電車で人と喋り、電車で本を読む。


1. いつも書いていますが、東京新聞というのは面白い新聞で、リベラルを標榜しつつ、芸能・文化・スポーツが大好きです。5月最後の31日夕刊は、「正々堂々、大関高安誕生、平成生まれ日本出身初」が1面トップの大きな写真入り記事でした。
大相撲と言えば、5月場所千秋楽28日の白鴎優勝のインタビューをYoutubeで見ました。
「1年ぶりに帰ってきました。リハビリで大変だった」に続いて、高安関の活躍に触れて「お母さんがフィリピン人だからフィリピンの人も喜んでいるでしょう」というコメントが記憶に残りました。こういう感想は「日本出身の関取」からは出ないのではないでしょうか。

2. 5月の週末には谷中天王寺への墓参と谷中銀座の散策もあり、6月に入ってからの二日目の金曜日。
昼前に、地下鉄半蔵門線に乗ろうと渋谷駅で電車を待っていたら、昔の職場で一緒だった女性に偶然会いました。
たまたま、行先が「永田町」と一緒で(私は国会図書館に行くので)、車内も空いていたので、並んで座って暫らくお喋りしました。
彼女は1987年に、今は無い(ちょっと寂しいけど、来年4月には銀行名もなくなる)銀行に入って8年勤めました。大学生のお嬢さんがいる、そんな近況報告から始まりました。


国内の支店長を1か所だけ、たった1年半やった経験があって、その時の新入社員でした。昔の職場は、大卒女子を、企業が採用するのはまだ珍しかった時期から継続していて、その時も男子3人に女子3人が私のいる支店に配属されたと思います。「総合職」の採用が一般的になった時期で、東大での女性が私のところに初めて入ってくるというのも話題でした。彼女はいま弁護士として活躍いる由。


時代ものんびりしていたのと、銀行の雰囲気もあったと思いますが、「先輩たちとご自宅によばれて奥様の手料理をご馳走になった、忘れられない」という思い出話がでました。私はすっかり忘れていましたが。

実は彼女に偶然渋谷で会うのは初めてではありません。「これも不思議な縁ですね」という話しも出ました。彼女もそうだし私も老齢にも拘らず、結構外に出ているということもあるかもしれません。それにしても「ばったり」、それも1度ならずというのは珍しいかもしれません。

車内で旧知の人と偶然一緒に座る機会はまずないので、結構楽しい時間でした。


3  ところで、旧知ならともかく、車内で見知らぬ人と言葉を交わすというのは、そうはないでしょう。
と思っていたら、仕事で東京と田舎を毎週電車で往復している「某」さんから、楽しいメールが届きました、以下、事前承諾もなく勝手にご紹介します。

――――湘南新宿ラインでの車中、栗橋から乗ってきた親子と楽しいひととき。

 座席は四人掛けのボックス席なのです。お互いに目で挨拶。(無口な息子に)お母さんが、「いまちょっとケンカ中なので」みたいなことを笑顔でひとこと。


 わたしは、そのとき上下二段組み500ページを超える長編小説を、ほぼ読み終え
るところでした。数ページ読むと、最後の短い一節を残すだけになる。そこで黙って
本を読み続けました。一区切りにたどりついて前に目をやると、その子は分厚い文庫本を読んでいます。佳境に入り、最後の20ページくらいを残すのみ、といったところ。集中して夢中で読んでる感じ。

 「厚い本ですね。面白い?」
 「面白いです」即座に答えが返ってきました。重松清さんの本だそうです。面白く
て、ぐんぐん読んでしまうそうです。

 それから、いろいろ話をしました。
お二人は、川口のお祖母ちゃんを訪ねて行くところだそうです。電車が大好き。E……型とか、詳しい。母親の話では、自分には仕事があって、こども(6年生だそうです)は3年生ころから一人で電車に乗って、あちこち出かけていたそうです。


本を読むのは好き、なんですね? でも、サッカーとかは好きじゃない? あまり運動は得意じゃないのよね、とお母さん。訊いてみると、虫は苦手なんだそうです。いえ、小さいころはそうでもなかったのよね、とお母さん。「そうだった?」とこどもの方は
ちょっと腑に落ちない。わたしは虫が好きで田舎暮らしをしています、と自己紹介?


 ・・・・そんなこんなで赤羽まで、ご一緒する。ホームでは、最後まで手を振って
くれてました。なんだか名残り惜しいような気持でしたね。―――


3. とてもいい話だなと思いました。いまどき、夢中になって車内で本を読む小学生がまだ居るのだというのは、大げさかもしれないけど感動的です。

しかも、「運動は苦手だ」と言う、こういう子供って、いまの時代に合わないんじゃ
ないかな、独りでいる時間が多いかもしれない、と自分の子ども時代なども思い出しました。

「某」さんに、早速返事をして、こんなことを書きました。
「昔、大江健三郎が(どの本だったか忘れたのですが)、何かのエッセイで電車で読書する若者の姿を書いていました。読みふけって、ちょっと眼を本から離して放心したように車窓から見える外の景色に眼をやる・・・という光景に感動した、という趣旨の文章で、読んでいる私も心に残りました。

 本を(とくに若者が)読みふけっている姿って、いまも昔も美しいですね。


5. 私は、6年前まで10年以上、京都で働いていたときは、月に2〜3回は新幹線に乗って往復しました。その中で一緒に座り合わせた乗客と会話を交わしたというのは数回しかありません。
しかし、2度と会うこともない「見知らぬ乗客」同士ですが、その何れもが楽しい時間でした。
 うちの1回は中年の女性で、たまたま私は仕事の必要があって、英語の論文を読んでいました。
 その合間に隣に座った女性から「海外生活が長いのですか?」と訊かれて会話が始まりました。
 すると自分の息子のことを語りだして、アメリ東海岸で寿司屋に勤めて、寿司を握っているという。岡山の大学を出てそのまま渡米してしまい9年になる、帰国する気はなく、永住権もとって楽しく暮らしているらしい、我々両親はまだ一度も行ったことがないのだが、心配している・・・・


そんな話を訊いて、単身海外に雄飛する若者の1人だなと嬉しく感じて、ぜひ息子さんに会いにいったらいいですよと大いに勧めた記憶があります。
その後、この青年はどうしているだろう?両親は彼に会いにいっただろうか?
と某さんのメールを読んで思い出しました。