再びエコノミスト誌「ソーシャルイノベーションとパートナーシップ」

1. 柳居子さん有難うございます。
NPOの現状については私も多くは知りませんが、運営は会社以上に難しいところがありますね。
6年ちょっと前に、40年も活動を続けているアリス・テッパー・マーリンというアメリカの著名なNPO活動家を招いて京都と東京で講演をしてもらったことがあります。
http://d.hatena.ne.jp/ksen/20051026

彼女は創立者であり、代表であり、会社と同じくCEOの肩書きを持っていますが、上下関係で動く組織ではないので人間関係がきわめて難しいと強調していました。


2. そういう意味からも、柳居子さんの言う「経営的な知見」を備えた、社会起業家(ソーシャル・アントレプレナー、social entrepreneur, 以下SE)の存在が大事だろうと思います。
NPOを統合してネットワーク化するような社会起業家が出てほしいものです。


  私としては、いま英米では営利と非営利を峻別するという動きに変化がみられる、その交差点に存在するのが「社会起業家」であり日本では「ソーシャルビジネス」であろうと考えています。


3. 前回、エコノミスト誌の2006年に「社会起業家が立ち上がる(The rise of the social
entrepreneur)」という記事を紹介しました。

同誌は2010年8月12日に「ソーシャルイノベーション、彼らのアイディアに耳を傾けよう(Let's hear those ideas)」と題して、


アメリカ・英国双方の政府にいま、もっとも困難な社会的な課題を解決するために、社会起業家とのパートナーシップを期待する動きが見られる」
という出だしで記事を載せています。

インターネット版で12ページの長文なので、ほんのさわりを以下紹介します。

(1) アメリカでは2010年10月にオバマ政権が「ソーシャルイノベーション・ファンド」を新設し、公的資金5千万ドルと民間からの寄付金7千万ドル強をあわせて、11の投資先を決定した。
   資金は、医療・雇用・若者支援などの活動で、アメリカでもっともうまく行っているNPO(非営利組織)に投じられる。
金額は小さいが、民間と政府が一緒になって社会起業家を支援する動きとして注目される。
また同様な動きを政府内の他の部門で広げようと考えている(立ち上げ段階のSE支援を含めて)

音頭を取ったのはオバマで大統領が就任直後に政府内に創設したOffice of Social Innovation & Civic Participation(ソーシャルイノベーション・市民参加部)。


(2) 公的セクターと民間セクターとのパートナーシップにおけるキーワードは「ソーシャルイノベーション」である。

両者のパートナーシップについては、
・ 当初は競争力のある民間セクターに「アウトソーシング(外部委託)」することに狙いがあった。
・ しかしそれでは、対症療法に過ぎず、かつ、コスト削減に重点が置かれすぎた。
・ この点の反省を踏まえて、民間セクターのイノベーションによって現状を変える、ときに破壊する力に期待するという段階にいたったもの。
・同時に、社会起業家の知恵を入れて公的セクターのやり方に変化をもたらすことも意図している。



(3)現時点では、実績より期待感のほうが先行している状況。
問題は変革のスピードと規模にあるが、社会起業家イノベーションの力は、まだマイクロソフトやグーグルのような存在を生み出してはいない。


課題としては
営利企業は「利益」という物差しがあるが、ソーシャルイノベーションをどうやって評価するか?
・ 目標設定をどこにおくか?
・ 民間の資金を呼び込むことやボランティアの活性化が一層重要。
・ SEと公的セクターや民間の投資家とを仲介する存在も大事
・ 政府は情報やデータの公開などオープンにして、内部に「シビックアントレプレナー」を育てること。


(3) パートナーシップの成功事例としては、ニューヨーク市ブルームバーグ市長の実績などを具体的に紹介していますが、ここでは省略。


4. 英国の事例についての詳細な紹介もありますが、この点も省略。
英国の場合は、ブレア労働党政権のときにむしろアメリカに先行して、これらの協働の動きが始まった。
キャメロン保守党政権は、これを踏まえて新しいアプローチを取り入れている。
例えば、SEを官民一体となって資金的に支援する「ビッグ・ソサイエティ・バンク」を創設するが、その資金には約4億ドル(320億円)の「銀行休眠口座」の資金を使用する。


5.最後に、コメント
(1) 2006年に初めてSEを取上げて営利セクターとの協働に注目したエコノミスト誌は、今回2010年8月は、政府との協働の動きとソーシャルイノベーションの力に注目している。



(2) 特徴的なのは、日本的な、政府や役所が「助成する」のではなく、「民間と一緒にパートナーとして対等にやっていこう」という哲学であること。
具体的には「パートナーシップ」という言葉は、
「対等な立場」と同時に、
・ パートナーを組むことで、自らも変革しようという姿勢。
・ 公的な支援だけではなく、民間の力(ヒト・モノ・カネ)を巻き込んで一緒にやる。
・ 透明性と説明責任を重視する。
ことを意味するわけです。

6.何れにせよ、アメリカで1980年代に始まった「社会起業家」の活動は30年を経て、2010年あたりからやっと、政府や大手メディアや社会一般に正式に認知されてきたと言えるのではないかと思います。