渋谷で映画「ハーブ&ドロシー」を観る

さわやかNさんいつも有難うございます。

硬い話は嫌われそうですが、ご質問も頂いたので憲法について以下ごく簡単に。


1. 憲法前文は、
「日本国民は、(略)自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為に
よつて再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意し、ここに
主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する」で始まります。


このように「新憲法は」「民定憲法」(明治憲法の欽定憲法に対して)であり、
「国民が、国民主権の原理によって、新たに認められた憲法制定権にもとづき、
その代表者を通じて制定したものとみなされる」
と書くのは元東北大教授清宮四郎氏です(有斐閣法律学全集「憲法1」35ページ)


あるいは、宮沢俊義元東大教授によれば(法律学大系「日本国憲法」)
日本国憲法は、疑いもなく、大日本帝国憲法の基本的建前たる原理、すなわち、
国体を変えるものだと考えなくてはならないから(略)形式的には大日本帝国
憲法第73条による改定であるが、実質的には、国民主権の原理にもとづく
新しい憲法であると見なさなくてはならない」(同25ページ)


まあ何れも私の学生時代の教科書からの引用ですから
「現在の見解は違う」という人もいるかもしれませんが。


2. 硬い話は以上、ということで、もう10日も前ですが、渋谷で映画
を見た報告です。
前にご紹介した映画「はんなり」を見たのも小さな映画館でしたが
これも、渋谷イメージフォーラムという100人ぐらいしか入らない
小さな小屋です。


11月20日付のhttp://d.hatena.ne.jp/ksen/20101120/:TITLE=ブログでNORTHさんのコメントを頂き、
もともとフットワークの
軽い方なので、ひとりでこの映画見てきました。
因みにコメントは以下の通り。
・・・佐々木芽生監督のドキュメンタリー「Herb & Dorothy(ハーブ&
ドロシー)」をご紹介します。これは郵便局員のハーブと、図書館司書の
ドロシーが30年間の歳月をかけ現代美術のコレクションを収集、
マンハッタンのワンベッドルーム一杯に集まった4000点以上の作品は
やがて何億円もの価値を持つようになり、1992年に約2000点はワシントン
のナショナルギャラリーへ、残る2000点は全米50州の美術館に寄贈された
経緯を網羅した映画です・・・・


3. 映画の紹介は以上のコメントの通りです。

(1) 高校を中退して、郵便局で郵便物の仕分けをするハーブと大学院の修士
を出て図書館の司書をしていたドロシーとがダンスパーティで知りあって結婚。


(2)2人はもともと趣味で絵を描いていたが、
やがてドロシーはハーブの現代絵画への情熱にうたれて2人で収集を始める。
ドロシーの収入で生活し、ハーブの収入はすべて絵の購入に使われる。
選ぶ基準は、給料で買える値段であること、1LDKのアパートに収まる
サイズであることの2つ。


(3)30年以上、自分の家ももたず室内は収集した絵画でうまり、その間、
絵の価値はたいへんに上がったというのに、1つも売らず、儲けることなど
一切考えず、全て、美術館に寄付してしまった。


佐々木監督自らの「まるでおとぎ話のように深い感動をおぼえた」という言葉
がよくわかります。

しかも、映画に登場するご夫婦の仲の良いこと。


4.さらに面白いのが、監督自らおどろいているように、我々素人にはなかなか
良さの分からない、前衛的な現代絵画を、選ぶ2人の理由です。


「どこが良いと思って購入したか?どこがこの絵の魅力か?」
と質問して、とうぜんに専門的な美術の知識を披露されるかと思ったら、
2人の答えは


「きれいだから」
「気に入ったから」
という単純な答えしかかえってこない。

困ったなと思って、ある画家に相談したら
「だからこそ彼らは素晴らしいし、特別なんだ。
どうしてビジュアルアーツには洗練された言葉が必要だと決めつけるの?
作品を前にした時の彼らの目をみてごらん。キラキラと輝くだろう!
言葉では説明できないけど、彼らは何かを見つけているんだよ」


この言葉を聞いて、佐々木さんは、
「アートに言葉はいらない」というのがこの映画の大事なテーマだと気が
ついたという。


(ここで、私自身の考察を付け加えると、


・・・「言葉はいらない」というのは
「本当のことばだけあればよい。今の社会はそれが失なわれて意味のない
言葉があふれているのではないか」という含意で捉えたいと思います。
“きれいだから”、これが「本当のことば」だと思います。・・・)


5. 最後に、佐々木芽生(めばえ)さんという女性です。

青山学院仏文卒。
1987年渡米、以来ニューヨーク在住。フリーのジャーナリストやNHK
ニューヨークに勤務のあと映画製作の会社を設立。


「ハーブ&ドロシー」は初の監督・プロデュース作品で、
全米各地の映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞等を受賞。


「(映画製作の)予算は4倍にも膨らんで貯金を使い果たし、銀行から
借金をして・・・・ですからいまもアパートはまだ抵当に入ったままです
(笑)」と語っています。


ぜひ、興味のある方は彼女を応援するつもりで、この映画見てほしい
と思います。


彼女もまた「なにかを見つけているんだよ」と気がつくことでしょう。