タイム誌「ローマ法王とベネディクト16世の第2幕」

1. 本日の日曜日も良い天気ですが、風が冷たく、寒いです。
午前中梅ヶ丘図書館まで往復歩き、図書館にある「タイム誌」の最新号(2月25日号)の特集「かってと未来の法王―カトリック教会の新しい政治図」「ローマ法王の第2幕」を読みました。

2月28日付で退任を発表したベネディクト16世(以下ベ16世)とその後を考察したもので、ツイッターのフォローを見ると、なかなか好評な内容です。


2. ローマ法王の動向に関心を持つ日本人がどれだけいるか知りませんが、日本のカトリック教徒は少ないですね。
内村鑑三の『余は如何にしてキリスト信徒となりしか』は印象に残る書ですが、日本人の場合は「如何にしてキリスト教徒にならないのか」の方が面白いテーマだと言った人がいました。


私も無論そうではありませんが、ただ、18歳の時に四ッ谷イグナチオ教会で受洗した亡くなった姉を始め、身近の友人・知人に結構沢山います。
しかし、知識も関心もほとんど無いので、この「退任」のニュースも我善坊さんからグループメールで届いたときも、コメントのしようも無く、困っておりました。

ということで、今回の特集を読んでいろいろ勉強になりましたので、簡単に報告します。

3. 何せ、13世紀に前例があるだけで、それ以来ずっと死ぬまで勤めたローマ法王(「地上でもっとも権力と影響力がある人物の1人」とタイムは言います)が今回自らの意思で(85歳の高齢と健康の悪化を理由に)退任するのですから、その世界では大きな出来事でしょう。


4. まず今後ですが、
(1)3月15日から始まる「コンクラーベ」と言われる選挙で後任が選ばれる。選挙するのは117人の枢機卿(カーディナル)。選ばれるには3分の2が必要。
――この辺のことは、大ベストセラー、ダン・ブラウンの『天使と悪魔』を読んだ方はおおよそ見当がつくでしょう。
選挙の場所は、それこそ、あの「システィナ礼拝堂」、ミケランジェロが描いたあの「最後の審判」のある素晴らしい建物です。

(2)タイムによると、有力な候補者は7人の司教。
面白いと思ったのは、国籍は、イタリア2人、カナダ1人、アルゼンチン1、ガーナ1、ホンヂュラス1、ナイジェリア1と分かれている。つまり、アフリカ(黒人)が2人、中南米から2人居る。
しかも、このうちタイムがあげる有力候補3人は、ガーナ、イタリア、カナダである。


(3)この理由としてはいま世界でカトリックの信徒は約12億人。
うち最大が、南アメリカ(3億4千)欧州(2億9千万)アフリカ(1億9千万)中央アメリカ(1億6千万)・・・と続ぅ。

しかも、ここ5年の信徒増加率を見ると、アフリカが21%とダントツに多い。
欧州はわずか2%。

(3)タイム誌は、今回の選挙で
・新しい風が吹くか?(ラ米、アフリカ、アジアから)
・従来の欧州路線か?
が注目されると言う。
特にイタリアはここ2代、ポーランドパウロ2世)、ドイツと続いたので(それまではイタリアが普通)返り咲きを狙うだろう・・・

5. というようなことですが、面白いのは
「新しい風」といっても、むしろ、カトリックの教義や社会問題に関しては、ラ米、アフリカの方が伝統主義・保守主義の路線(話題性のあることでは中絶や女性聖職者の任用等々)で、従って、ベ16世の考えに近いということ。
他方で、リベララル色がいちばん強いのが米国(信徒85百万)と欧州で、逆にいえばそれだけ世俗化されているともいえる。

6. 最後に、べ16世の話になります。
(1) 前任のパウロ2世がカリスマ的人気があり、共産圏の崩壊に貢献したり精力的に世界中を旅行したのに対して
ベ16世の8年の在任中は「その保守性の強さもあってコントロヴァーシャル(議論の多い・毀誉褒貶の多い)な人物であった。しかし、学識豊かで、事務能力も高い。また、さまざまなスキャンダル(特に聖職者の性的虐待と不正な資金運用やマネー・ロンダリング)に真面目に対応し透明性を高めようとした。
しかし、法王庁の官僚の阻まれて成果はあまり上がらず、嫌気がさしたのも健康と並んで今回の辞任の理由ではないか。

(2) また、ベ16世はパウロ2世が最晩年にはパーキンソン病で任務に堪えがたい時期があったがその際、「ローマ法王であっても退任すべき」と発言したことでも知られる。

(3) 何れにせよ、
今回のベ16世の退任はカトリックの法王の在り方に新たなページを開くことになるだろう。
つまり、「途中で辞任がありうる」という前例を打ちたてたこと。
後任の選挙にもそれは影響するだろう。
有力候補者のうち、60代が3人(いちばん若いのがガーナ人の64歳)、70歳2人71歳1人と比較的若い。つまり若く就任して、途中で退任しうる、という道が開けたのではないか。


(4) 最後に、今後のベ16世の存在だが、
前例がないだけに、予測は難しいが、非公式にかなり影響力のある存在になるのではないか。「健康の悪化」といっても、肉体的な問題であろうから、彼の保守主義は健在であろう。
カトリックの歴史には例が無いが、世界を見たら前例がない訳ではない、
・・・として、
特に、近代以前の日本の天皇や将軍が、退位後も強い権力を保持した事例を上げています。


ということで、
以上、私自身の勉強もあって記録しておきます。