺めたのが懐かしいです。

 いまの散歩は、東大キャンパスは入れないので、フェンス越しに咲いている八重桜を眺め(学生の姿もありません)、もと東京教育大農学部あとの駒場野公園は閉めてないので、ここまでの住宅地を歩きます。

f:id:ksen:20200415090820j:plain2.  病院行の1つは親知らずを抜く手術です。南新宿のJR東京総合病院に1泊入院し、手術は局部麻酔ではなく、「セデーション」での治療ということで全身麻酔ほど強くないが、鎮痛剤を投与して行いました。

  手術中は意識はほとんどなく、終わってからどのように病室に戻ったかも記憶になく、1時間ほどそのまま寝てしまいました。末期医療などに使われるようで、こういう風に最期を迎えるのもいいなと思いました。

  親知らずは腐って、周りに膿がたまっていて、ほっておくと化膿する、早く抜いてよかったと医者に言われました。病院はこういう時期だけに普段より空いていました。

 医者も看護師も皆さん親切です。今回ささやかながら手術入院をしたせいで、コロナに立ち向かっている人たちのご苦労を前より一層身近に感じました。

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3.「全国に緊急事態宣言」が出て、事態はどう変わるのでしょうか?

京都の岡村さんが、「イノダ」が空席だらけになった写真と人気のない祇園花見小路の写真を送ってくださいました。どちらもこの時期、ほぼ終日人出で埋まっている筈です。

 喫茶店の「イノダ」は元旦を含めて、1年365日、朝7時から開いています。常連の座る円卓があって、「ミスター京都人」と私が呼ぶ柳居子さんは1日も欠かさず、仕事前の7時過ぎから数十年もこの円卓に座っています。

 常連の中には、お医者さんも3人いると聞きました。この時期にお医者さんも交えてどんな会話が交わされているか興味がありましたが、年中無休の「イノダ」の伝統も変わるのでしょうか?

 いつ、また京都に行かれるでしょうか?今年の山鉾巡行はどうなるでしょうか?

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4. 事態が良い方向に変わるといいのですが、世界的に感染者は増え続けています。

全くの素人である私が勝手に注視しているのは、各国の「死者率」です。分母は国連統計の人口、分子はWHO situation reportが毎日発表する死者数です。

https://www.who.int/emergencies/diseases/novel-coronavirus-2019/situation-reports/

 人口の多寡にかかわらず比較できるので、「死者数」と同じように大事な指数ではないでしょうか。

 

5. この数字を最新の4月17日発表から、人口10万人単位の指数を調べて、以下の3つのグループに分けてみました。日本は18日新聞発表・国内のみの数字です。

(a)1% 以下の国――インド(0.03)、日本(0.16)、シンガポール(0.17)、ロシア(0.18)、インドネシア(0.18)、ニュージーランド(0.22)、オーストラリア(0.24)、中国(0.32)、韓国(0.44)、 

(b)1~10% ――イスラエル(1.64)、カナダ(2.80)、オーストリア(4.50),ドイツ(4.63)、デンマーク(5.56)、イラン(5.87)、アメリカ合衆国(8.57)、

(c)10%以上――スイス(11.82), オランダ(19.38)、英国(20.33)、フランス(27.48)、イタリー(36.61)、スペイン(40.93)、ベルギー(42.09)・・・・・・

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6. 以下注釈すると、

(1) 以上はごく一部の国を拾っただけです。

   分母は各国が毎日WTOに報告する数字です。従って、どこまで正確な数字かは分かりません。(中国は過少報告だったとして、17日には一挙に1290人前日比増えて、総数4642人になりました。日本の数字も新聞のより低いです)。

(2) 国によっていかに大きな違いがあるか、欧州の一部がいかに突出して多いかが分かります。

(3) 死者の絶対数では、アメリカが最大で,続くスペインの死者の3.5倍も多いです。しかし「死者率」で比較すると、スペインはアメリカの4.7倍以上です。

 「死者率」で世界でいちばん高いのはベルギーです。

(4) しかも、この数字は、日本を含む殆どの国で連日2桁~3桁で増加しています。まだ通過点に過ぎないということです。

(上記した23か国のうち、16→17日の増加がゼロないし1桁は、オーストラリア0、シンガポール0、韓国1、ニュージーランド2の4か国のみでした)

 7. 最後に日本は、「死者数」でも「死者率」でも,シンガポールニュージーランドやオーストラリア、などと並んで、少なくとも現時点では「幸い」、きわめて低いグループに入っています。

 その理由は、素人の私には全く分かりません(迷走し、リーダーシップと庶民への思いが不足していると見える、この国の政治家の存在にも拘わらず「幸い」、と言うべきか)。

 ただ,気になることを言えば,

(1)死者数が一向に減ってこないこと。このところ連日2桁で推移。他方で例えば韓国は一時よりかなり減ってきている(最近は日に1桁台が続く)ので,両国の差が徐々に縮まっている。

(2) よく言われるように、医療現場の疲弊、崩壊の懸念、

(3) そして最後に西浦北大教授の「日本がこのまま対策を取らなければ、最悪40万人以上の死者が想定される」という警告です。

 40万人という数字は、現状からみると想像を絶する事態ですが、もちろんそうはならないように皆が苦労して、耐え忍んでいる筈です。「家に居よう、医療の現場と従事者を守ろう、命と生存を救おう」の3つの標語を、心に留めています。

 

新型コロナウィルスと闘うロンドンから

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1. COVID―19は世界で、日本で、いつどのように収束できるのでしょうか?

前回はニューヨークの情報を報告しました。コメントをいろいろ頂きました。

・田中さん:リーダーは心を込めて、命をかけて、国家・国民を守る。自ずと、言葉と態度に出ると思うのですが。

・藤野さん:3.11の時、少なくとも菅首相は先頭に立って走っていました(批判はありましたが)。枝野官房長官は精力的に発信を繰り返し、#枝野寝ろというハッシュタグが作られました。全力投球していたように思います。

・Masuiさん:まずは私の様な年金生活者は家でじっとすることが義務です。このままですと、ニューヨークと同じになってしまいます。

・岡村さん:野戦病院とはこの様なものではないかとニューヨークの出来事を想像しました。毎日の感染者が増えていく発表は枝野さんの原発の状況の報告を思い起こし、吉田所長のように現場に留まり指揮をされ仕事にあたった人達の事が思い出されます。ニューヨークの医療現場も同じように使命を持ってあたっておられる人達だと想像しています。命をかける人が居る。それを知っただけでも心が癒されます。

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2. こういう良識ある方々の思いにはほっとします。

 しかし、世の中いろいろな人がいます。家庭内暴力、困窮のあまりの自殺、感染者・医療従事者に対する差別や誹謗中傷、集団感染の大学への数百件におよぶ脅迫電話、などなどこんなときに人の性が出てくるのでしょう。

 いま世界でも一二を争うたいへんな状況にあるイタリアからイタリア人の友人がフェイスブックに、ゴミの散らかる写真とともに、以下の言葉を紹介してくれました。

―― “ Il virus e la malattia più grande di questo pianeta sono e continueranno ad essere gli umani.”――

イタリア語はまったく分からないので翻訳機能に頼ると、以下の意味のようです。

「この惑星で最大のウイルスと病気は, 人間であり続ける。」

言い得て妙な言葉だと思いつつも、悲しい気持ちになります。

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 3. もちろん、ウィルスみたいな人間はごく一部の少数と思いたいです。

そこで英国からの情報をお届けします。海外から日本を見ると、少し危機意識が足りないように感じるのか、厳しいことを言ってきます。

 

・英国では、「コロナに患っても、重症・重篤でなければ家で治せ・病院来るな・検査はしない」というのが原則です。英国の感染者数は、日本の10倍以上とはいえ、全てではなく、医療従事者や重傷者などを中心の数字です。

 日本も、命に関わる病気でなければ、自分のため、他人のため、医療従事者のために家にステイされるのが賢明です。

・初めジョンソン首相は楽観的でしたが、その後ウイルス封じ込め作戦の失敗をあっさり認め「降伏宣言」して、その後の「外出禁止令」などの対応は評価できます(もちろん感染者も死者も一向に減ってはいませんが)。

 

・いまは、以下の3つの分かりやすい標語を徹底して訴えています。

  1. STAY HOME! (家に居よう!)
  2. PROTECT THE NHS! (病院と医療従事者を守ろう! NHSは「国民保険サービス」)
  3. SAVE LIVES! (命と生存を救おう!)

 

・出かけなければ良いのです!あなたが家に居続けることで、病院や医療従事者、一般の方々の多くの命を救うことができます!

 ITを活用しての勉強・仕事・交流、家族との会話、テレビや読書、軽い運動やストレッチなどで過ごすしかありません。

 食材や食事はなるべくデリバリーにして、配達人とは接触せずに家の外に置いてもらう。緊急時の薬や食材など最低限の買い出しの際は、手洗い・マスク・除菌、顔を触らない、最低2メートル人と距離を取ることなど一般に感染を防ぐ効果があるとされていることを徹底する。

・ 英国では高齢の親や伴侶が感染して重症で病院に運ばれる際、当然、伴侶や家族は病院へお見舞いにも行かせてもらえませんし、「自宅を出る時が、貴方が愛するひととの最後のお別れの時と覚悟しなさい!」と政府の人も言っており、もはや常識です。

 フランスで48歳男性患者が最期に「これが私の死なのか。妻にも4人の子供にもひと目も会えずに死ぬのか」と激しく泣いた(そして数時間後に亡くなった)という話をインスタで見て、このウイルスの一番残酷な点はこれだと思いました。

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4. 上のようなアドバイス、まことに尤もと思います。

 しかし日本の場合、居住空間の狭さ、働き方、食材のデリバリー・サービス、IT環境、寄付文化などなど、英国との違いは大きく、なかなかこの通り実施することは難し いなとも感じます。

 例えば、家に居て、娘が長屋の隣人と歓談している写真を送ってきました。隣人とたしかに2メートルほど離れています。しかし広い裏庭で、東京の我が家で同じことはとてもできません。

 それでも、Masuiさんのような高い意識を持つことは大事だと再認識しました。

 

5. 英国のボランティアについても書いてくれましたので、この点も報告します。

(1) イギリスでは、医療スタッフが足りずNHSへのボランティアの募集を政府がかけたところ、予定の3倍の75万人がすぐに集まりました。一般人は、食料や物資を老人宅へ運んだり、電話で話し相手になってあげたりします。

(2) このうち、NHSのリタイア組の医者とナースは1万1千人います。ご家族は最前線でボランティアなどして欲しく無いだろうとは思いますが。

 既に、10人以上のボランティアスタッフが亡くなっています。志の高い志願兵です。

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6. 英国政府が、「Save lives」の視点に立って、迅速かつ手厚い生活保障の施策を実施していることは日本でも報道されています。

 山中伸也教授のホームページにも「各国の対応」についてイギリスの説明もあります。https://www.covid19-yamanaka.com/

 そして上にあげたボランティアだけではなく、様々な団体や有名人(スポーツ選手など)や実業家・大富豪からの大規模な寄付も報道されています。

  翻って日本はどうでしょうか?米国のビル・ゲイツが早速寄付したという110億円の巨額まではいかなくとも、かっての渋沢栄一のような活動を見せてほしいものです。

 むしろ、草の根の人たち、中堅企業やNPOが頑張っているようで、こういう明るい話題もメディアはどんどん報道してもらいたいです。

 以下は、家人がテレビで知ったほんの一例ですが、クリストサラダという小さな会社の取り組みの一例です。応援したい気持ちになります。

https://www.crisp.co.jp/

「ソーシャル・ディスタンシング」とニューヨークから

1.東京でも「ソーシャル・ディスタンシング」が当たり前の日々になりました。

 つい10日ほど前までは、冒頭の写真のように桜を楽しむ家族連れが見られました。いま同じ駒場公園には入れますが、ほとんど人気はありません。

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2.とうとうアメリカが感染者で世界一になりました。ニューヨークのセントラル・

パークに急遽こしらえたテントの仮設病院が並んでいる光景をテレビで見るのは、9年住み、働いた懐かしい街だけに悲しいです。

 長男が、集中治療医としてNYの病院に勤務する日本人の友人のフェイスブックを転送してきました。ご存知の方も多いと思いますが、悲痛な叫びです。――

(1)病院は地獄絵の様相。現場は崩壊寸前。

(2)街は、外出禁止令がでてもまだ沢山の人が外出していた。ニューヨーカーの多く

もここまでひどくなることを予測してなかったと思う。

(3)それが、ここ2週間で見る間に患者が増えて病室も人口呼吸器も足りなくなった。

 今自分の目の前に2人、今すぐ人工呼吸器を必要としている患者がいるとする。でも病院にもう一つだけしか人工呼吸器が残っていなかったら?集中治療医としてその決断を迫られた時どうやってその最後の一人を選べというのか。

 ERや病棟で10人も20人もの患者がICUのベッドが空くのを待っている状態で、一つだけICUのベッドが空いた時どうやってその1人の患者を選べばいいのか。

(4) 同僚や看護師も何人もコロナにかかった。私が担当するICUで、いまも彼らが人工呼吸器を装着されて生き延びようとたたかっている。

 今となっては街中の誰が感染していてもおかしくない状態なので、病院は家族との面会も許可していない。患者は孤独にこのウイルスとたたかっている。

(5)毎日休み返上で働いても患者は増える一方で、終わりなき戦いに思えてきて白旗

をあげたくなる。ピークに達するまでまだ時間があり、その頃にはこの病院がどうなっているか想像するだけで恐ろしい。

(6)自分がかからない保証などどこにもなく、ウイルスを病院から家に持ち込んで家族にうつしてしまうことが一番怖い。

(7) 他の街がこんな悲惨な経験をしなくていいように心から願う。外出自粛、辛抱してほしい。

 今この状況になったからこそ気づかされることが沢山ある。家族や友達と会ってお喋りしたりハグしたり買い物に行ったり公園に行ったり、気軽にそうできることって幸せなこと。生きているってそれだけで本当に幸せなこと・・・

3.このメールを読んだのは4月1日(水)ですが、ちょうど読み終えたら、NYの某さんから電話があり、暫く話しました。昔の職場の友人で同地に永住し、セントラルパーク・サウスのアパートに一人で住んでいる70歳の女性です。

 「日本の検査件数は(ドイツなどに比べて)なぜこんなに少ないんだろう?ニューヨークの数週間前の状況に似ているのが何となく心配」と言っていました。

いまは不要不急以外の外出は禁止。今週から、市が65歳以上の高齢者には無料の食料品配達サービスをしてくれることになり、本当に有難い、とも言っていました。

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f:id:ksen:20200401103115j:plain4. こういう「ソーシャル・デスタンシング」の中で、普通の人たちはどうやって日々

を過ごすのでしょうか?

 英国の公共放送BBCの電子版は、新型コロナウィルスに関するさまざまな短い、数分で終わるヴィデオ・メッセージを刻々流しています。

 その中には日本のTVで見た方も多いと思いますが、「世界中の人たちがアパートのバルコニーに出て、奮闘する医療従事者を称えようと、拍手を送る場面」も流しました。英国の王室の幼い子どもたちもいました。

 そういうメッセージの1つに、「ロックダウンから学ぶこと」というのがあります。

イタリアのローマですでに2週間以上、アパートの自宅にロックダウンされている家族(夫婦と息子の3人)を、レポーターが外から取材したものです。

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 3人家族は夫が食糧品の買い物で2回外出した他は、2週間一度も外に出ていない。レポーターは「どういうことが大事ですか?」と尋ね、しばらくやり取りが続きます。格別目新しいアドバイスはありませんが、以下のような返事です。

(1) 毎日、その日の過ごし方を計画するようにしている。

(2)妻は居間に、息子は自分の部屋でオンライン授業に、といった具合に3人が別々

に過ごす時間が大事。

(3)くたびれたら皆集まって、本を読んだり、TVを見たり、ゲームで遊んだりする。運動もする。家族が共に過ごす時間が増えたことが唯一、良いことかもしれない。

――いつまで続くか分かりませんが、「あなたたち勇敢ね。頑張って」とレポーターが励ましていました。

 私たち東京人の多くは、こんなに居住空間が広くないので、もっと難しいかもと思いながら、眺めました。

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5.災難は常に、災難に立ち向かう当事者(今回であれば病人と医療現場の人たち)と

経済的弱者を痛めつけます。強者(権力者、為政者、富裕層など)の多くは、自らの身はそれほど痛まないのではないか。

 だからこそ強者には、当事者と弱者の苦難と痛みをどこまで感じられるか、どうしたら助けられるかの想像力、それをふまえた判断力と「速やかな断固たる行動」が、問われているのだと思います。

 最後に、前述した在NYの女性から、本日早朝届いたメールの一節です。

――「(1)NYではクオモ知事が医療現場が対応できるか否かは「感染をいかに最小限にくい止めるかにかかっており、自宅待機、他人との距離を6フィート(180センチ)以上保つこと」を強く要請しており、その喧伝放送がかまびすしい程です。

(2)ピークは7日─21日後と予想されましたが、当の7日後である4月9日が来週に迫り、クオモ州知事とNY市長の発言にも緊迫感をひしひしと感じます。

 喫緊の課題は 人工呼吸器を想定必要数用意する事で、そのために警察と州兵を動員して、強制的に シェアリング (NY州内の医療機関が私有する人工呼吸器を、必要とする他の病院に貸与)することに踏み切りました。

(3) 今回のことで政府のリーダーシップと役割が如何に重要であるかを身に染みて感じます。クオモ州知事は毎朝一時間近く記者会見を開き、NY州民に対しブリーフィングしますが、それがテレビ(ラジオ)にて Live 放送されます。内容は検査・罹患・死者数を含めた現況報告、専門家(主に医療関係者)の意見、これからの見通し、これから州政府が実行することの予告などです。

 クオモ州知事の発言にはデータに基づいた透明性があり、彼の確固とした自信とリーダーシップに安心感を抱きます」。――

「ソーシャル・ディスタンシング」の中で、アーダーン首相を考える

 

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1.「social distancing(他人と距離を保つ)」と「self isolation(ひとりになる)」という、今まで耳にしなかった2つの英語が、メディアに頻繁に登場するようになりました。この週末は東京も諸外国に近い「外出自粛」になりました。

世界のどこを見ても逃げ場がなくなってきているようで不安ですが、ロンドンからの情報では、

・原則外出禁止。可能な限り在宅勤務。

・レストランやパブも閉鎖。テイクアウトはOKなのでお客は増えている。

・スーパーに物が無くなった。

・英国は食材のデリバリーサービスが発達しているが(アプリで買い物をして自

宅まで届けてくれる。中にはロボットが届けるところもある)、注文が殺到して

2週間待ちの状況。

・ただし、学校も休校というが、システムが出来ているので授業はオンラインでやっている。この点は日本と違う・・・と言っていました。

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2.東大駒場キャンパスも、原則立ち入り禁止となりました。

その前に図書館に行き、「週刊文春」3月26日号のスクープ「森友自殺財務省職員遺書全文公開」のコピーをとって家人に見せたところ、友人に転送していました。

発売当日、この職員の妻が国と佐川元国税庁長官を提訴し、多くの新聞が朝刊の1面トップに報道しました。なぜか東大の図書館には、以前からこの手の週刊誌は「週刊文春」だけが置いてあります。

東京新聞によれば、「53万部が完売した。発売当日から多くの人が買い求め、ツイッターなどに感想を書き込んだ。電車で読んで涙した人もいるという」。

民主主義の根幹である「司法の独立」が果たしてこの国に存在するのかが問われているのではないでしょうか。裁判所も、検察が「証拠不十分(隠滅し、証言も拒否したのだから不十分なのは当然)」で不起訴としたように、同じ理由で「原告敗訴」の判決をするのか。

週刊文春」を始めメディアがこれからもフォローできるか、それ以上に国民の関心が高まるかが左右するのではないか。この国は「外圧」に弱いので期待したいが、この事件はすぐれて国内問題なので、残念ながら海外のメディアの関心は高くないかもしれません。

セクハラ事件の伊藤詩織さんの場合は、「日本にもやっと#Metoo運動が始まったか」という国際的観点から、NY Timesなど海外が大きく取り上げました。外国特派員協会も記者会見に招きました。この事件も検察が(驚くべきことに)不起訴とし、彼女は刑事を諦めて民事で訴え地裁で有罪をかちとりました(被告は上告中)。

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3.ウィルスに戻ると、前回のブログで紹介したメルケル首相のスピーチについては、いろいろコメントを頂きました。

(1)「いまこそ、哲学や倫理の知見を政治にも取り込むべき」と書いた日経記事の紹介(木全さん)、

(2) 大手鉄鋼会社から派遣されて若い頃にドイツ留学をした方の、このスピーチへの高い評価(Masuiさん)・・・・などです。

皆さん、女性の政治リーダーシップにも触れて頂きました。以下、岡村さんのは、

―「ルーブル美術館で「民衆を率いる自由の女神」の絵画を見た時は思わず、「女だてらに」と思いました。(しかしいま)考えれば、子育てを主にする女性が国民を第一に考えて政治を進めるのも不思議じゃないですね。メルケルさんやアーダーンさんのような女性が今に日本にも現れるのではないか」―というコメントです。

 因みに「民衆を率いる自由の女神」は、1830年フランスの7月革命を題材にしたドラクロアの絵です。横に立つ少年の姿も印象的です。『レ・ミゼラブル』に登場する、最後に市街戦で死ぬガブローシュは作者ユーゴーがこの絵にヒントを得たと言われます。

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4.上に出て来る「アーダーンさん」はジャシンダ・アーダーン、ニュージーランドの39歳の女性首相です。就任後最初の国連総会に生まれたての赤ちゃんを連れて登場して話題になりました。夫がかなりの子育てを受け持っているそうです。

彼女は3月26日夜、フェイスブックで直接国民に向けて、「social distancing & self isolation」の措置を説明し、その場でオンラインの質問に応じました。ニュージーランドは人口わずか5百万弱の小国で感染者は400人弱、死者もゼロですが、「これから増えるリスクがある、自宅にいてください。休業補償もします。誰もが互いに助け合って」と訴えました。                

夜遅く自宅からの放映で緑のジャンパ―の普段着姿。「いま子供を寝かせたばかりで、こんな格好で御免なさい」と謝りながら、気軽に質問に応じた様子です。CNNテレビをPC経由見られますが、暖かな人柄がにじみ出る語りかけです。メルケルさんの(英訳ですが)「My fellow citizens (市民の皆さん)」で始まり「お大事にしてください。有難う」で終わる語りにも同じ印象を持ちました。

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5.アーダーン首相については、タイム誌3月9日号が特集記事を組みました。

(1)1年前(2019年3月15日)、ニュージーランドのクライスト・チャーチでテロリストのモスク襲撃があり、イスラム系の51人が殺害された。その時の首相の対応とリーダーシップは世界の称賛を浴びた。

(2)直ちに犠牲者の家族を抱きしめ、彼らの悲しみに耳を傾けた。国民に「They are us(この国に住むイスラムの人たちは私たち)」と呼びかけ、直ちに議会に諮り、銃規制を強化した。断固として犯人の名前を公表せず、ネット企業と各国に働きかけて、彼がネットに投稿した殺害動画を削除させた・・・・等々。

(3)51人にはアフガン、パキスタンバングラ,インドなど様々な国籍の人がいた。

「何を国民に語るか。すぐに考えたのが、ニュージーランドを自分たちの住む場所に選んだ人たちへの圧倒的な気持ちでした。何世代も住み着いていようが、1年前に来たばかりだろうが、ここが棲み処なのです。そう思ったときに「They are us」という言葉を自然にメモに書きつけていました」。

またこうも語る。「この国は小さく、知る人も少なく、遠い国です。そういう私たちが唯一世界にリーダーシップを発信できるのは、モラル(倫理)の大切さなのです」。

(4)彼女は実はこの9月に1期を終え、改選を迎えます。1期目は彼女の労働党は最大多数ではなく、緑の党との連立で辛うじて首相になりました。現時点の世論調査で、彼女自身の支持率は高いが、中道右派の国民党が46%、労働党は41%で、再選は簡単ではない。

しかしタイム誌は、「彼女は、親切は力であり、思いやりは実行でき、包容は可能であることを身をもって示した」と高く評価します。

ニュージーランドは小国であり、いろいろ問題も抱えています。

しかし世界でいちばん最初、1893年に女性参政権を定めた先進国でもあります。

たしかに岡村さんの言うように、「国民を第一に考えるのが政治」(至言ですね)とすれば、女性の政治リーダーの方が向いているのではないでしょうか。

ドイツ・メルケル首相のスピーチとある英国クルーズ船の対応

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1. 新型コロナウィルスについて、ドイツのメルケル首相が18日夜異例のTVスピーチを行い、世界で話題になっています。

「第二次大戦以来の試練」に直面して、国民の連帯を呼びかけました。ドイツ政府の公式サイトから英文で読むことができます。

https://www.bundesregierung.de/breg-en/search/statement-chancellor-1732302

「市民の皆さん~」の呼びかけから、「皆さん自身と愛する人たちを大事に。有難う」で終わる約15分の間に、「民主主義」という言葉を4回も使いました。

「直截で、正直で、思いやりにあふれたメッセージ。まさにリーダーのあるべき姿を示した」とあるアメリカのメディアは評しました。

(1)「いまこそ民主主義とは何かが問われています。まず第一に私たち政府は透明な政治判断をして、それを皆さんに伝えます。次に誰もが参加し、連帯することです」

(2)「真っ先に感謝したいのは医療現場の人たちの献身です。素晴らしい仕事をしている皆に心からのお礼を申し上げます」。

(3)「普段あまり光の当たらない人たちにもお礼を言いたいのです。スーパーマーケットのレジや棚に物品を補充している人たち。私たち仲間のために困難な仕事を続けていることに、本当に有難う」

(4)「封じ込めの施策はもちろん重要で全力を尽くしています。しかし、ウィルスとの戦いでいちばん大事なのは私たち自身です。他人は気にしなくていいのだと一瞬たりとも考えずに、誰もが大事、そのために連帯しなければなりません」

――と語る彼女は、具体的な「助け合い」のあり方にまで言及します。

自らの若い時の東独時代にも触れて、共感にあふれた、格調高い感動的な語りかけです。

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2.メルケルさんの言う「連帯」の一例になるかどうか、次にクルーズ船の報告です。

 と言っても、横浜に寄港したダイヤモンド・クルーズ号ではなく、事情があって、別のクルーズ船に関心を持たざるを得なくなりました。

 フレッド・オルセンという英国の船会社の「ブレーマー号」がカリブ海を航海中、同じようにコロナウィルス感染の疑いのある乗客が見つかりました。

 予定の港への寄港を拒否されてキューババハマ沖にしばらく漂流せざるを得なくなりました。乗客は約680人、乗員は約380人で乗客の多くが英国人です。

 結果的には、船会社が英国政府と緊密迅速に連携し、かつキューバ政府が一時的な寄港をOKし、英国航空が飛行機を3機ハバナに飛ばして(1)健康状態に異常のない乗客全員、(2)感染の疑いのある5人は別の飛行機に乗せて、(3)船は乗員が運行し、乗客は19日無事英国に帰国。(1)は隔離の要なく、2週間の自宅待機になったそうです。

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3 フレッド・オルセン社はホームページに、この出来事を適宜報告しました。

(1) さらに同社のフェイス・ブックのサイトがあり、「ブレーマー号の現状Braemar update」と題して時々刻々、頻繁に状況を伝えました。

 また、フェイス・ブックの特性を生かして、サイトを見ている家族や友人からのコメントや希望・質問などが載り、他の人もその情報を共有することができます。

(2)ここから分かることは、以下のような進展状況です。

・まず会社と英国政府とが緊密に対応を協議しています。感染の疑いのある客は直ちに隔離し、専門の医者が急遽英国から飛んで、送り込まれました。

・その上で、直ちに全員を英国に連れて帰る決定をしました。

・しかも、こういう状況が、フェイスブックを通じて的確に情報発信されました。

・情報の中には、「船上なので乗客との通信に支障が出るが、必ず本人に伝えるから~~に連絡してほしい」といったメッセージも流れます。

 たとえ観光旅行であっても、これがメルケルさんの言う、「誰もが大事」の精神ではないでしょうか。同社の対応には、危機管理のイロハを教えられた感じがします。

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4. フェイスブックを通して心配していた人たちも同様に感じたのでしょう。

 無事に、「飛行機で全員が英国に帰れます。翌々日にはヒースロー空港に到着します」と報じた際には、コメントが殺到しました。安堵と同時に感謝の言葉が多かったです。   例えば、

――「素晴らしいニュースで、ほっとしました。献身的に働いてくれた乗員の皆さん(英雄たち)にはまだまだやるべきことがあるでしょう、ご苦労様。ジョゾ船長には乗客全員の面倒を見て、コミュニケ―ションをよく取ってくれたこと(少なくとも不安を軽くしてくれたこと)に、心から感謝します。あなたは力強い支え(a pillar of strength)です。寄港をOKしてくれたキューバの親切にも感謝します、神の恵みがキューバにあるように。皆さんお元気なことを祈っています~~~」―――

 他に、「他のクルーズ船会社の場合、ここまでの情報提供はない。貴社の対応は素晴らしい」「全員無事に帰ってきてください」「本社の社員もハードワークだったろう。帰国が決まって彼らが涙を流して喜んでいる写真をみて、家族のような雰囲気だと思った」「復帰してクルーズ再開が待ち遠しい」など、さまざまなコメントがありました。

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5. フェイスブックのサイトは英語です。ところが、日本のPCからアクセスするためか、「翻訳」機能がついていて転換すると日本語でも読めます。

 おまけに、このクルーズ船に乗っている日本人は1人しかいません。しかも彼は、観光ではなく仕事で、ゲスト・アーティストとしてピアノ演奏をしました。

 彼は予定の船上でのピアノ演奏を終えたあと、感染の疑いを知った訳です。「長旅になるのでみなの気持ちが沈むのを避けるため、もう一度リサイタルを開けないか考えています。演奏会場に集まってもらうのが無理になったので、無人のホールで演奏して船内テレビで中継してもらい、元気付けることができればと思っています」と語っていたそうです。

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6. この出来事に、いろいろと感じるところがありました。

・船を運行している会社が関係国と緊密な連絡を取って、責任を持って行動する。

・スタッフ(この場合は船長他乗員)と本社の真摯な、心のこもった対応。

・的確かつ正確な情報発信と、現代のインターネット技術を生かして出来る限り双方向  のコミュニケ―ション。

・「よくやってくれた」と心をこめて関係者を称賛すること。

・そして最後に、危機にあたって他者に寛容であること。

―――などの大切さでしょうか。

 振り返って、ダイヤモンド・プリンセス号の場合は、あまりこういう報道はなされなかったように思いますが、やはり同じく、船長以下、船に乗っていた医師や看護婦や乗員は、献身的な努力をしたのではないでしょうか。

この時期出掛ける場所として、墓参と神代植物公園。

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1.今年の3月は、10日は東京大空襲から75年、11日は東北大震災から9年。そしていまは伝染病。13日の読売新聞論説は「21世紀の人類の、感染症との最初の本格的な闘い」と位置付けています。

 東北大震災について東京新聞に、震災で若い父親を亡くした8歳の少女の詩が追悼のシンポジムムで朗読されて涙を誘ったという報道があり、「あいたいよ、パパ」と題した詩の全文が載っていました。

「生まれる前に逝った父へ」の記事によると、父親は当時23歳、宮城県石巻市の自宅付近で津波にのまれた。母親と6日前に結婚式を挙げたばかり。「大丈夫?」、身重の妻を気遣うメールを最後に連絡が途絶えた。

 彼の妹と祖父母がともに死去し、震災の4か月後に生まれた、少女はいま母とその祖父母の実家に暮らしているそうです。

 今回の新型コロナについて、ある友人からのメールに「始まりがあれば きっと終わりもあることでしょう」という言葉がありました。

 その通りだなと思い、少し元気をもらったような気がしました。

 しかし、「終わりもある」、しかしその間に悲劇も起こる、その中には「あいたいよ、パパ」と訴えるような人たちもたくさんいる、と思うと悲しいですね。

 同じ日の同新聞には、75年前の大空襲(約10万人が亡くなった)で親や兄妹を亡くした高齢者の辛い思い出話も載っています。

f:id:ksen:20200315081426j:plain2.そんなことを、家人と散歩をしながら話したり、考えました。

 家に居ることが多いですが、先週は暖かな日が多かったので、家人と墓参りに行き、神代植物公園にも行きました。

 まだ梅も咲いており、「椿とさくらまつり」も始まったばかりで、早咲きの「東海桜」が満開でした。薔薇はもちろんまだですが、手入れの人たちが熱心に働いていました。数か月後が楽しみです。

 この時期、こういう場所に行くのがよさそうです。とくに墓地は、死者とは感染したり・されたりの心配はありません。

 東大駒場の図書館も春休みなので学生も少なく、静かです。キャンパスを歩いていたら近くにお住まいの友人に2度も会いました。彼はバード・ウオッチングが趣味で、キャンパス内の池の近くは格好の観察場所だそうです。良い趣味だなと思いつつ、「お互い、他に行くところがありませんね」と苦笑いをしました。

3.前回は、売れているという、カミュの『ペスト』を紹介しました。

 もちろん「売れている」というのは、日本だけではありません。欧米はそれ以上だそうです。

 3月5日付の英国ガーディアン紙によると、本書は、フランスでもイタリアでも前年の3倍以上売れてベストセラーのリスト入りした、英訳(題名は「The Plague」)はアマゾンの在庫が無くなってしまった、と報じています。

それともう1つ、ディーン・クーンツという作家のホラー小説『闇の奥』が爆発的に売れているとか。本書は、1981年作で、2020年に中国が「武漢400」と名付けた生物兵器を開発するという話が出てくるそうです。たまたま同じ年ということもあって話題になっているようですが、中身は読むほどの本ではなさそうです。

https://indeep.jp/in-1981-powerful-biological-weapon-wuhan-400-is-born/

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4.フェイスブックから友人が「もう一つ話題の小説は、アレッサンドロ・マンゾーニの『いいなづけ』です。イタリアでは教科書にも載る有名小説で17世紀のミラノを襲ったペストに触れた部分があり、邦訳もあります」と教えてくれました。

 また別の友人は「17世紀30年戦争でドイツで蔓延したペストで、バイエルン小村の村人が集まって、キリストの受難を毎年行いますからお救いくださいと祈るや、ぴたりとこのペストがなくなり町は救われたとの伝説があり、4百年後の今も受難劇が行われているオーバーアマガウに想いが行きました。1980年に故辻邦生夫妻と共にこの受難劇を見た想い出があります」という興味深い思い出話を書いてくれました。

 中世の日本だって、伝染病がしばしば蔓延しましたが、祈とう師に祈るぐらいしか手だてはなかったようです。

 しかし、震災や空襲の悲劇を思い起こしても、「神も自然も不公平・不公正、つまり不条理」と考えざるを得ません。だからこそ、せめて人間は、可能な限り「公平かつ公正であろう」と自ら、あるいは連帯して努力するしかない。カミュは『ペスト』を通してそう言いたかったのではないでしょうか。

 彼は、「不条理は、それに同意を与えないかぎりにおいてのみ、意味があるのだ」と語り、主人公の医師リウーは「ペストと戦う唯一の方法は誠実さだ」と語ります。

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5.今回も『ぺスト』から、以下1か所を引用して終わりにします。 

――本書では、ペストが終息に向かう最後の最後になって,タルーが感染したことが分かる。自由人のタルーと医師のリウーとはこの悲劇のなかで親しく会話を交わすようになり、タルーはボランティアの結成の音頭をとってリウーを支援する。

 リウーの母は、「まさか、今になって」とつぶやき、「うちにおいてあげようよ」とリウーに提案する。二人は、患者は隔離病棟に収容しなければならないという規則を破って、自宅でタルーを看護する。

 戦いの夜が沈黙の夜へと移り、タルーは「勝負に負けたのであった」。母子は向き合って、彼の死を弔う。

 ・・・・タルーは勝負に負けたのであったーー自分でいっていたように。しかし、彼、リウーは、いったい何を勝負にかちえたであろうか?彼がかちえたところは、ただ、ペストを知ったこと、そしてそれを思い出すということ、友情を知ったこと、そしてそれを思い出い出すということ、愛情を知り、そしていつの日かそれを思い出すことになるということである。ペストと生とのかけにおいて、およそ人間がかちうることのできたものは、それは知識と記憶であった。おそらくはこれが、勝負に勝つとタルーの呼んでいたところのものなのだーー

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 リウーが黙って母と向き合う場面は印象的です。カミュはいつも寡黙な彼女に名前を与えません。

 女性に対するカミュの態度はこの小説の中できわめて抑制的です。

 それは、祖母と母と過ごした彼の極貧の少年時代と、教育もなく、生涯働きづめだった障害をもった母への深い愛情と関係しているのでしょう。彼の母は字を読むことも得意ではなく、彼がノーベル文学賞を受賞したときにも、感想を問われて「何も言うことはない」と答えたそうです。小説の中のリウーの母は、聖母のようなイメージで描かれます。