アメリカの諜報活動とインターネット社会


1. 海太郎さんarz2beeさん、度々コメント有難うございます。
憲法についてここ2回書いてきましたが
海太郎さんの「自問自答・・・どうやって(周りの普通の人たちに)伝えていったらいいでしょうね?」というコメントは、たしかに考えさせられますね。
私としては、僭越ながら、
arz2beeさんの懸念される「物事の善悪を黒白で断ずること」を出来るだけ避けつつ
立憲主義に立った専門家の憲法論を素直に伝えているつもりですが、十分に意図が通じたかどうか、悩むところです。

それでも、ひょっとして何れ日本国憲法史上初めての国民投票が実施されるかもしれない状況になってきて、無関心ではあり得ず、難しいところです。


2. 黒白を断ずるのが難しいという点で気になるのが、連日のように海外のメディアが報じている、30歳のアメリカ人、エドワード・スノーデンという存在です。


一方で「内部告発者(whistleblower)」として英雄視する人もいれば、「謀反人」と非難する人もいる。
アメリカ政府は、国の最高機密を漏らした「スパイ法」違反等の重犯罪人として逮捕状を出し、徹底的に追求する構えですが、本人は香港で「内部告発」をしたあと、ロシアに飛び、目下、空港内にいて国内には入国していないとロシア政府は言っています(アメリカは彼の旅券の効力を停止した)。
エクアドルが受け入れを表明していると伝えられており、かつ「ウィキリークス」のメンバーが彼を支援しているようです。


内部告発は、もとNSA国家安全保障局)で働いていた彼が、
6月始め、香港で「ワシントン・ポスト」「ガーディアン」などのメディアに、アメリカの広範囲な・内密の個人情報収集活動を暴露したことにあります


3.以下は、英国「エコノミスト」誌6月15日号の記事「インターネット・スパイ、アメリカの情報機関のやり方は果たして行き過ぎか?」等によりますが、
暴露の中味は、1つは、NSA が、何百万人もの電話の通話記録(通話の中味ではなく誰が誰に掛けたかなどの「メタデータ」)を大手電話会社から収集していること、もう1つは、「プリズム」というシステムを構築して膨大な量の(unknown quantity of)インターネット記録(電子メール、ファイル転送等々)をグーグルなどの大手IT企業から受領しているというもの。

アメリカ政府は、かかる活動は、「外国情報監視法(FISA)」に基づき合法であり、議会の特別メンバーの了承と指示のもとに行っており、テロ防止のために必要な施策と主張している。

NSA の個人情報収集活動は従来からある程度推測されていたようですが、これほど広範囲に、海外での諜報活動を含めて行われていることが今回の暴露で明らかになった訳で、国内外の大きな波紋と批判を浴びています。
特に、中国、ロシア、欧州からは非難と懸念の声が上がっています。
オバマ大統領は、諜報システムの存在を認めた上で、どこまで許されるのか?国民の間で大いに議論してほしい、と呼び掛けています。

即ち
「国の安全を守り、テロ攻撃を未然に防ぐために、どの程度の監視が必要か?
国家は国民・および外国人のオンライン上の発言や行動をどの程度把握してもよいか?
かつ、活動を明らかにすることはテロリストに利するという秘密保持のNSA 主張に対して、国民はどの程度、活動内容を知らされるべきか?」
といった諸点です。

アメリカの世論は、2分されているようで(もちろん、まだ詳細が分からないという事情もありますが)
直近の世論調査では(エコノミスト誌による)
電話の通話記録の収集については、56%が「やむを得ない」41%が「同意できない」
インターネットの交信情報の収集については、肯定派は45%、不同意が52%と上回っています。


3. この点で、エコノミスト誌の
「政府はグーグルと同じ程度に情報を入手してはならないか?」という表題で、問題はそもそもインターネット社会のもとで、利用者が丸裸にされているという現実にあると指摘しており、補足すると以下の通りです。

(1) グーグル、マイクロソフト、ヤフーなどは、彼らのサーバーを通じて、我々の電子メールの中味を把握している。
仮に、あなたが、ユーチューブを通して、「バーベキュー料理でうまくお客をもてなすには?」という番組を見て、友人に「我が家でバーベキュー・パーティをやるので来ませんか?」という電子メールを発信したとする。
間もなく、某メーカーから「最新式のバーベキュー用のグリルを買いませんか?」という広告があなたのPCに飛びこんできた経験があるだろう。
驚くことはなく、グーグルはあなたの通信記録を第三者に提供しているのである。

(2) 問題は、仮にこのような行動がグーグルに許されるとして、相手が民間企業ではなく、政府に提供することは許されないのか?という点である。

(3) 当たり前と思うかもしれないが、ウェブ社会では、我々のやっていることは全てプロバイダーによって入手され、検索されているという事実である。
こうして得られた情報を、企業の広告宣伝のためならば利用してもよく、国家安全上の対策から政府が利用するのは許されない、という論旨が成り立つかどうか?
エコノミスト誌は問いかけます。
同誌の言葉を引用すると、
・・・・政府がスパイしているのではない。グーグルが我々をスパイしているのが現実で、政府はグーグルに、その結果の提供を要求しているのである

だから問題は、我々のオンライン上のプライバシーを「政府から」どうやって護るか?ではなく、そもそも政府を含めたあらゆる組織から護る法や規制やシステムを構築できるか?にあるのではないか・・・・

もちろん同誌は、NSA の活動をそのまま肯定している訳ではなく、国民に対する説明と合意に基づいてなされること、例えリスクが増えたとしても活動の秘密をある程度明らかにすることを求めています。

しかし、「そんなこと先刻承知だよ」と言われそうですが、
我々はインターネットの世界では殆ど丸裸で情報の中味をプロバイダーに提供していること(もちろんそれを第3者が操作することにはガードがかかっていると信じているが)、
かつ、我々の情報を把握している組織の殆どは、グーグル、マイクロソフト、アップル等々、アメリカの企業であること
の2点は再認識しておいた方がよさそうです。