- 今回も頂いた本の紹介です。
中学・高校・大学で一緒だった廣田尚久氏の新著『ポスト資本主義としての共存主義』(信山社)です。
(1) 氏は本職は弁護士ですが、著作に励み、ここ4年間で今回が5冊目の刊行です。私もブログで紹介してきました。
(2) 昨年には『共存主義論、ポスト資本主義の見取図』を出版しました。450頁の大著ですが、今回はその縮刷版、かつプーチンの戦いを受けて急きょ提言を整理し直したものです。
良い社会に向けての理想に賭ける、氏の情熱に敬服します。
- 共存主義とは彼が名づけた、資本主義に代わる新しい社会の仕組みです。
「経済、政治、法等のあらゆる社会システムを、「よりよく共存する」という価値観のもとで構築する、資本主義終焉後のパラダイム」
と定義されます。
3. パラダイムとは、「ある時代を根本的に規定している認識の枠組み」で、いまの時
代では資本主義」であろう。
そして、コロナ禍とロシアのウクライナ軍事侵攻が、世界経済や社会全体に大きな亀裂を入れ、資本主義のパラダイムを決定的に破壊してしまう可能性が出てきた
――というのが著者の認識です。
その前提として、資本主義には本質的な矛盾があって、これがもはや持続できないまでに至っているという理解があり、
だからこそ新しいシステムとして「共存」という「価値」を提唱します。
- 「共存主義」を支える考え方として著者は
(1) 私的所有に代わる「共存的所有」――「コモン」に類似した概念
(2) 契約に代わる「公正な合意」
(3) 法的主体性に代わる「個人の主体性」
を提唱し、それらを踏まえた新しい「仕組み」として、
(a) ベーシック・インカム
(b) 株式会社ではなく法人格を有する結社
(c)「投機(価値の先取り)」の弊害をなくすため、「銀行の信用創造」の制限
(d) 多数決に代わる「全員の合意」という意思決定
(e)そして、紛争解決の方法としての「和解」
を具体的に提案します。
5.これらの主張の中で、
私がいちばん興味を持った「和解」について、簡単に紹介します。
(1) 著者は弁護士として長年民事訴訟に携わってきました。
その過程で、「訴訟」でなく、「調停」や「仲裁」による解決を模索し、事件の幾つかをこの方法で解決しました。
(2)「訴訟」は、裁判による物理的強制力をともなう「勝ち負けを決める」システムです。
対して「和解」は、裁判によらずに、当事者の自由意思を尊重し、「私的自治」の理念に基づいて紛争を解決する仕組みです。
つまり、当事者双方は最終提案を考えて話し合う過程を通して、「争い」を「争いでないもの」にしてしまう。
「共存主義は、勝者も敗者もなく人々が共存して生きることを目指しているのであるから、和解のシステムこそ共存主義にふさわしい」というのが著者の信念です。
(3)彼自身、この方法で民事訴訟を実際に解決してきて、その成果に立って「和解学」という新しい研究分野に取り組んできました。
それだけに説得力のある議論ではないかと思います。
(写真6-01775メタセコイア)
- しかし、民事訴訟ならともかく、国同士の武力による争いにおいても果たして「和解」がありうるのか?
人間は争う、そこで勝ち負けを決める、そういう習性を持った動物ではないのか。
今回のサッカー・ワールド杯で熱狂する観衆を見て、「これはスポーツの世界の約束事で、戦争で「争う」のとはまるで違う」と誰もが信じているのでしょうが・・・・。