野口雅昭氏「中東の窓から」講演会

1. 遅くなって恐縮です。
mikkoさん、有難うございます。まったく同感です。テレビで避難地で「有難う」と言いながら食事を受け取っている避難者に心痛めながら、どうして日本人は最近「有難う」と言わなくなったのかと考えています。
避難者の方に教えられるのは辛い。
本来はお客も感謝すべきなのに、「お客様は神様」という言葉が意図とは別の誤解を生んでしまったのではないか。
柳居子さんも、いつも京都の先生ですね。これからもいろいろ教えてください。


2. さて桜満開の4月9日(土)、前々回のブログで案内した、掲題の講演会が京都大学の教室で開催されました。

今回はKSEN(京都ソーシャル・アントレプレナー・ネットワーク)と京大生の研究会との共催で、約30名が出席。
KSENからはいつものメンバーの他、東京からはるばる川原さんの参加があり(彼女は中東への関心が高く、チュニジアなどに何度も旅しています)、また私の同世代の黒幕子さんも駆けつけてくれました。
http://hwm2.spaaqs.ne.jp/yy0614/
  当日は、午後2時から、3時間の長丁場。
  1時間の講演のあと、学生2人をまじえてパネルディスカッションが1時間、そのあと
質問が10人ほどとまことに活発で大いに盛り上がりました。


3.内容は浅野さんが早速ブログで紹介してくれました。
http://asanoya.exblog.jp/13350797/
  全部を要約する紙数はとてもありませんので、私個人が印象に残ったことを簡単に報告します。
まずは、今後要注意なのは、
イラン、サウジアラビア、シリアの3国。
前2国は政治的な不安要因を抱える大国である。サウジであれば国会もなく選挙もない超保守的な国で5千人の王族が贅沢の限りを尽くしている。王様・皇太子とも90歳近い。
シリアは中東の戦略的な場所に位置する。
これらで動乱が起きると、中東全体への影響が大きく、石油価格の高騰にもつながり、まことに危険である。

3. 今回の動乱の直接的な契機としては、
若い世代の急増、失業・食料高への不満、ネットが連帯を生む、の3点が指摘されているが、根本にあるのは、民主主義の欠如と自由の抑圧であり、独裁政権があまりにも長く続き腐敗したことであり、この点を忘れてはならない。

4.それなら、これらの国の民主化への見通しだが、なかなか見通しにくい問題である。
中東である程度民主主義国かつ穏健なイスラムと言えるのはトルコだけであり(イスラエルもそうではない)、
今後の方向としてはトルコ型がいちばん望ましいが、
イスラムは無視できないので世俗的な民主主義が成立するのは難しいのではないか。
いま打倒の対象になったのは、イスラム原理主義や王制への対抗原理として登場した独裁者本人や2代目である(統治の正当性)。その点からは、こういう人たちの再登場もイスラム原理主義への対抗上、ありえないではない。


4. 中東に関しては印象に残ったのは以上です。
質問は多岐にわたり、今回の動乱と女性の役割、パレスチナ問題、さらには現在、シオニズムはどうなっているかの質問もありました。

5. また、中東における外交は、どうしても紛争や戦争の多発する地域であり、安全保障の問題は避けて通れないという野口さんの指摘にからんで、自衛隊の海外派遣、リーダーシップや情報機関の必要性といった質問も出ました。
他方で、チュニジアからの輸入品や中東への日本製品の販売といったビジネスに関する問いも出されました。

6. 外交に関して講師のコメントで興味深かったのは、
・外交は国益をいかに促進するかのためにある。
・しかしそれは、自らの国の利益だけではなく、自分のいま属している社会の安全と平和を守るということでもある。例えば現在であれば、テロであり地球温暖化である。
・したがって、自分の国のことしか考えないのは「品格」のない国としか言えない。この点で北欧やオランダの外交はモデルになるのではないか。


7. 京大生は皆さん、活発でよく勉強もしており、頼もしい印象を受けました。
ただ1つ気になったのは、やや保守的というか右傾化しているなという感じ。
これは、私が戦中派で戦後の民主主義教育の申し子だから余計感じたのかもしれませんが、別にこの研究会の性格とは関係なく、いまの若者の一般的な傾向ではないかという学生の反応でした。
KSENの仲間の藤野さんが、質問に立って、その前に「こういう姿勢はいささか気になる」と私の代わりに発言してくれたのはとても嬉しかったです。


8. これには私たちが次の世代に、多少なりとも戦争の苦難や戦後の混乱や悲惨さをきちんと伝えてこなかったことにも責任があるのではないか。

前にも書きましたが、大震災にあって、そのことを痛感しています。
嫌がられても・無視されても、私たちの世代は戦争と敗戦を語る義務がある。死ぬまでそれは忘れずにいよう。
東京大空襲も、広島も長崎も、沖縄も、戦後の戦争孤児も傷痍軍人も女性の生きる姿も・・・少しでも伝えていこう、そんなことを改めて感じました。

9. 京都はそれでも桜満開でした。
私も、堪能しました。

被災地にもそろそろ咲くでしょうか。
今年も変わらず咲く桜を見るのは被災者にはとても辛いでしょうが、それでも、亡くなった方を思い、自らが生きている意味を考える・・・そんな時間になるのではないでしょうか。


10.そう言えば、これを書いている最中に友人からメールが入り、
明日13日(水)の早朝4時台のNHKラジオ深夜便に野口さんが登場するそうです。
インタビューに答えて「中東世界で学んだもの」という題で喋るとのこと。
緊急にご報告します。