「チ―ズばかり好きな、弱腰の猿め!」(Cheese eating surrender monkeys)

1. 今回のアルジェリア人質事件はまことに悲惨な出来事です。
海外で働く危険と犠牲の大きさに胸がふさがります。
私も海外に14年ほど勤務し・暮らしましたが、幸いにすべて先進国で、危険を感じることはありませんでした。
もっとも最初のNY暮らしは1960年代後半のヴェトナム戦争の最中で国も荒れており、治安も悪かったです。
日本人の駐在員が(たしか電通の社員)近くの歩道で金目当ての強盗に刺殺されましたし、駐在員の住むあたりの環境が徐々に悪くなって「地下の洗濯室に行く時は1人は避けるように」とか「奥さんが1人でアパートに居るときの配達員の配達には十分気をつけるように」という注意がなされました。
実際に忌まわしい事件も発生しました。


さらに、たしか私がロンドンに居る時に、当時のリマ(ペルー)支店長が身代金目当ての強盗に出勤途上に襲われ、重傷を負いました。
幸いに、運転手が命を賭して逃げ、2人とも命をとりとめ人質にもならずに済みましたが、怖い・気の毒な出来事でした。


2.今回の事件で、新聞報道をあまり丁寧に読んでいないのですが、友人のもとチュニジア大使の某さんが、ブログ「中東の窓」に、
カダフィ他の、かっての独裁者を支持する気持ちは毛頭ないが、カダフィリビア)ベンアリ(チュニジア)のような独裁者が居たときはテロを厳しく抑え込んでいた。いまは空白が生まれている」
と書いていました。


また同氏は
「海外の報道と日本のそれとを比較すると、日本はアルジェリア政府の対応への非難が大きく、テロリストへの強い非難と攻撃、憎悪が日本のほうが弱い気がした」とも。



3.この事件の背景に、フランスのアフリカ・マリ共和国への軍事介入とそれへのテロリストの反発があることはご承知の通りですが、
旧東銀時代の友人が、英国の雑誌「エコノミスト」の1月19日号の記事を邦訳して仲間にメールしてくれました。「ヨーロッパの海外での武力展開」と題するレポートが言いいたいことはおおざっぱに以下の通りです。


(1) ヨーロッパはEUの問題を始め、自国や周辺の課題への対処に忙殺されており、軍事費も削減しており、また若者も遥か異国のために命の危険をさらす、というような行動に弱腰になっている。海外での、過去の帝国主義的なアプローチへの世論の批判もある。


(2) 他方で、アメリカはこれまた財政の悩みを抱え、「世界の警察官の役割」を徐々に縮小しつつあり、同時に、世界戦略の軸足をアジア・太平洋にシフトしつつある。
(3) その中で、フランスが単独でマリ共和国での武装勢力の封じ込めなど、孤独な戦いを続けている。
しかし、それがいつまで続くか分からないし、限界もあろう。

ヨーロッパは本当に、海外(アフリカ、中東など)の安定化への努力に無関心でいいのだろうか。
と懸念しているものです。


確かに、記事が指摘するように、テロリストの拡散に対して各国がやや及び腰になっている状況があるとすれば深刻な問題と考えます。
(ついでに言えば、今は日中や日韓が争っている場合ではないのではないか・・・)


4.これは真面目な懸念ですが例によって私の関心は以上の本筋ではありません。
「フランスが(旧宗主国であることもあってマリで)一人で頑張っている」という現状説明にあたって
イラク戦争のときはアメリカがフランスを「好物をむさぼる負け犬(Cheese eating surrender monkeys)」と非難した。
今回のマリへの軍事介入ではフランスは、武装勢力との戦いで、仲間、とくにヨーロッパの仲間がいないことに落胆している」
と訳しているくだりです。

5.この「チ―ズばかり好きな、弱腰の猿め!」という表現を知らないという彼のコメントがあったので、つい余計な口出しをしたのですが、


この言葉は、アングロサクソンのフランス人に対する「蔑称」としてよく使われていて、
(1)フランス人がチ―ズ好きなこと
(2)第2次大戦で、ナチスドイツに早々と負けてしまい、英米の助力でかろ
うじて戦勝国の仲間入りしたこと
の2つを皮肉っています。
つまり、チ―ズやワインを楽しむことは一流だが、外交や軍事となるとからきし駄目」というフランス人観です
もともとは、第2次大戦の時に、ナチスに早々にやられたフランス軍に対して、
自国の兵隊が命を賭して戦っているのにと怒って、あるアメリカ軍の将軍が使った言葉とのこと。

その後1995年になって、イラク戦争の時に
フランスが派兵に反対したのを英米が皮肉って、ある漫画で使われて(写真のようにアメリカ人の臨時教師がフランスの学校で生徒をからかう場面)から普及し、その後もっぱら「フランス人への蔑称」として定着した。
こんな、たった5秒のユーチューブもあります。
http://www.youtube.com/watch?v=FUjGf2Grrus


6.もちろんフランス人自身は大いに反論することでしょう。
旧東銀の仲間に彼の地の暮らしが長くフランスびいきも沢山いますから、憤慨されそうです。
この点はただ言葉の背景を説明しただけですから、お許し頂くとして、むしろ

(1) いかにもイギリス人らしい、意地の悪い皮肉と受け取るか
(2) さすがに、英国とフランスは、いまは仲良くしているが、歴史的にも文化的にも仲が悪いんだなあ、と再認識するか
(2)それとも、日中・日韓と違って、英仏の関係というのは、こういう悪口を平気で言い合えるほど成熟している、と考えるか。


まあ、その何れか、あるいは全てかもしれません。
何れにせよ、日中・日韓も、こういうことを、雑誌や新聞で平気で言いあえるような二国間関係にはならないものでしょうか。