2020年は「アナス・ホリビリス(本当にひどい年)」でした。

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1.今年最後のブログです。振り返って2020年は,「新型コロナウィルスのパンデミック(世界的大流行)の年」として長く記憶に残るでしょう。エコノミスト誌12月19日号は「疫病の年、全てが変化した年」と題する論説を載せ、同時期のタイム誌表紙は「2020」に赤のバツ印がついた写真に「今までで最悪の年(The worst year ever)」と表示しました。

  エリザベス女王が1992年のスピーチに使い、以来有名になった「アナス・ホリビリス(annus horribilis)」というラテン語を思い出した人もいるでしょう。英語だと「horrible year(本当にひどい年)」です。

 この年は、英王室にとっては、ウィンザー城が火事に遭ったり、チャールズ皇太子とダイアナ妃の不仲の暴露本が出て、結局二人が別居したりと、多事多難が多く、女王は嘆きました。

 今年の女王の恒例のクリスマス・メッセージは、多くの悲しみのなかで、医療従事者への感謝や、「あなたたちはひとりではない」と国民に呼びかけるものでした。

 しかし、今年は世界中の多くの人にとって、「アナス・ホリビリス」でした。世界の累計感染者は8千万人、死者は170万人を越えました。しかも上記エコノミストの論説は、「この他に、おそらくさらに5億人以上の未検査の感染者がおり、数十万の死者が記録されていないと思われる」と書きます。

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2.上記タイム誌所収のエッセイは、

(1) こんなひどい悲劇は第二次世界大戦以来であり、それを多少とも記憶している人は80歳代以上であろう。それ以下の世代にとっては、まさに未曾有の・未経験の出来事であるとして、

(2) この体験を象徴する言葉として、「無力感(sense of helplessness)」と「孤立(isolation)」の2つをあげています。

(3) さらに、日本でもおなじみの「ソーシャル・ディスタンス」と「エッセンシャル・ワーカー」です。

(4) その上で、今回の災禍の特徴は、「ステイホーム」という言葉が表すように、日常はいつもと変わらず流れ、その中で人々はとつぜん職を失ったり、身近な死を知る。世界は非日常でも異常でもなく、ありふれた日々と悲劇とが同居し、いつまでも続くことで、「無力感」と孤立が増幅される・・・・としています。

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3.他方でエコノミスト誌は、「100年に一度あるかないかの出来事」によるロックダウンの中で、多くの人たちは「無力感」や「孤立」だけではなく、「生きていくうえで何がいちばん大切か」を自問自答した筈である、とむしろ、危機を前向きにとらえようとします。

 

そして、この災禍が生み出す変化について以下の3つを予測し、むしろこれをチャンスとして生かそうと呼びかけます。

(1)「この苦しみの灰の中から、いまを大事に、一日一日を生きることを大切にする」意識が生まれてくるのではないか。

 

(2)コロナ禍はある種の警告として役立つかもしれない。ロックダウンのお陰で短期間に戻ってきたきれいな青空は、気候変動に対する人々の意識や態度の変化を促すシンボルとなるかもしれない。

 

(3)変化が期待できる第三の理由は、コロナが不公正を明らかにしたことである。勉強に遅れ、空腹に悩む子供たち、家で孤独と暴力に耐える人たち、行き場のなくなった移民労働者、コロナ自体がもたらす差別や格差・・・等々が浮き彫りになった。

 

➜つまり、我々は、コロナのお陰で取り組むべき課題・解決すべき課題を再発見したのだ。

そしてコロナは、技術革新や新しい知識や変化をどのように活用すべきかの示唆も与えてくれた。例えば、アメリカの小売売上に占める電子商取引の割合は5倍に増え、ニューヨークの地下鉄の利用者は90%以上落ち込んだ。

としたうえで最後に、

――私たちはこうした変化を見据えたうえで、いまある貧国や格差に立ち向かうべきであり、コロナがその機会を与えてくれたと考えるべきである。

そしていまこそ政府は率先して、福祉と教育政策を再構築して、21世紀にふさわしい「新しい」社会契約(国家と市民との関係)の構築を目指すべきである ――

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4.以上、タイム誌とエコノミスト誌を紹介しました。

 後者は少し硬い論調であり、かつ理想論かもしれません。現実はもっと厳しいかもしれない。むしろ人々はいっそう自分のことしか考えなくなるかもしれない。政治家は遠い未来のために改革を行うより、権力の心地よさに酔い、来年の選挙に勝つことしか考えないかもしれない。

「人類が勝利したあかしとしてオリンピックを開催する」と語る政治リーダーからは、コロナを人類への警告と捉え、課題を問うた出来事と見据えて、これを契機に21世紀の「新たな社会契約」を結ぼうとする気概は、残念ながら感じられません。

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 唯一明るいニュースとして、タイム誌が最新号で「今年の人(person of the year)」に選んだ、アメリカのバイデン新大統領とハリス副大統領の二人のコンビに期待したいと思います。

 11月の選挙に当選した次期大統領がその年の「今年の人」に選ばれるのは通例です。戦後ではニクソン辞任後に昇格したフォードを除いて、全員が(再選時も含めて)選ばれています。 しかし、副大統領も一緒に選ばれたことは今までにありません。

そして言うまでもなく、少数民族(アジア系と黒人)出身として女性として初めての副大統領の登場という出来事に、「コロナの悲劇」の中での希望を見出したいです。

 コロナがなければ、おそらくトランプ氏が再選されたでしょうから。

2021年がもう少し良い年でありますように!