福井の三国町の喫茶店「たぶのき」と思い出話

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1. 前回報告した「Go to」を利用した福井旅行を無事に終えてから、某大学病院で半年に1回の定期的な診察を受ける機会がありました。

「最近、家に閉じこもりですか?」という質問が呼吸器科の先生からあり、

「感染者が増えているときに気が引けますが、実は友人2人と旅をして帰ってきたばかりです」と恐る恐る白状したところ、

「それは気分転換になって、良かったですね」と言われました。

「何事もほどほどが大事です。持病が心配な人はともかく、外に出ることは大事です」という言葉に少し安心しました。

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  1. それにしても感染者の増大は気がかりです。新聞報道では、日本医師会の会長が「我慢の3連休に」と言って往来の自粛を要請したとか、都の医師会長が「Go toの一時中止を」要請したとか、報じられます。

他方で、19日の毎日新聞は、東大の調査で、高齢者の外出が減っていることが明らかになり、これは良くないという東大教授のコメントも載りました。

「高齢者の閉じこもりは心の健康も損ねる。身近な人と会話し、つながり合うことが元気で長生きする秘訣だ」。

どちらもまことに尤もな意見だと素人目にも思います。しかし、そう言われても、さてどうするかと困ってしまいます。

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3.ということで、福井旅行の続きです。

福井城址近くの松平春嶽候が愛した別邸養浩館の庭園と、山奥の神さびた平泉寺白山神社と、北前船で栄えた港に面した三国町の町並みが特に印象に残ったと書きました。

いまは少しさびれた漁港は、独特の雰囲気があります。

「身に入(し)むや、港は夫を待つところ」(繰子、「身に入む」は身にしみる。秋の季語)。

三国町は小説家高見順が生まれ、詩人三好達治が戦時中疎開したところです、町が栄えたころには「森田銀行」という個人所有の銀行まであり、洋風の建物がいまも残っています。

また、鄙には稀な「たぶのき」という素朴な喫茶店があります。他に客のいない平日の昼下がりに、東京からやってきた老人が3人座って、珈琲とチーズトーストを頂きましたが、落ち着いた、良い雰囲気でした。

音響の優れたオ―ディオがあり、古いジャズのレコード盤もあります。チャーリー・パーカー(サックス)、オスカー・ピーターソン(ピアノ)、ジョン・コルトレーン(サックス)、マックス・ローチ(ドラム)など—たまたまでしょうが、すべて黒人です―1950~60年代に活躍した懐かしいアーティストたちの海外レーベルがあります。

 

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  1. お願いして1枚ぐらい聞かせてもらいたいなと思いましたが、一見さんが図々しいことをすべきではないとやめました。読みかけの本を持参して訪れて、ゆっくり過ごしたいなという気になる喫茶店でした。近くにあればそれもできるのですが、東京には最近、こういう、半分趣味でやっているような、静かに音楽を聞かせる喫茶店は見つかりません。

 オスカー・ピーターソンが作曲し、ピアノを弾く「自由への讃歌(Hymn to freedom)」があれば、こんな場所で聞きたいものだと思いました。

歌詞も付けられ、合唱曲にもなり、1960年代、キング牧師を指導者とする公民権運動のシンボルの歌(anthem)としても歌われました。

https://search.yahoo.co.jp/video/search?p=Hymn%20to%20freedom&aq=-1

 1960年代の後半に初めてテキサスのダラスとニューヨークで過ごした若かりし頃聞いた大好きな曲です。

 

5.「実は、若い頃、こんな喫茶店をやりたいと家内と話したものだった」という思い出話をして友人2人に笑われました。

「それじゃ、村上春樹と同じじゃないか。彼も無名のころ喫茶店を開いていた」

「よく知ってるね。そんな大家とは比較にもならないし、ほとんど冗談話だったけどね」

もちろん、真剣に考えたわけではありません。大学卒業後勤め人になったものの、毎日すし詰めの満員電車で決まった時間に通勤する日々になかなか慣れず、結婚したての妻に、サラリーマン暮らしの愚痴をこぼす代わりに、「喫茶店のおやじになって、どうせお客は来ないだろうから、暇な店でレコードを聞きながら好きな本を読んていたい」と出来もしない夢を語ったものです。

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 自分勝手な話で、珈琲を入れる技術など身につける覚悟などなく、たまたま妻がお菓子やクッキーを焼くのが好きだったので、彼女の技量と勤勉さをあてにしての無責任な発言でした。

 それでも面白いもので、その後20年以上経ってロンドンに赴任したときに、妻が何を思ったか突然、珈琲カップを大量に買ってきました。おそらく20脚以上はあったと思います。当時、ロンドンには「リジェクト・ショップ」という店があって、これは多少きずのある新品の商品を定価より安く販売するお店です。だから大した値段ではないのですが、「何れ喫茶店でもやりたいと言っていたので買ってきた」という説明でした。

 もうひとつの理由は、日本にいるときに彼女が友人2人とクッキーを焼いて、注文を頂いて販売するという仕事を始めたこともあります。週に1回3人で焼くだけの、素人の遊び半分の仕事でしたが、それでも「シュガーヒル・クッキー」と名付けて、それなりに好評でした。彼女は帰国したら友人とまた続けたいと思い、それと珈琲カップとを結びつけて購入したようです。

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 帰任のときにもちゃんと持ち帰ったのですが、もちろん所詮は夢物語で、大量の珈琲カップはその後使うこともなく、妻は少しずつ周囲の友人にでも引き取ってもらっていたようで、いつの間にか私の夢と一緒に我が家から消えました。 若い頃はいろんなことを考えるものだなあと、昔を懐かしく思い出しました。

 「たぶのき」には青年がひとり、応対は丁寧ですが、決して愛想の良い・お客の応対の上手そうな若者ではなく、珈琲を入れながら小説の構想でも練っているのかもしれないと想像しました。

カマラ・ハリスの「勝利演説」とGo to 福井のこと

  1. 先週の日曜日8日の朝早く、大学時代の友人2人とGo to トラベルとやらに便乗して2泊3日の旅をしてきました。

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 10日の夜帰宅して、早速PCに向かい、ブログに書いてくださった皆さんのコメントを読み、遅まきながらバイデン、ハリス両氏の「勝利演説」を聞きました。トランプが敗北を認めない中でのスピーチです。

 飯島さんのコメントには、ニューヨークの自由の女神像に刻まれたエマ・ラザラスの詩について学び、「アメリカの原点は移民の国であり、自由と平等の国であることを再認識した」とありました。木全さんは「私も若かりし頃、自由の女神に上り、アメリカに来た喜びに浸ったことを覚えています」とこれに応えました。

 ラザラスの詩には、女神が手に持っている灯り(beacon)は、「世界に向けて“ようこそ”と輝く(glows world-wide welcome)」という素敵な一節があります。「疲れた人たち、貧しい人たち、自由を求める大勢の人たちを私のところに来させなさい」という励ましの詩句もあります。

 昔、船でニューヨークに到着した移民たちは、この巨大な像を眺めながら港に入り、すぐ先のエリス島の移民局で入国の許可を得ました。 

 

 次期副大統領に選出されたカマラ・ハリスの母親は、19歳だった1958年にインドから留学生としてやって来ました。彼女も船できて、まずこの像を眺めたでしょうか。その時、このままこの地に留まると思っていたかどうか。しかし女神は受け入れてくれて、彼女は博士課程を終えて生物学者になり、ジャマイカ出身の経済学者と結婚し、カマラが生まれました。

「勝利演説」の中で彼女は母親に触れて、「私がいまここにあるのは母のお陰である。そしていま私は、アメリカが可能性の国であることを深く信じていた母を始め、黒人、アジア系、白人、ヒスパニック、先住民、道を開いてきたこれらのすべての女性たちのことを考えている・・・・」。

 11分のスピーチの中で、「democracy・democratic」という言葉を7回も使いました。

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 他の方のコメントにも触れると、藤野さんからは、それでもトランプ票が増えていることの指摘があり、また岡村さんからは、高齢者にトランプ支持が多いのに対して、バイデン支持が多かった女性と若者を評価するとあります。お二人の感想に同感です。

 ともかく、今回選挙の最大の話題はカマラ・ハリスの登場でしょう。彼女が、どこまで支持と共感を拡げ、差別や格差を痛感している人たちに勇気を与え、分断を少しでも弱めることに貢献するかどうか、その力量が問われるだろうと思います。

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  1. ということでこの話題を切り上げて、旅の話です。感染者も増え、コロナで職を失ったり、苦境にある人たちのことを考えると心苦しい気持ちもありますが、友人の呼びかけに応じて、福井方面に紅葉を愛でる旅をしてきました。

 

 (1)まず羽田から小松空港まで。機中はほぼ満席で、全員マスク着用。

 (2) レンタカーをして、朝倉一乗谷遺跡、永平寺山中温泉福井市内(城跡な 

    ど)、東尋坊・・・・。何れも私には初めてでした。目的地や旅程のアレンジは 

 全て旅好きの1人の友人にお任せです。

   (3) 宿は、いつもは3人が狭い部屋に雑魚寝をするのですが、今回はGo toのお陰で、次

    の間付きの広い部屋で、その点は有難かったです。

 

3.というようなことですが、名所旧跡などにさほど興味のある方ではなく、久しぶりに友人との時間を楽しむ気持ちの方が強いかもしれません。

 その中で、印象に残った場所はと言えば、以下の3か所です。

 

(1) 福井市の城跡に近い、「名勝養浩(ようこう)館庭園」――ここは越前藩主松平家   

の別邸で、養浩館の命名は16代藩主春嶽による。「庭園は池を中心に、数寄屋造りの屋

敷と池周りの園路から、さまざまな景色を楽しめる回遊式となっており、学術的にも高

い評価を受けている」とのこと。1945年の福井空襲で建物は焼けたが、絵図が残ってい

たので、復元し、1996年に完成し、公開された。

 なかなか見応えがあります。

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(2)白山平泉寺――ここは、今から約1300年前に白山信仰の拠点として白山の越前側から

の登り口に建てられたお寺です。一時は大きな寺院だったが、その後一向一揆に敗れ、

明治の神仏分離令によって「白山神社」として残った。いまは山奥の・人もあまり訪れ

ない神社だが、それだけに素朴で神さびて、静かで、苔がきれいなことで知られる。

 訪れたのは夕方近く、雨も少し降り、古い石段の道をかなり上がったところに、朽ちた

本社があり、社務所もありません。大木に囲まれた無人の社には神秘的な雰囲気があり

ました。

 帰るころには雨が上がり、神社を囲む山の上に虹が出ました。

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  1. 最後の3番目は、福井市の北東にある三国町、いまは坂井市に属します。

 三国港は江戸時代、北前船が寄る港でたいへん栄えました。いまも港には漁船を見ますが、往時の面影はなく、日本海に面した寂しい町です。

 しかし、昔のふるい町並みの雰囲気が少し残っていて、風情があります。花街のあったという通りの近くには、小説家の高見順の生家があります。彼は福井の県知事とお妾さんとの間に生まれました。また詩人の三好達治が戦争中から戦後にかけて5年程住みました。いまはただの港町ですが、何となく気に入りました。

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 ゆっくり散策する時間がなくて残念でしたが、車で、遠くに海が見える丘の上にある資料館を眺めて、街中を少し回り、喫茶店に入りました。資料館は改装中で入れませんでしたが、明治時代の小学校の建物を復元したという、変わった建物です。

 喫茶店は、「たぶのき」という名前の、鄙には稀な、なかなか気持ちの良い・素朴な居場所でここも気に入りましたが、今回は長くなったのでこの辺で終わりにします。

「たぶのき」はクスノキ科に属する木だそうで私は知りませんでしたが、建物のすぐそばに立っています。

 

大統領選直後のアメリカとエコノミスト誌「なぜバイデンか」

  1. 前回のブログは核兵器禁止条約発効の話でした。岡村さんとMasuiさんのコメントを頂き、嬉しく拝読しました。

 さて、明日の朝早くから外出の予定があり、本日中にブログを発信します。

今週は、4日までは八ヶ岳山麓に滞在し、冬は住めないので古い田舎家の水抜きをし、家を閉めて帰京しました。紅葉(もみじや落葉松、どうだんつつじなど)が盛りで、山は冬を迎える前に輝きを見せてくれます。

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2. 4日に帰京してからはもっぱら、アメリカの大統領選挙を追いかけています。

 

(1) ご承知の通りの接戦です。共和党とトランプが事前の予想以上に善戦している。

(2) 特に最後の過半数を制する「鍵となる5つの州」(ペンシルベニアジョージアアリゾナなど)は大激戦で、3日経ってもまだ集計中である。

 これらの州のトランプとバイデンの差はごく僅か、すべての集計が終わらないとどちらが勝つか最後まで分からない。

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(3) ただし終盤に近づきバイデンが有利に進め、過半数獲得が近いとメディアは報じる。

そしてバイデンは、6日深夜(日本時間本日午後1時)にスピーチを行い、「勝利宣言の時期ではまだないが、勝利は間違いない(we don't have a final declaration of victory yet, but the numbers tell us it's clear. )」と語りました。

「私たちに意見の対立はある、しかしお互いに敵ではない」と語り、民主主義と国民の結束(unity)を訴える、なかなか良いスピーチでした。

 

(4) しかしトランプは、選挙当日後も集計を続けていることに、「不正がある」と激しい攻撃と非難を浴びせ、訴訟を提起し、自らの不利な状況を認めるつもりは毛頭ない。

 仮に集計でトランプが敗けたとしても、彼がその事実を認めて敗北宣言をするかが疑問視されている(すでに、誰が猫の首に鈴をつけるかが話題になっている。女婿クシュナー、イバンカ、あるいは上院院内総務など。たぶん誰もやりたくないでしょうが)。

 そもそも、彼のせいで「もう一つ別の真実(alternative facts)」という新語が生まれたように、あらゆる手段を使って、選挙の正当性に挑戦し、「別の真実」を主張するものと思われる。

 

(5) 支持者も「不正がある。集計はもうやめろ」と叫んだり、集計所の前で祈るトランプ帽をかぶった女性の姿のような熱狂的なトランプ支持者と、バイデン側とが鋭く対立し、分裂している。

 本来はそういう彼らに呼び掛けるのが、敗けた大統領の「宣言」なのですが・・・・・

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3.ということで、新しい大統領の最終決定には時間がかかり、抗議や混乱が長引きそうで、過去に例をみない醜い選挙になることが懸念されます。 

そこで今回は、選挙直前の10月31日号の英エコノミスト誌が、「なぜバイデンでなければならないのか」と題する論説を載せていますので、最後にこれを紹介します。

 

4.エコノミスト誌は、「我々に投票権があれば、バイデンに入れる」として、その理由を述べます。

 

(1) トランプは、新型コロナがなければ、実績を誇り、再選が確実だったかもしれない。

  我々は、彼が誇る「実績」のすべてに賛同するものではない(例えば、気候変動への取り組み、移民政策、医療保険対策など)。

しかしそれ以上に問題にするのは、もっと基本的なこと、民主主義の価値、長年アメリカを、自国民にとって理想の地とし、世界の人々には「導きの明かり(beacon)」としてきた価値観を,彼が過去4年間、繰り返し冒涜してきたという事実にある。

 

(2) 2016年に彼を大統領に選んだこの国は、いまやいっそう不幸になり、いっそう分断されている。

 もちろんバイデンが選ばれたからと言って、彼は救世主ではない。しかし、少なくとも政治に安定と品性とをもたらすだろう。

これが、我々がバイデンに1票を入れる最大の理由である。

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(3)さらに言えば、ここ数代の大統領は、病的な党派心は決して良いことではないと理解していたが、トランプは党派心をもっとも重要な題目にしてしまった。自分に投票しなかった大多数のアメリカ人を代表することは決してなかった。

 

(4)我々をいちばん当惑させるのは、真実を軽蔑する言動である。たいがいの政治家は言い逃れをするものだが、トランプはそれ以上に「もうひとつ別の事実」をアメリカ人に示してきた。その結果、彼の言うことは何も信じられなくなってしまった。

 

(5) 彼のようなひどい大統領がさらにあと4年続くとしたら、こういった害悪がさらにひどくなるだろう。2016年には、アメリカの有権者は、彼がどんな人物かを知らずに投票した。4年経っていまは理解しているはずだ。これからも自分たちが、分断と虚偽への賛成投票をすることになるだろうことを。

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5.良識派を自負する同誌は、このように舌鋒鋭くトランプ大統領を攻撃した上で、最後にこう締めくくります。

「今回の選挙は、アメリカの運命を分ける選択である。民主主義が問われている。

選択の1つは、分断され、品格や事実をあざ笑い、個人の好みで動く元首によって支配された国へと向かう道、

 もう1つは、もう少しましな、本誌が当初から、世界に新たな霊感を与える国としてうけとめてきたこの国の価値観を失わない国へと向かう道である。

 トランプ氏は、第一期は破壊をもたらす大統領だった。再選されたら二期目も、同じく自身の最悪の本能にもとづいて行動するだろう。

 バイデン氏は、反対の人物である。もちろん彼が当選したとしても、ただちに成功が約束されるわけではない。しかし、彼は、民主主義が与えてくれる「変革」という最も貴重な贈り物をもって、ホワイトハウス入りすることだろう。

 

6.読みながら, 「民主主義の産みの苦しみ」について考えました。エコノミスト誌の願いは、果たして叶うでしょうか。

核兵器禁止条約が来年1月22日に国際法となる。

f:id:ksen:20201016141812j:plain1. 1週間前の話です。日曜日(10月25日)、アメリカ大統領選挙についての拙いブログをアップしてから、墓参に行きました。帰宅したら、昔の職場で一緒だったニューヨーク在住の友人からメールが入っていました。

「10月24日、ホンジュラス核兵器禁止条約への50番目の批准書を寄託し、同条約は来年1月22日に発効することが確定しました。

ピースボートICAN核兵器廃絶国際キャンペーン)が、お祝いの12時間テレビ放送を生中継中です。長い間運動を続けた関係者達が、発効することへの喜びをシェアしています」。

 

  1. 友人は、コロンビアの大学院を出て、以来NYで暮らしています。

 メールには、「被爆体験を次世代に伝え、核兵器の根絶を目指す「ピースボート」の活動が、乗船して世界を回った人々自身の口から語られていることが印象的」、「若者がそれを支えている姿に感動した」とあります。「自分で動くと自信が持てるし、継続できる、「社会は本当に変わるんだ」と明るい表情で語る彼ら・彼女らに希望を抱きます」とも。

 しかしテレビでは、「関心を持ってくれる日本の若者が少ないのが寂しい。SNSでもっと発信してほしい。海外の若者たちに会うと、普通の人が頑張っているという印象を受ける」という発言もありました。

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3.ということで、この日はもっぱらパソコンで映像を眺めました。

(1) ピースボートの共同代表&ICANの国際運営委員である川崎哲さんが、東京のスタジオから、広島、長崎、そして世界各国とつながって、過去の活動を振り返り、これからの取り組みと道のりを語り合いました。

(2) このサイトは、https://youtu.be/PAZ_gZiBMtg  です。25日の日曜日,朝から夜9時まで12時間、ユーチューブで放映していました。今でも見ることが出来ます。

サイトには、5785回視聴とあります。「少ない」と思うか、「こんなものか」と思うか。この問題についての日本人の関心は決して高くはないのではないか。

 他方で友人が言うように、自分が犠牲者・当事者でもないのに、なぜこれほどまでに熱心に活動を続ける少数の、特に若者がいるのか。

 彼らがやっていることを、もっと多くの人が知ってほしいと思うのです。

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(3) 番組の最初の1時間か2時間は、以下のようなことが取り上げられました、

  • まず川崎氏が、2017年123か国の賛成によって国連で成立した本条約の、今回50か国の批准が成って国際法となり、来年1月に発効することの意味について説明し、
  • そのことへのお祝いを、作詞家の湯川れい子さん、カナダ在住のサーロー節子さん(ICANの2017年ノーベル平和賞の授賞式でスピーチをした)、原爆投下を命じた当時の米国トル―マン大統領の曾孫、ICANのフィン事務局長、秋葉前広島市長、赤十字国際委員会代表など、沢山の人たちの感想とお祝いの言葉が放映され、
  • 映像を見た被爆者から「ずっと泣きながら見ていました」といったメッセージが寄せられ、
  • これらの人たちや団体が核兵器廃絶に向けて行ってきた過去の活動が紹介され、
  • これからどのような活動をしていくか?まだまだ長い道のりだがこれからも頑張るという気持が伝えられた。

 

4.メディアの役割も大事だと思いました。東京新聞の26日夕刊には、もとプロ野球張本選手のお姉さんの話を記事にしていました。

「たった一人で、この2年半、核兵器廃絶を求める「ヒバクシャ国際署名」3481筆を集めた」とあります。「当初の目標は、弟の張本さんが誇る日本プロ野球最多安打記録の「3085」。地道に活動を続け、昨年末ついに追い抜いた。75年たつ今も脳裏に焼き付いているのは、目も鼻も分からないほど焼かれ死んでいった姉の姿だ・・・・・」。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/64293

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5.果たして日本政府はこれからも無視し続けるのか。

(1) 「Wish you were here .(あなたにここに居てほしい)」――2017年3月、NYの国連本部で開かれた核兵器禁止条約交渉会議の最終日、空席の日本政府代表部の机上に置かれた折り鶴に書かれた言葉です。

 

(2)他方で、10月24日の報道によると、全国の自治体の4分の1を超える495の地方議会が、日本政府に署名や批准を求める意見書を採択した。「保守系議員らが政府の方針に反する意見書の採択を嫌う」風土の中で、これだけの地方議会が動いていると報じています。

 

(3)  また公明党の山口代表は、今回の核兵器禁止条約の50か国批准について、「国際規範として効力のあるものができあがるのは画期的なこと」と評価したそうです。その上で、日本政府に対し、「締結国会議へのオブザーバー参加を強く求めたい」と述べたとあります。

いままで縁もゆかりもなかった公明党ですが、大いに応援したくなりました。

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6.最後になりますが、以下は同じ友人から転送された、「イベント」の紹介です。

(1)NGOピースボートは、この条約の推進に、船旅を通じて貢献してきました。広島長崎の被爆者が地球一周の各地で被爆証言を行いつつ、船内では、国境と世代をこえた核軍縮と平和に関する教育活動を行ってまいりました。

 

(2) このたび、ピースボートの活動を「軍縮教育」の1つのモデルとしてとらえた英語の書籍が国連軍縮部(UNODA)から出版されることになりました。

 

(3) この出版記念トーク・イベントを11月4日(水)に、主たる著者であるピースボートの畠山澄子が、書籍の内容を紹介する形で行います(日本語)。その前日11月3日(火)夜には、国連軍縮部主催で出版記念イベントが行われ(英語)、畠山澄子と川崎哲のほか、中満泉国連事務次長(軍縮担当上級代表)も参加予定です。いずれもオンライン・イベントです。

詳細は以下の通りです。

https://peaceboat.org/35398.html

畠山澄子さんは、ケンブリッジ大学卒、米国ペンシルバニア大学博士課程に在籍。こういう若い女性がこういう分野で活躍する時代になったのですね。

神代植物公園で薔薇を見る、アメリカは大統領&議会選挙直前

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1. 調布市神代植物公園のバラ園は都内で最大とのこと。いまが秋薔薇の盛りで、先週の天気の良い日に家人と訪れました。立派なカメラを持って、熱心に接写撮影している人を多く見ました。

  私の場合は、カメラも安物だし、技術もないので、芸術的な写真は無理です。それに花の名前にも関心があり、両方一緒に撮りたくなります。

 薔薇であれば、「イングリッド・バーグマン」や「マリア・カラス」、「ジナ・ロロブリジダ」「プリンセス・ミチコ」「プリンセス・チチブ」などの女性名が多いです。

 日本の女優はありません。薔薇の名前には合わないのでしょうか。温室のスイレンには、「ジューン・アリソン」という懐かしい名前もありました。1954年アメリカ映画『グレン・ミラー物語』の妻役や1949年『若草物語』のジョー役を演じました。「古き良きアメリカ」を象徴する、前向きで明るい、そして独立心のある女性像を演じた女優だったと思います。

f:id:ksen:20201016145244j:plain2. ジューン・アリソンは遠い昔になり、いまのアメリカはずいぶん変わってしまったようです。トランプかバイデンかの選挙騒ぎを見ていると、そんな感じがします。

 

(1) 日本時間10月23日には二人の最後の討論会が開かれました。今回は、トランプも押えた態度で、中身のある政策論議になったという評価でした。

(2)しかし、どちらも決定打は出せなかったとも言えて、「最大の勝利者は司会者クリステン・ウェルカーだった」というBBCの報道が面白かったです。

 彼女を評価するコメントが25万件もツイターで寄せられたそうです。

おまけに、普段メディアの悪口しか言わないトランプでさえ、ディベイトの最中、「司会役として実によくやっている」と評価したことが話題になりました。 

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(3) たしかに、彼女の議事進行ぶりには感心しました。質問のたびに、「2分でお願いします」「30秒にしてください」と明確に指示したこと、時間超過をきびしく指摘したこと、本題から逸れたときには「大統領、いまは人種問題を取り上げているんです」と再三、注意したことなど、男性二人をリードしていたと思います。

 もちろん、前回の酷評を受けて二人ともより紳士的に言動を変えたこと、今回は冒頭の2分は割り込みができなかったことなど、彼女にやりやすい条件も利したでしょう。しかし総じて彼女がいちばん話題を集めた討論会でした。

(4)このクリステン・ウェルカーという女性は、44歳のNBC所属テレビ放送ジャーナリスト。父は白人で母は黒人、ハーヴァード大学を優等で卒業したとのこと。こういう女性が活躍する時代になったのだと痛感しました。

f:id:ksen:20201023162058j:plain3. ところで、今回のアメリカの選挙は、

――勝者はトランプかバイデンか?現時点での予測はどうか?

のいつもの話題に加えて、

――そもそも11月3日の投票で決着がつくのか?様々な要因で、決まるまでには紆余曲折があるのではないか?

が取りざたされていて、いつもより複雑な状況を呈しています。

 

4. まず、現時点でのメディアの予測はどちらを有利とみているか?

(1) ご承知の通り、アメリカ大統領選挙は、各州ごとに選挙人の数を選びます。それぞれの州は、事前登録した有権者の投票の結果、投票総数のうち1票でも多ければ、多い方が選挙人を全て獲得します。12月14日に各州の選挙人が選挙結果に基づいて大統領候補に投票。その合計で過半数270票を取った候補が大統領に選ばれ、来年1月20日就任します。

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(2) 日本でもよく紹介される世論調査データを提供するリアル・クリア・ポリティクス(RCP)のサイトによると、10月24日現在の大統領選挙の予測は以下の通りです。

・必要過半数270に対して,

「ほぼバイデン-232票」

「ほぼトランプ-125票」

「残りの激戦州(いわゆるtoss-up=五分五分の州―181票」

・従って、バイデンが勝利するには、「激戦州181票」から最低で38票を獲得する必要がある。トランプだと、89票が必要。

・因みに、この予測はニューヨーク・タイムズなど11社の調査を平均したもの。

・因みに、賭け屋の賭け率は、バイデン65%対トランプ35%.

 

(3)「toss up」州の181票は州の数で言うと13。このうちバイデンが支持率でトランプをリードしていて,選挙人の多い州は、

ミネソタ(選挙人数10人、支持率の差+6.0)、ペンシルバニア(20人、+5.1)、ウィスコンシン(10人、+4.6)、アリゾナ(11人、+2.4)、フロリダ(29人、+1.5) あたりで、

この5つの州の中から少なくとも3つの州で勝てば、バイデン勝利となる。

・この中でとくにペンシルバニアは重要で2016年は僅差でトランプが逆転して取った。終盤になってオバマ前大統領がこの地にバイデンの応援演説に駆け付けたのも頷けます。彼は、この選挙はアメリカ国民にとって「われわれの生涯で最も重要な選挙」だと訴えました。

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(4) ということで、常識的にはバイデン有利と大方のメディアが見ていますが、これらの激戦州をトランプが精力的に遊説に回っており、支持率調査で差は縮まっている。

 2016年は、お互いに予想で有利だった州はほぼ無難に獲得した。しかし今回の激戦州13のうち、ヒラリーは僅か2州しか取れなかった。これが決定的な敗因となった。しかも殆どが事前の予想をくつがえしての逆転の敗戦である。バイデンは、その二の舞だけは踏みたくない。

 他方で、期日前投票が今回は格段に多いこと、世論調査のやり方が前回の失敗を反省して精度を上げていることは、バイデンに有利な材料と言われます。

➜それでもやはり、賭け屋の予想通り、トランプにも3割強の勝利の確率はあるということでしょうか。

 

5.しかも、前述したように今回は、どちらが勝者か、決着がなかなかつかないかもしれないと懸念されています。郵便投票者が多く、結果の判明に時間がかかるなどの様々な混乱が危惧されているからです。最高裁への訴訟にまで持ち込まれる可能性さえ語られています。

 ということで、無責任な野次馬からすれば、今年のアメリカの選挙はなかなか面白い。

 しかし、恰好つけて言えば、トランプか否かという選択は、事態の推移によっては、世界の人たちにとっても民主主義の在り方が問われる大事な選挙になるかもしれません。

ニュージーランド総選挙、ジャシンダ・アーダーン首相の「地滑り的」大勝利

1.先週は、友人に誘われた「源氏物語」の連続講義が再開されたので出席し、二人で昼食もともにしました。久しぶりの再会で話も弾みました。お孫さんが、ニュージーランド(以下NZ)に留学していることが話題になりました.

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 慶応から交換留学生の制度で留学中、田舎の大学町で英語の勉強にもなり、快適に過ごしているそうです。

  NZはコロナを抑え込むことに成功した国のモデルとして高く評価されている。100万人あたりの死者は5人で、これは「先進国クラブ」と呼ばれるOECD加盟37ヵ国の中でも群を抜いてトップです。

 早期の的確なロックダウンが成功して、いまでは大学も全て対面授業で、国内の移動も自由で、学生との交流や観光も大いに楽しんでいるとのこと。

 12月に帰国の予定だが、慶応に戻っても当分はオンラインの授業なので魅力ない、ワーキング・ホリディのヴィザを取って、半年ぐらい滞在を延長できないか考えているとの話でした。このヴィザだと学びながら働くことも出来ます。

 彼女はまことにラッキーで、同国がロックダウンする直前に入国、その後すぐに海外からの入国が禁止となり滑り込みセーフ。おまけに、今は世界でもっとも安心で快適な国で暮らしています。当初はアメリカの大学も考えていたようですが、「結果的に本当にラッキーな選択だったね」と話しました。 

 

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2.ニュージーランドは昔、シドニー勤務時代の担当区域であり、駐在員事務所もあり、進出日本企業や地元企業との取引もあり、頻繁に出張しました。

 「今、選挙直前だね」

 「孫娘が、アーダーン首相が大学にも選挙運動に来た、一緒に写真を撮った、と言ってきたよ」。

 写真を見ると、誰もマスクはしていません。「密」そのものです。

 「孫娘が首相に向かって“I love you.”と言ったら、”Thank you.”と答えてくれた」そうで、これには「俺も会う機会があったら、同じ言葉をかけたかもしれないね」と、笑ってしまいました。

 

3.NZは昨日の17日(土)に3年ぶりの国政選挙を迎えました。

 2017年に首相になった1980年生まれのジャシンダ・アーダーン首相も40歳、2期目の就任なるかの選挙でしたが、今朝のメディアは「コロナ選挙」で大勝利と報じています。

 事前の予想では彼女自身の勝利は間違いなく、注目点は、彼女の率いる労働党がトップになり(前回は2位)、さらには過半数をとるまで票が伸びるかでした。同国は1996年に選挙制度を改革し、小選挙区比例代表併用制になった。以来、票は各党に割れて、小政党に当選のチャンスが出てきて、以来連立が普通、まだどの党も過半数は獲得していない。

 2017年も第1党は中道右派の国民党だったが、過半数に達せず、労働党が右寄りのNZファースト党と連立を組むことで政権を獲得した。今回労働党過半数を取ったようで、新しい選挙制度で初めてのこと、たいへんな出来事です。

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4.選挙直前には、メディアに様々な記事が載りました。英エコノミスト誌は「ジャシンダレラ」(彼女の名前ジャシンダとシンデレラとを組み合わせた造語)と題し、アメリカCNNは、「小さな田舎町の持ち帰り弁当店で働いたこともある女性が、ニュージーランド、そして世界を味方にした」と題する記事を載せました。

以下のように、確かにシンデレラ物語です。

  • 人口8千人の、ミルク生産で知られ酪農労働者が多く、国民党が地盤の保守的な小さな街で育ち、高校時代から正義感と弁舌にすぐれ、成績優秀だった。
  • 首都ウェリントンの大学を出て、労働党のオフィスに勤務、認められて選挙に出馬するが国民党が強い郷里の選挙区で落選を続けて、比例制のお陰で復活。
  • ところが2007年党勢が振るわない責任を取ってベテラン労働党首が突然辞任し、新鮮さを期待されてジャシンダが注目され、思いもかけず後任に選出される。
  • その年、総選挙が行われて、前述の通り第2党だったにも拘わらず、連立に成功して、37歳で首相に就任する。

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5.幸運ではあるものの、政策の異なる政党との連立政権という厳しい船出をしたアーダーン首相ですが、その後、さまざまな危機にあたっての、とくに昨年3月のモスクを狙って51人を殺害した卑劣・残酷なテロと、今年に入ってのコロナ対策での「強い、しかも思いやりに溢れたリーダーシップ」が高く評価されて、人気急上昇かつ世界的にも注目されるようになりました。支持者からは「国の救世主」とまで言われています。「彼女のあふれるばかりの「共感力(empathy)」はまさに本物であり、危機に際して発揮され、おそらく世界のリーダーの誰よりもそれを伝えることが出来た」とも言われます。

 CNNは、郷里での人物評も紹介しています。--「ジャシンダはいつまでたっても、ただのジャシンダ、公私ともに同じ人間だよ。いまも質素な暮らしをし、飾らない人柄、どこにでもいる普通の隣人のような女性だ」。そして、「親切と誰もの幸せを願う彼女のリーダーシップのスタイルは、生まれ育った「小さな田舎町の暖かさ」をいつまでも身につけていることから来るんだ」とも。

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6. もちろん厳しい批判もあります。連立相手が中道右派なこともあって、当初の選挙公約―「より公正でより良きニュージーランド」を謳い、ホームレスを無くし、子供の貧困を改善し、低家賃の住宅を供給する、と公約した―はほとんど果たされていない。とくに、先住民マオリの子ども達の貧困問題は深刻である。

 BBC(英国放送)は「アーダーンが掲げる「親切な」ニュージーランドから取り残された人たち」と題する記事の中で、貧しいマオリの人たちの現状と不満とを伝え、「親切を語るのはもうやめにして、行為で示してほしい」という彼らの声を紹介しています。

 その意味でも、右派との連立が必要なくなった2期目に真価が問われるでしょう。

 

7.それにしても、人口5百万人の小さな国の女性リーダーがこれだけ世界に注目され,タイム誌やヴォーグ誌の表紙を飾ったのは特筆すべき出来事です。

とにかく話題性の多いひとです。首相就任後2か月で妊娠を発表し、6月に出産後産休をとり、おまけに秋の最初の国連総会に、その赤ちゃんを連れて話題になりました。もちろん首相の子連れ国連出席は初めてのことです。

その際、一緒に行ったパートナーが、「国連で、日本の代表団が彼女を表敬訪問したとき、ちょうどおむつを取り替えていたんだ。そのときの彼らの何とも驚いた表情を写真に撮っておきたかったよ」とツイッターに書いて、これまた話題になりました。

 

米副大統領候補の討論会((10月7日)と「マンタラプション」

  1. 先週は気温も下がり、雨も多い東京でした。蓼科の里山でも稲の刈り入れが終わり、紅葉が始まっていることでしょう。

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  1. ところで、選挙もあと3週間ちょっとになったアメリカは、大統領とホワイトハウスのコロナ感染に揺れています。この混乱の中で、15日の2回目の大統領候補の討論会(ディベイト)は中止、他方で共和党上院が最高裁判事の承認手続きを強行するのか注目されます。

 9月29日の1回目のトランプとバイデンのディベイト90分が、非難の応酬と人格攻撃に終始して真面目な政策論議がほとんどなかったと酷評されたことは報道の通りです。

 もと職場の大先輩からは、「行儀良かった(orderly)のは、最初に司会者が質問してトランプが答えたところまで、次ぎにバイデンが答える途中でトランプが自分の主張を大声で叫び、司会者の制止も全く効果なく、後は双方エスカレートするばかり。民主主義のお手本になるべき米国の悲しい実態を見たという感じ」とメールに書いておられ、全く同感しました。

 バイデン発言へのトランプの介入は、実に71 回もあったそうで(バイデンは22回)、ディベイトのルールを無視した、小学校の子どもでもやらないマナー違反でしょう。

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3. 10月7日には副大統領候補マイク・ペンス共和党・現副大統領)&カマラ・ハリス(民主党・現上院議員)のディベイトが実施されました。

 

(1) コロナ対策、最高裁判事の人事、経済政策、人種問題と治安、対中国政策、気候変動問題などについて、お互いにまともに話し合った90分でした。ただ、「礼儀正しさ(civil)を保ちつつも激しい応酬だった」、そして「質問に答えない場合もはぐらかしも、間違いも、お互いに同じ程度にあった」と指摘されました。

 

 (2)立場によって評価が分かれたのは当然ですが、視聴者の調査ではハリスさん優勢が多かった。とくに女性の70%が彼女に好感をもったという調査もあります。

 

 (3) 今回は9月29日の両大統領候補ほどひどくはなかったが、それでも、

・発言妨害―相手が喋っている途中に割って入る、

・持ち時間超過―「決められた時間」を超えても話をやめないで司会者から指摘される、

がみられました。CBSによると、「発言妨害」はハリス5回に対してペンス10回。「時間超過」はハリスは持ち時間通りの35分に対してペンスは38分喋った。

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(4) その中で印象に残った場面がありました。

カマラ・ハリスがペンスの発言妨害に、最初は黙って首を横に振ったり苦笑したりしていましたが、ついに、「副大統領、私が話しています。私に終わらせて頂けるなら、会話が成り立ちますね("Mr. Vice-President, I'm speaking. If you don't mind letting me finish, then we can have a conversation.")」と微笑を浮かべながら、たしなめました。

 

(5)9月29日のバイデンの場合は、あまりに度々トランプが邪魔するのでついに、「いいか、黙れ!(”Will you shut up. man.”)」とかなり感情的に応じました。

 対して、この時のハリスさんの落ち着いた対応には感心しました。幾つかの英米のメディアも、彼女は礼儀正しく、しかし毅然と立ち向かったとして、この言葉を引用しています。

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4.そして私は、いちどブログで紹介したことがある、『女性のいない民主主義』(前田健太郎著、岩波新書)という本の中の、「話合いにおけるジェンダー規範の働き」についての説明を思い出しました。

 著者の前田東大准教授(政治学)はこう言います。

(1)「日本のテレビ番組を眺めていると、男性が何かを説明し、女性がその説明に頷きながら話を聞いている場面を見ることが多い。

・・・・このように、男性が意見を言い、女性がそれを聞く光景は、日本だけでなく世界各国で広く見られる」

 

(2) と書いて、著者は「その理由は・・・・おそらくは女性が自らの意見を言うことを妨げるジェンダー規範(「男は男らしく、女は女らしく・・・」)が何らの形で作用している」と分析し、具体的な事例を紹介します。

 

(3)1つは「マンスプレイニング」です。「男性」を意味する「man」と、「説明する」を意味する「explaining」を合わせた造語。

――「女性は、あまり世の中について詳しくないだろう。だから、特に意見も持っていないに違いない。それならば、ここは自分が会話をリードしよう。このような思い込みに基づき、男性は女性に対して一方的に自らの意見を説明する」。

(4)もう1つは「マンタラプション」、「男性=man」と「さえぎる=interruption」を組み合わせた造語。

―――「男性が女性の発言をさえぎれば、その分だけ女性の声は政治に反映されにくくなるだろう。・・・・・イギリスのマーガレット・サッチャー首相は、男性の政治家に比べてインタビューの際に発言を遮られることが目立って多かった。・・・・・・2016年のアメリカ大統領選挙における候補者討論会では、トランプがヒラリー・クリントンの発言を一方的に遮り続けた。」

さらに、最近の研究によると、「マンタラプションは一部の男性によって集中的に行われているらしい。そのような行為に及ぶ男性は、とりわけ「男らしさ」へのこだわりが強いのであろう」とも補足しています。

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5. トランプさんの場合は相手が男だろうが女だろうが、発言を遮るタイプでしょう。

対してペンスさんは、もう少し紳士的な人かと思っていましたが、やはり「マンタラプション」に度々及んだのは、相手が黒人&アジア系の女性であることも影響したのだろうか。

 それにしてもハリスさんの対応は見事でした。少数民族出身の女性議員としてこういう妨害行為には何度も見舞われているからかもしれない、というメディアの意見もありました。

 対してバイデンさんの場合は、男性で白人で若くから国会議員で、発言を遮られたことなど経験したことがないので、つい感情的になってしまったのかもしれない・・・・

 そんなことを考えると、面白かったです。