「女性のいる民主主義社会」に向けて

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1.前回紹介した『女性のいない民主主義』(前田健太郎、岩波新書)に、いろいろコメントを頂きました。

(1)Masuiさん――「他国に比べ、日本で残されている資源として最も期待できるのは女性の活躍だと信じる。その点で未来は明るい。そのためには、現役時代に女性の教育や制度を見直した経験から、男性の再教育が鍵と考える。」

(2)中島さん――「女性が活躍できていないのは、政治家や霞が関官僚の働き方が女性にとって魅力がないという面も大きいと思う」。

(3)実際の経験に根差した、以上2つのコメントから見えてくるのは、企業では進む可能性があるが、政治や国家行政はなかなか難しいという印象です。それだけ、政治の世界は、本書が言う「ジェンダー規範が強い」ということでしょうか。。

(4)他方で、長年、京都の女性会と関わり政治家とも繋がりを持った岡村さんは、「ある女性政治家が夜の会合を終えて、夫のためにおかずを買って帰る姿を見て、夫はやはり「内助の功」を求めているのだなあと感じたと書いています。

 政治で働く女性といえども、家庭に夫がいれば、夕食の用意は自分の役目になっている・・・高齢者の家庭ではまだこれが普通でしょうか。

(5)地方政治家としていまも頑張っている田中さんからは、22年の経験をふまえたコメントを頂きました。

――・テレワークが進み、学校や福祉施設も開いていないときに、子育てや家事労働など負担のしわ寄せが来るのはやはり女性。

・少なくとも政治の世界に入ろうとする女性は増えないと思う。男性にとって、しなやかで強い女性の台頭は脅威。だから増えないのです。

・22年前に初めて議員になったときと環境はほぼ変わっていない。議会そのものがとても封建的・・・・――

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 いまに至るも、「封建的」と感じさせる風土が日本の政治にはあるのでしょうね。

 生涯、全く政治の世界とは無縁だった私には分かりませんが、前田准教授が本書の冒頭の「はじめに」でこう書いているのを思い出しました。

――「日本列島に暮らす多くの人にとって、政治とは永田町にある国会議事堂で起きている出来事を指すのではないだろうか。

 試みにこの建物の内部の光景を思い浮かべてみよう。そこでは、首相が演説していることもあれば、野党の議員が大臣の不手際を追求していることもあるだろう。大臣が答弁に窮した時には、後ろに控えている官僚が、そっと何かを耳打ちしている場面もあるかもしれない。

 ここで、少し思い起してみてほしい。今、頭に浮かんだ風景の中に、女性は何人いただろうか。おそらく、登場人物のほぼ全員が、スーツ姿の男性だったのではないだろうか。

 このイメージこそ、日本の政治の特徴を端的に表している。日本では、政治家や高級官僚のほとんどを男性が占めており、女性で権力者と呼ばれるような人はほとんどいない。これは実に不思議なことではないだろうか。―――

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3.田中さんは、おそらくこういう環境の中で、市会議長としての長年の政治活動などを、殆どの男性議員の眼にさらされながら続けてこられたのでしょう。

 そして、「ロール・モデル」としての立場を意識しながら頑張って来た、いまも頑張っているのだろうと思います。

 私が京都府宇治市にある唯一の大学に勤務していたころ、種々の委員会や街づくりの活動などでよくご一緒しました。

 威張らない、庶民的で気さく、生活の目線で語る・・・といったスタイルが魅力的でした。

 もちろん全ての女性がそうだとは思いません。女性政治家の中にも「威張っている」人も「男性以上に権威主義的」な人もいるでしょう。女性だから全て平和主義者とも言えないでしょう。男性以上に「タカ派」もいることでしょう。

 しかし、田中さんのような「女性」政治家であれば、大いに増えてほしいと願っています。

 「既得権」を守ろうとする高齢男性や世襲議員からの圧力や既得権益と「封建的」なシステムのなかで、「しなやかに・争わず・しかし強く」活動してほしい。そのためにも、時に憤慨したり、愚痴をこぼしたりできる「仲間」を増やしていってほしいです。

 

(因みに、「先生」と呼ばないと怒る議員諸兄姉も多いかもしれませんが、私が長年京都で関わってきた団体の唯一の「決まり」は老いも若きも・男も女も・肩書無視、全員「さん」づけを徹底していましたので、いまも「田中さん」と呼ぶこと、お許しください)

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4.『女性のいない民主主義』について最後にもう少し補足すると、前田准教授は本書で、従来の政治学では「代表」という概念があまり取り上げられなかったという反省から、民主主義を考えていきます。

 

(1)「政治家が、自分の支持者を代表している」というとき、1つは「有権者の間の意見の分布が、国会議員の間の意見の分布と重なっているかどうか」が民主的かどうかの重要な基準になる。

(2)そしてもう1つ、「その政治家が、自らの支持者の社会的な属性と同じ属性を持っている」という意味での代表の概念がある。

代表制の確保された議会とは、議会の構成が、階級、ジェンダー、民族、年齢などの要素に照らして、社会の人口構成がきちんと反映されている議会である。したがって、ジェンダーの視点から見て、「代表者の男女比が均等に近いほど、その政治体制は民主的であると考えられる」と著者は指摘します。

 

(3)この2つの「代表」が確保されることは、民主的な政治において決定的に重要であるが、今の日本のように「小選挙区」が主体の選挙制度では、(1)が十分に果たされていない。それだけに(2)の重要性は一層高まる。

(4) 田中さんの、「コロナ禍で子育てや家事労働など負担のしわ寄せが来るのはやはり女性」という嘆きには、社会的な構造問題も大きいでしょう。しかし、政治の世界で、女性の代表者が増えれば、こういった課題がもっと「争点化」されて、取り組みも進むのではないでしょうか。

(5)前田氏は、例えば「日本の福祉政策が男性稼ぎ主モデル」に立っている現状を批判したうえで、「女性のリーダーシップが発揮されることが、男女平等に向けた政策変化への道を開くことになるだろう」と言います。

 環境や平和についても、同じことが言えるのではないでしょうか。