タイム誌の記事「longevity」とダボス会議「人生100年時代」

1. 東京の桜の開花はもうすぐです、いまは散歩コースの駒場民芸館の前庭に、終わり近い紅梅のうしろに白い木蓮が盛りです。

前回は、元気に活動している同世代の人たちに触れました。
たまたまタイム誌3月6日号が、表紙と特集は相変わらずトランプですが、第2特集が「Longevity(長寿)」と題する記事で、以下その内容を紹介します。

(A)メインの記事は「眠り」で、“健康の秘訣は、あなたが考えるよりもっと身近なところにある”と始まります。


(1) 今更珍しくもないと言われそうですが、「睡眠がいかに大事か」という指摘です。
➡「最近の実験と研究の結果、質の高い睡眠が、健康と長寿に深く関係するということが分かってきた」として、
「かっては、食事と運動との三本柱と考えていた。
しかし今では、睡眠は、脳と体を健康に向けてリセットする、たった1つの・もっとも効果的な療法と考えている」という科学者の言葉を紹介している。

(2) 成人であれば、毎日規則正しく7時間の睡眠が理想で、それ以上でもそれ以下でも良くない。若い世代は8時間以上が必要。
(ところが、8時間以上寝ているのはアメリカの10代の若者の30%以下にとどまっている)


(3) 睡眠を決して軽々しく考えてはいけない。
その不足は、疾病(認知症やメンタルな病いやPTSDを含めて)や早死にの原因と深く関連している。

寝ている間、脳は休んでいるのではなく活発に働いている➡「それは丁度、皿洗い機が汚れを落とすような「清掃する」働きと考えてほしい」。

➡日中に起きた全ての出来事を記憶しておくことは健康的でも有益でもない。
とくに感情の負の側面(怒り、フラストレーション、失望、悲しみ・・)を記憶から消し去る意味は大きい。寝ている間に脳は記憶を出来るだけ「中立的」に保存しようと働く。この働きには一定の時間と質の高い・深い眠りが必要なのだ。


➡「私たちは、記憶するために、同時に忘れるために、寝るのです。私はこれを“夜間療法(overnight therapy)”と呼んでいます。」


2. (B)タイム誌記事は次に「長寿」に関する5つの問いを投げかけます。
(1) そもそも、どうして皆、長生きしたいの(誰もがnonnegotiableに(交渉の余地なく)この世を去るのに)?
(2) 長生きするアドバイスを3つ知ってる?
・・・・等の質問です。

(1) について、タイム誌は何を語るか?

アメリカの成人の約70%が100歳まで生きたいと回答したという調査がある。
・エゼキイル・エマニュエル博士という著名な人物がいる。オバマ前大統領の健康相談医で、生命倫理学の権威でもある。彼は2014年に「なぜ私は75歳で死にたいか」という本を書いて大きな議論をまき起こした。
・彼の理屈は、「(個人差はあるだろうが)生物学的にいって全ての人間が有意義な人生を全うできるのは75歳までだろう」というもの。
・もっと大事なのは、彼が、「だから誰もが75歳で死ぬべき」と言っているのではなく、「75歳に達せずに死んでしまう人間が世界にどのくらい多く居るか、私たちはそのこ  とを考えて、(長寿の研究もいいが)そのことにこそ取り組むべきではないか」と言っていることだ。


(2) については
・好奇心を持ち続けること
・自分が必要と考える以上に野菜を摂取すること
・老いるとはどういうことかを自身で考え続けること、の3つだそうです。


3. そんな記事を私としては興味深く読んで、考えされられたのですが、
タイミングよく、NHKのBSが、「ダボス会議2017、人生100年時代」
という放送をやっていました。

ダボス会議は、毎年1月にスイスのダボスで開かれる国際会議です。
今年は中国の習近平主席が基調演説をしたことが話題になりました。

全体会議の他、様々なプログラムがあるようですが、上記はNHKが企画したパネル・ディスカッションで、河野憲治キャスターの司会で、著名なアメリカの医学部の教授、英国の教授(人材論の世界的な思想家)、カナダの.財務大臣年金問題の権威)、それに日本の金融機関のトップの4人がパネラーを務めました。興味深く見ましたので、以下ちょっとした報告で今回のブログを終えます。


(1) まずは90分英語でのセッションで、司会も日本人のパネラーも共にその英語力に感心しました。2人ともとくに帰国子女でもないようですが、日本人もこういう国際会議で、英語を母国語とする、その道の権威と堂々と渡り合える時代になった姿は見ていて誇らしいです。


(2) 医学の進歩等もあって「先進国の、2007年生まれの約半数は100歳まで生きると予想される時代になった」という司会者の説明から始まり、長寿の様々な課題が話されました。
・労働力の不足、長く働くことの必要性と、再教育し「変身」することの重要性、
・年金など社会保障制度の在り方、
・中でも最大の課題は、貧富の格差が「寿命の格差」につながる問題にどう対処するか?
➡この点については、裕福な人は貧しい人より12年長生きするという英国のデータが披露され、
➡新しいテクノロジーが健康を「民主化」するという明るい意見も出されたが、
➡やはり、資本主義の見直しや再分配機能の強化が必要だ、政府はもっと長期的な視点を持つべきだ、企業も従業員の健康にかける費用を増やすべき、・・・等が一致した意見だったと思います。


(3) 他方で、私たち1人1人にとっては、「無形資産」が重要であり、そのためには、自分の無形資産が何なのか(例えば、変身の能力、生産性、コミュニティや友人の存在)を常に考えて、可能ならそれを数値化することも意味があるという意見も出ました。

いろいろ読んだり聞いたりした中で、
エマニュエル博士の問題提起(75歳まで生きられない人たちのこと)や「寿命の格差」の指摘がいちばん心に残りますが、そうは言っても博士の言う「有意義な人生年齢」を過ぎた高齢者に出来ることは殆どない・・・

やはり今日も、7時間ぐらいの睡眠を考えることにしましょう。