1. 前回のブログはタイム誌が選ぶ「2013年今年の人はローマ法王」と報告しました。
間連して、豪州のシドニーではクリスマスのバチカンのミサをテレビが実況放映するという報告を在シドニー野田さんから頂きました。
豪州でカトリック信者がどの程度居るのか知りませんが、世界中では12億人強、人口で言えば、中国・インドについで3番目になります。
庶民的で陽気で、「思いやりの大切さや、教会の最重要の役目は貧困との闘い」と熱く語る「法王フランシスコ」は彼ら信者にはどう映るのか。
少なくとも、私の「ローマ法王」についての知識と言えば野田さんと同じく、塩野七生さんぐらいからで、まるで違うイメージです。
2.そう言えば塩野さんはどう書いていたかなと、すぐに道草を食いたくなるのが私の悪い癖で、書棚から間連する本を探しては頁を繰っているうちに無駄な時間がどんどん経っていきます。因みに、法王庁という組織について同氏はこう書いています。
・・・ローマン・カトリックという馬車は、2つの車輪によって動いている。1つは、貧しさに耐え、殺される恐怖にも耐え、神に身を捧げる喜びだけで奉仕活動をつづけている聖職者たち。
そしてもう1つの車輪は、(12億の)信者を擁する大組織を、国家のリーダー顔負けの合理主義で運営するエリート聖職者たち。
現存する最古の組織である法王庁のその長命の秘密は、互いに相反する能力をもった人々が、それぞれに適した車輪となって、カトリック教会という馬車を動かしているところにある・・・・
この両輪を動かす頂点にいるのがローマ法王とすれば、そのかじ取りがいかに難しいか想像を超えるものがあります。
(因みに、引用した『神の代理人』という著書の「帯」のうたい文句はこうあります。「野望と闘争、栄光と堕落――権力のただなかに生きた法王たちの実像」)
3.今回は、まだタイム誌にこだわっていて「今年の人」の報告を続けます。
3位になった、エディス・ウィンザーという女性について触れますが、
(1)その前に、若干整理しておくと、まず過去3年の「今年の人」ですが、以下の通りでいずれもブログで取り上げました。
2010年――マーク・ザッカーバーグ−フェイスブックの創業者
2011年――ザ・プロテスター(抗議者)世界各地における抗議デモ活動の参加者
2012年―再選されたオバマ大統領
(2)またタイム誌「今年の人」は毎年、次点から5位までの最終候補者4人についても紹介します。もちろんアメリカの雑誌ですからアメリカ人が多くなります。
今年であれば以下の通りです。
2位―エドワード・スノーデン(“暗い預言者”)――アメリカの秘密裏の監視活動を告発し、ロシアに亡命。
3位―エディス・ウインザー(“らしくない社会活動家”―同性婚の合憲を求めて勝訴)
4位―シリアのアサド大統領(“凶悪な独裁者”)
5位―テッド・クルーズ(茶会に支持され、オバマを猛攻撃する共和党上院議員)
4.この中で名前を知らなかったエディス・ウィンザー(Edith Windsor)について、興味深く読んだので、以下、報告です。
(1)1929年生まれ、現在84歳の彼女はユダヤ系のアメリカ人。レズビアンとして長い間、目立たないように生きてきた。
(2)大学生のときに初めて同性愛を経験。NY大の修士を取得し、IBMのコンピュータ技術者として働き、いちどは普通の結婚をしたが、1年で離婚。
やがて、偶然に会った美女テア・スパイヤー(オランダ系)と愛しあうようになる。彼女は裕福な家庭に育ちNYにある名門の女子大サラ・ローレンス(オノ・ヨーコの母校)で同性同士キスしているのが知れて退学になった経歴を持っていた。心理学の臨床医を仕事にしていた。
(3)2人は、お互いの家族の猛反対にもかかわらず、1967年から、事実上の夫婦として一緒に住むようになる。NYのグリニッジ・ヴィレッジのアパートと海に近い別荘に住み、時に同じ仲間たちを招いてパーティをし、幸せに暮らすが、レズであることを仲間うち以外に知らせることはなく、「ダブルライフ(2重生活)」を送った。
(4)キリスト教(とくにカトリック)の強い伝統と影響のもと、アメリカでは当時まだそれは罪悪であった。医学年報は1973年まで「同性愛者」を「精神病」の1つとして統計し分類していた。
国内のギャロップ世論調査で、同性婚を違法とすべきという意見は1988年調査でも88%、96年でも68%の多数を占めていた。
90年代になって、いわゆる「カミング・アウト」する勇気ある人たちも徐々にふえてきたし、97年にはそういう女性の著名な1人をタイム誌が表紙で紹介するという動きも出てきた。しかし他方、保守的な中西部で、同性愛の男子大学生が殺されるという事件も起きたりした。
しかも連邦議会は96年に「結婚防衛法(DOMA)」なる連邦法を成立させ(クリントン大統領も署名)、「同性愛を道徳的に認めない」との意図のもと、「結婚とは異性間のもの」と法で定義した。
(5)しかし、同性愛に対する偏見を正そうとする動きが徐々に社会の支持を得るようになり、2004年にはついに、DOMAを無視してマサチューセッツ州がアメリカで初めて、同性婚を合法とする州法を通した。
(6)この間、エディスのパートナーであるテアにMS(多発性硬化症)の発症が分かる。
結婚を決意した2人は当時すでに合法化されていたカナダに行って、2007年に結婚。その知らせがニューヨーク・タイムズに報道されたとき、何も知らなかった昔のIBM同僚の多くがお祝いを言ってくれて、エディスを感激させた、彼女はすでに78歳。
(7)ティアはMSに心臓病が加わり、2009年に死去。
2人が住んでいたティア所有のアパートに相続税がかかることになった。合法的な夫婦であれば、相続税は減免されるが、上記の法律DOMA によってアメリカでは2人は「夫婦」ではない。連邦国税庁はカナダ法はアメリカには適用されないとし、2人を「夫婦」と認めなかった。
(8)悩みながらエディスは、ある有能な女性弁護士(彼女自身もレズ)の支援を受けて、戦うことを決意。2010年、連邦最高裁に「DOMAは憲法に認められている平等原則に照らして違憲」とする訴えを提訴。
そして、2013年6月26日、「最高裁は歴史的な判決を下した」。5対4とわずか1票差で、エディスの主張を認め「違憲」としたのである。
(9)この間、アメリカ社会は明らかに変わってきていた。
2011年のギャロップ調査は、史上初めて、同性婚を合法とすべきとする意見が多数を占める。マサチューセッツに続いてこれを合法化する州法が4つの州で成立する(現在は16州の由)。
5.ということで、エディス・ウインザーという女性の話しを終えたいと思います。最後に以下補足します。
(1) タイム誌は、この最高裁判決の意義は計り知れないほど大きいと言います。
ことは(同性の)結婚相手が死んでも家を追いだされる心配が無くなったという相続税だけの問題ではない。医療保険・年金・福祉、滞在許可(グリーン・カード)等々、異性間の夫婦と同じ保護を約束するものである。
もちろん、結婚の本質を考えたり、同性愛(だけではないが)への偏見に挑戦したりという動きに与える影響も大きいだろう・・・・
(2) ここに書くのは普通に平凡な結婚をした異国人ではありますが、84歳になった未知のアメリカ人女性がひっそりと秘密に生きてきた長い年月を思います。
そして、社会を変えるために立ちあがった庶民が遠い世界のどこかに居るという「物語」が、何がなし希望を与えてくれるような気がしています。