NY報告3:教育とNPO「DONORS CHOOSE.ORG」

1. 我善坊さん、さわさきさん、有難うございます。
読んでいて思うのは、こういうのが普通の市民の真っ当な正論だと思うのですが、
そういうシステムがこの国ではなかなか実現しませんね。
むしろ逆方向に行っているような気がして淋しくなります。
日本人はメディアも学者も市民も、少し頭が良すぎのるではないかというのが私見です。


これが、今回「アメション」で滞在したアメリカ人ならば、おそらくもっと単純で、
・ 普通の常識(コモン・センス)と、
プラグマティズム(つまり、結果と効果から判断する)
・ 出来る限りフェア(公正)であろうとする
大抵なことはこの3つで処理すべきだし、処理できる、と信じ、
そのためには、頭の良い人間でなくても誰がやっても同じ結果になるようなシステム設計を大事にするのだろうと思います。もちろん山ほど問題も格差も不正もある国ではありますが、こういう方向で進んでいこうという意思は感じる・・・


2. 前回の、母校の教育についてフェイスブック経由卒業生から
「教育というより放し飼いに近かった6年間だったかもしれませんが・・・。」
というコメントをもらいました。

確かにそうですね。
でも、我善坊さんのコメント実に面白かったですが、「バラバラな教師」が良いですよね。

麻布には「我々、生徒のほうが教師を育てたのではないか」という冗談を言う卒業生もいます。
でも、こういう「放し飼い」こそが、誰もが自分なりの居場所を持てて、ハッピーだったと思う(管理を期待する保護者の一部は不満でしょうが)。

3.さわさきさんの
「厳しい競争によって選別された、高いレベルで質の揃った生徒と、彼らを支える恵まれた家庭環境があると思います」
というコメントについて、


そういう面はあるかもしれないが、
・ 私事で言えば、私自身は「恵まれ」ているどころか母子家庭の、母親が独りで5人の子供を育てるという環境で育った人間だし、
・ 社会全体として、もっとできることはあるのではないか?


社会全体の点で、視点がずれるかもしれませんが、今回NYで
「ドナーズチューズ(DONORSCHOOSE)・ORG」(D社と略)という奇妙な名前の、教育を支援する非営利組織を訪問した報告をします。


4. 団体の名前を直訳すると「寄付者選択組織」とでもなりましょうか。
(1)10年前にチャールズ・ベストというイェール大卒の公立高校の先生だった人が始めた活動。

(2)アメリカの公立の学校(小学校から高校まで)の教育の質が低く、問題が多く、学費支払いにもこと欠く生徒を抱え、予算が削られているため満足な教材さえ与えられず、教師が自分のポケットマネーで生徒のために教材を用意しているような実情を知って、NPOを立ち上げた。

(3)何をやるかというと、
・全米の公立学校の先生が、自ら教えているクラスでの授業を支援してほしいというプロジェクトをD社に提出。

・ D社はこれをネット上に公開し、プロジェクトごとに寄付者を募る。無事に寄付が集れば必要な物資などが、応募した先生に渡される。
 後日、先生からは成果の報告、生徒からはお礼の手紙が送られる・・・という仕組み。


5. プロジェクトの中身は、鉛筆を欲しいといった程度のごく単純かつ小額なものが多いです。
・ 例えば、NY市内ブロンクスの8年生のクラスの、映画『アラバマ物語』の原作を15部(173ドル)
デトロイトの7年生の教室に顕微鏡を提供(429ドル)
ボルティモアメリーランド州)の歴史のクラスで州最高裁の裁判を傍聴するためのフィールド・トリップ(1226ドル)
・ ・・等々

これぐらいなら、誰でも気軽に参加できるのではないでしょうか。


しかし1つ1つは小さくとも、チリも積もれば山となる・・・
2010年には、寄付者の合計は25万人に達し、寄付総額は3千万ドル(約24億円)、約6万の教室のプロジェクトを支援できたそうです。


6. 寄付者は強制ではありませんが、OKなら、寄付額の15%程度を別途D社の経費のために寄付します。
D社の経費はこれらの(プロジェクトひも付き以外の直接の寄付を含めて)寄付で全てを賄っています。
政府の支援・補助は一切受けていません。

そしてD社は2011年、ある有力な経済雑誌が選定する
「世界でもっともイノベイティブ(革新的)な企業(カンパニー)50社」の21位に選ばれました。


北島さん(彼女自身、NYで教育関連のNPOを立ち上げることを考えています)の紹介で同社を訪れて、日系アメリカ人のタカハシさんという素敵な女性にいろいろ話しを聞きました。

いま、NY本社のほか、サンフランシスコと首都ワシントンにオフィスがあり、有給スタッフが50人、ボランティアが200人。
ボランティアはもと先生が多く、寄せられたプロジェクトのチェックをしている。しかし、95%が採択されて、およそ70%が100%の寄付を得られるとのこと。
またボランティアであってもD社の経費から対価を払っている。


7. 私が面白いと思ったのは幾つもありますが、まずは以下の2点でしょう。
(1) 何と言っても、こういう形で、政府の支援を一切受けずに、寄付のみを当てにした組織が持続できているという、この国の「文化・風土」


(2) 教師が自分のクラスのために自主的に、自己の判断で行動を起こせるという「文化・風土」
  ――おそらく日本では、校長や教育委員会のOKを得ずに、まったく許されないでしょう。「クラスルームによって格差が出てくる。公平・平等の教育原則に反する」という「頭の良い」保護者やメディア連中も騒ぎそうですね(もちろんご指摘の通りですが、「だから何なんだ。そんなことを言うから何でもお上に頼ることになるんだよ。自分で努力するという文化がもっと必要だと思う」と言いたいです)。


あと付け加えれば
(3) D社がNPOであるにも拘らず、「もっとも革新的なカンパニー」の1つに選ばれていること。
これはアメリカでは不思議でも何でもありませんが、その点に触れる紙数がありません。
営利と非営利を峻別することにどれだけの意味があるのか?という問題でもあります。
ちなみに、D社は21位ですが、このとき
1位は、アップル、2位はツイッター、3位はフェイスブック、4位は日産(リーフの開発)・・・と何れも超有名企業、かつ営利企業です。

8. 以上、とても良い訪問で、気持ちよかったです。
最後に社内の写真をお見せしますが、こんな環境で、仕事をしています。
球体の・弾力性のある椅子(?)に座ってPCに向かっている男性が、創業者兼代表のベストさんで、椅子は彼の発案だそうです。他の社員と全く同じ職場に居ます。
もちろん普通の椅子に座っている人の方が多く、みんな自由勝手にやっています。
給与は低いと思うが、楽しそうですね。