英国ロイヤル・ウェディングとタイム誌

1.ミーハーを自認していることもあって、タイム誌6月4日号、英国ハリー王子の結婚式の「記念号」を熟読しました
今回はその紹介です。

昔からミーハーだったなと自分でも呆れるのは、かっては、ロンドンの本屋で買った、エドワード8世(のちのウィンザー公爵)や彼が結婚したシンプソン夫人(のちのウィンザー公爵夫人)の伝記を読み、


ダイアナ妃とチャールズ皇太子との冷え切った関係を暴露して大きな話題になった「ダイアナ、真実の物語」も読みました。
本が出版された1992年6月の半年後二人は別居し、1995年に離婚しました。
ダイアナ妃が交通事故で死去したのが97年、僅か36歳でした。


2.言うまでもなく、
(1)今回結婚した王子はダイアナ妃の次男、33歳。お相手のメーガン・マーケルさんは36歳、まさにダイアナ妃が亡くなった時の年令です。

(2)彼女はアメリカ人であり、英国の王室がアメリカ人と結婚するのは、1936年
以来の出来事です。
しかもこの時のエドワード8世が結婚したシンプソン夫人と同じなのは、ともにアメリカ人であるだけでなく、ともに年上であり、おまけに離婚歴があること。 今回の結婚に当って、英国国教会に改宗したこと。

(3)その上で、この2人が異なるのは、マーケルさんは父親が白人、母親が黒人という「混血(mixed race)」であること、また彼女が「成功した女優」という、いわばキャリア・ウーマンであること。

(4)そして、最大の違いは、
1936年当時は「離婚したアメリカ人女性」との結婚は英国の国論を二分する大騒ぎとなり、「王冠を賭けた恋」と言われたように、エドワード8世は1年弱で退位せざるを得なかったこと。

対して、今回はウィンザー城内の礼拝堂での結婚式で、国をあげて祝福された。


3.これで大騒ぎにならない訳はありません。
(1)もちろん、ハリー王子は王位継承権6位であり、王様であったエドワード8世の場合とは事情が異なります。
しかし、結婚と同時に2人はサセックス公爵&公爵夫人になりました。
英国の公爵夫人が、アメリカ人の・離婚歴のある・年上の・アフリカ系の血を引く女性である、ということの話題性と意味は大きいものがあります。


(2)今回の結婚式では、ダイアナ妃の思い出もよみがえりました。
彼女の姉(新郎の伯母)が聖書の朗読をし、
新婦が手にもつ花束には、ハリー王子が住まいのケンジントン宮殿の庭で自ら摘んだという「忘れな草」の花を、
そして、ダイアナ妃の葬儀でも歌われた讃美歌が歌われた。

(3)同時に、新婦の出自を強く意識した演出もなされました。
式を主宰する英国国教会の司教はアフリカ系アメリカ人で、キング牧師の「愛が全てを変える」という言葉を引用して、身ぶりてぶりを交えたアメリカ黒人教会風の14分もの長い説教をし、黒人霊歌スタンド・バイ・ミー」も歌われ、19歳のアフリカ系女性がチェロを演奏する・・・。


4.何せ、アメリカ人の英国王室入りということで
(1)米国「TIME」誌は、
「21世紀風のおとぎ話」
ウィンザー城のアメリカ人」
「メーガンが意味するもの」
と題する3本の記事を掲げて特集記事を組んでいます。


(2)記事の中で、1936年当時は「離婚歴のある女性」というのが最大の障害だったが、いまやこれは全く問題にならない、と指摘しています。
(3)また人種問題については、自らも「(英国人の父とガーナ人の母との)混血」である著名な女性ジャーナリスト、アフア・ハーシュさんが、英国は依然として白人社会であること、しかし今回、人種の違いが初めて目に見える形で実現した最初のロイヤル・ウェディングであることの意義は大きいと期待する記事を書いています。


(4)何れにせよ、新婦サセックス公爵夫人にとって、これからの最大のチャレンジは人種問題よりも、彼女自身の生き方ではないかという指摘もあります。
女優時代のメ―ガン・マークルは自らを、「強い、自律した、混血の女性」と自己規定していた。
フェミニストであり、環境保護にも力を入れていた。
そういう女性が、英国の保守的な王室の中でどうやって「自立した」自分を守っていけるか、という課題です。


(5)他方で、英国王室が「時代の流れの中で変わろうとしている」意味を今回の結婚に見るという指摘もあります。

「王室にとって最大の脅威は、変革よりも大衆の無関心なのである」。
新婦は、ダイアナ妃のように「新しい時代の精神」の象徴になるかもしれない、として、例の有名な、映画「山猫」の原作者ジョセッペ・ランドーサの言葉を引用しています。

――「物事がもとのままであるためには、すべてが変わらねばならないのだ(for things to stay the same, everything must change)」.


5.最後に、お祝いの記事に溢れている特集号にただ一つ、「この国に君主制は必要か?(Who needs the royals)」と題する1頁の批判記事も載せていることを紹介します。


寄稿者はグラハム・スミスといい、「共和国」という名の団体の会長(CEO)だそうです。

スミス氏は、「そもそも君主制に意義があるのか?」という根本的な問いを発します。
その上で、英国の君主制の問題点は2つあると指摘します。
1つは莫大な費用(もちろん今回のウェディングも)を国民が税金で負担していること。
もう1つは、英国の君主制が、その階級制を含めて民主主義に大いなるマイナスを与えていること
の2点です。

どのぐらいの英国民が共和制を支持しているかは知りません。
しかし、少なくともこういう意見があることをきちんと載せるという姿勢は、この雑誌の、そもそもジャーナリズムの見識だろうと思います。