京都亀岡ハバネロの里とソーシャルビジネス

今回の報告は、2週間ぶりの京都行き、それも亀岡市訪問です。
案内してもらったのは、KSEN(京都ソーシャル・アントレプレナー・ネットワーク)の仲間、加藤さん、同行者は植木さんです。


1. 亀岡は京都駅から山陰本線快速で20分。緑の豊かな、京の奥座敷と言われ、九条ネギや賀茂ナスなど、いわゆる「京野菜」の約7割がこの地で生産されます。


かって明智光秀亀山城を築き、円山応挙石田梅岩石門心学)の生まれ故郷でもあり、いまは保津川下りの起点、嵐山から保津川を眺めながら走るトロッコ列車の終点としても知られます。
京都市内で働く人たちのベッドタウンでもあります。


2. 我々は、ここにソーシャルビジネスの事例を見つけたいという目的で訪問したのですが、その1つと言える、有限会社篠ファームという、年商1億円ほどの中小企業があって、ここの高田社長の話がなかなか面白かったです。
規模は小さいが、ユニークな試みと社会貢献が評価されていろいろと表彰もされています。
http://www.shinofarm.jp/

3. 因みに、世事にうとい私は(帰京して訊いたら妻も)、「ハバネロ」という、メキシコ産の激辛唐辛子なるものをこの日まで知らなかったのですが、数年前からテレビで芸能人が取り上げて、大きな話題になっているそうです。このハバネロの生産・加工・販売を手掛けているのが、篠ファームです。今年は200万個を生産するそうで、東京の高級スーパーにも出しているそうですが、京都市内の新京極に近い姉小路通りの直営店を持っています。
 
同社は200ほどの農家と契約して、付加価値の高い野菜類の生産・販売を行っていますが、高田さんが、世界一辛いという話題に興味をもって、亀岡でハバネロの栽培に着手したのが10年前。

当初は激辛すぎて誰も相手にしてくれなかったが、地元の味噌や醤油に配合して調味料に加工するなどの工夫を加えて、徐々に需要を開拓していった。これに(この辺は私はまったく知らず同行者に教えてもらったのですが)、激辛ブームや芸能人が「罰ゲーム」のようにしてテレビで面白おかしく取り上げた(ローマ皇帝ネロをもじって「某君ハバネロ」という呼び名も生まれた)こともあって話題が広まったそうです。


4. 言うまでもなく、農業は収益性の低い厳しいビジネスであると高田さんは言う。
大きな理由は、気候変動の影響をうける作物であることに加えて、生産者が自分で値決めが出来ないこと。

ここを、なんとか、他にないユニークな作物を作って付加価値をつけることが同氏の狙いであり、それがハバネロのような海外原産の輸入物を地元で栽培するという狙いにつながります。

しかし、高田さんのビジネスに惹かれるのは、新商品の開発に加えて、ソーシャルな面を加えていることです。

1つは、地域特産の新しい野菜を、地元の農業高校と提携し、技術指導をして、栽培・生産していることで、その成果として、イタリア原産の赤いナス「京ぼんぼり」「京しずく」があります。


高田さんの言葉を借りると以下の通りです。

京都府下の農業高校は疲弊の一途をたどっております。そこで生徒さんに元気をもってもらう手段として、自信に満ちた農産物づくりをベースにマ―チャンダイジング手法を取り入れれば間違いなく学校も再生できると思い、企画実践して現在に至っています」



5. もう1つ、限界集落(人口の50%以上が65歳以上の高齢者になり、社会的共同生活の維持が困難になった集落のこと)を活性化させる方策の一環として「ふるさと野菜のおすそ分け」事業がある。
高田さんの場合は、75歳以上の高齢者に絞って、現在府内3か所、30人ほどの農家と契約し、自家用野菜の「おすそ分け」として、京都府内の会員に販売をおこなっている。「おばあちゃんの作った野菜」「少々見栄えが悪くても、安心・安全、本物野菜」というコンセプトで、かつ、おばあちゃんの手紙を添えて定期的に届ける。
現在、京都府だけでも約140か所の限界集落があるそうだが、このビジネスモデルを拡げていくことで、田舎と都会の交流、高齢者の働きがい、限界集落の活性化につなげて行きたいというのが狙いです。


6. 再び、高田さんの言葉を借ります・
「ヨコ文字に弱い私にとって、ソーシャルビジネスと言われてもなかなか理解出来ていないところもありますが、要は、地域を含めて困っている人がいたら、自分の出来る農業分野の経験やスキルを生かして、自然体で広がっていくビジネスモデルを作り上げることで相手に喜んで頂き、相互が活性化できたらと思っています」



もちろん、根っこに「収益性」がないと持続していくのは難しいことは当然です。
しかし、
ビジネスは、経済的価値と同時に社会的価値の達成を目指すものでもある。
社会的価値といっても、さまざまです。
おいしい料理を適正な価格で提供してお客さんに喜んでもらう。これも立派な「社会的価値」を生んでいると言えるでしょう。


しかし、例えば高田さんが取り組んでいるような高齢者と限界集落の問題は「いま最も対応が求められている、社会的課題」の1つと言えるでしょう。

このように、「いまもっとも対応が求められている社会の課題」をビジネスを通して取り組む。それが「ソーシャルビジネス」であろうと思います。