「REOS槇島」と『コミュニティを問いなおす』

1. 前回のブログへの中島さんのフェイスブック上のコメント有難うございます。厚生労働省の検討会議とそこで宮台真司教授の発言を教えていただき、参考になりました。


そうなんです。前回も言及したように、英国キャメロン首相は「ビッグ・ソサイティ
(大きな市民社会)」を打ち出しそれを支援する「ビッグソサイエティ・バンク」を構想しています。
日本でもすでに、あちこちで報道されている筈ですが、

米国オバマの「ソーシャルイノベーション・ファンド」と似たようなアイディアで、構想を発表したのが2010年で、「ビッグソサイエティ・キャピタル」と名前を変えて昨年正式に発足しました。


2011年9月9日のファイナンシャル・タイムズが以下のように報道しています。内容を要約したいと思いつつ、さぼっています。
名前を「キャピタル」に変えたのは預金を扱わないからで、活動は当初のキャメロン構想と変わらず、こういう構想をきちんと実現させるところが、羨ましいです。
http://www.ft.com/intl/cms/s/0/63f829d6-da32-11e0-90b2-00144feabdc0.html#axzz1oDP0hJFZ

これもご存知の方も多いでしょうが、この機構がまさに銀行の休眠口座の資金を活用するアイディアで、日本はこれを真似しようと考えたのでしょうが(日本人は頭の良い人が多いせいか)細かい異論や疑問が出てきて一向に進まないようです。


「多少問題があってもやってみる。歩きながら考える」という発想が日本にはあまりないような気がします。

もう50年以上昔、当時朝日新聞笠信太郎が『ものの見方について』と言う本で、「歩きながら考える」英国的論理思考を紹介して新鮮だったことを思い出しました。


2.「大きな市民社会」を作ろうというのは実はキャメロン保守党の前のブレア労働党アジェンダであったわけで、
そのキーワードの1つが度々いう「パートナーシップ」と「ソーシャルイノベーション」で

もう1つ大事なのが「新しいコミュニティ」です。
というようなことを、3月3日「REOS槇島」の「春をよぶつどい」に参加して、ご指名を受けて15分ほど、応援のメッセージをお喋りしたときに思い出しました。


お喋りに当たっては、毎度言うのですが、「地域づくり」には「風土」をもじっていえば、「風」と「土」の両方の存在が必要ですということも触れました。

これは受け売りですが、
「土」は言うまでもなく、その土地で生まれ・生きていく地元の人たち。
「風」は学生や教職員のように、必ずしもそこに定住せず、何れ「風」として去っていく。しかし、その地に、外部からの視点や外部との接点や知恵や汗を提供する。
この両方が、活力のある地域コミュニティには必要である、と信じるものです。


3.REOS槇島については、前のブログでも紹介しましたが、KSENの仲間田中美貴子さんの夢と熱意が実ってスタートしたコミュニティ・レストランです。
http://d.hatena.ne.jp/ksen/20111127/1322374129


3日のときにも話したのですが、ランチと午後のお茶を提供するだけでやっていき、家賃を払うのは正直言って経営的にはなかなか厳しいと思います。

しかし、ここは様々な実験の場として大きな意義を持っており、ぜひ続いていってほしいと祈っています。

この点を整理すると
(1) NPOと社団法人が共同して運営する非営利の、しかしコミュニティ・レストランであり、事業展開(つまりソーシャルビジネス)に取り組んでいく。
(2) そのため、地域の、特に女性を中心とした働く場を提供する(「生活のコミュニティ」であると同時に「生産のコミュニティ」としての地域)
(3) 現時点ではこの「働く」はボランティアで支えていかざるを得ないが、たとえボランティアであってもその活動からあらためて地域への愛着を深めることができる
(4) 地元企業や大学から小学校まで、そして行政との「連携」の場である。
(5) ここが大事な「居場所」を提供し、高齢者も子育て中の母親も子供も障碍者もすべて集り、世代を超えて交流する。
(6) そのため、レストランだけでなく、さまざまな活動を展開しようとしている。
・ 高齢者のためのお弁当など支援
・ 育児中の母親や乳幼児の預かり
・ 放課後の児童が居残れる場所の提供・・・等々

4. このように、「REOS槇島」は、「よりよい市民社会」を構築していくための、様々な実験の場であるわけです。
そしてそこに「新しいコミュニティ」のあり方が見えてくるというのが大事だろうと思います。
すなわち、「地域(空間)のコミュニティ」と、(まだあまり馴染みのない言葉だが)「時間(あるいは、テーマ型)のコミュニティ・・・つまりNPOに典型的にみられる課題ごとの、ミッション思考型の」との「つながり」「協働」が支えていくという姿です。


実は、このような考えは別に珍しい考えではありませんが、3日にお喋りするにあたって
『コミュニティを問いなおす――つながり・都市・日本社会の未来』(広井良典千葉大教授、ちくま新書、2009年8月)

を読み終えたことで、大いに勉強になり刺激を受けました。

この本は、コミュニティとは何か?から始まって(このように、まず定義から入るというのがいかにもオーソドックスで重要です)「これからの新しいコミュニティ」を構築する上で以下の3つがポイントになると語ります。

(1)ごく日常的なレベルでの、挨拶などを含む「見知らぬ者」どうしのコミュニケーションや行動様式

(2)各地域でのNPO、社会的起業その他の「新しいコミュニティ」づくりに向けた多様な活動

(3)普遍的な価値原理の構築
の3つがポイント

このうち、(2)はまさに「REOS槇島」に当てはまるからこそ、私も評価しているわけです。


特に(3)については補足説明をしないと具体的には理解できないとは思いますが、紙数がなくなりました。何れにせよ、きわめてオーソドックスな思考と提言で「当たり前」と思う人もいるかもしれませんが、深く考えられていて、労作です。

(第9回大仏次郎論壇賞を受賞したとのこと)

最後に、「コミュニティとは?」
広井さんは、ひとまず以下のような定義から始めて、その上で議論を深めていきますので、この定義を紹介して終わりにします。
「コミュニティ=人間が、それに対して何らかの帰属意識をもち、かつその構成メンバーの間の一定の連帯ないし相互扶助(支え合い)の意識が働いているような集団」

そして戦後日本社会は、高度成長・産業化・都市化の流れの中で「カイシャ」という「生産のコミュニティ」が中心になってきた。
それが崩れつつあり、「社会的孤立」が深まっていくときに、これからの「コミュニティ」はどうあるべきか?どうやって回復するか?
これが著者の基本的な問題意識です。