『小説論、読まれなくなった小説のために』(金井美恵子)

1. 海太郎さんコメント有難うございます。漱石の「永日小品」とは渋いですね。
書棚から取り出してみましたが、ピトロクリの谷というのはスコットランドだそうですね。行ってみたいものです。


2. 海太郎さんは謙遜しておられますが(アメリカのミステリーを実によく読んでおられます)、「純文学」はともかく、たしかに男性は、歴史小説(ご存じ司馬遼など)のようなものを別にして、特に、海外物・翻訳小説は読まないようですね。


小生は、もちろん暇なせいもあるでしょうが、テレビは見ないが、気楽な海外の小説はこの年になってもよく読みます。
今年読んだものをあげるだけでも(こんな情報に興味がある人居ないでしょうが、済みません)

・英国ウィルキー・コリンズの『白衣の女』岩波3巻、同じ作者の『月長石』(創元推理文庫)・・・・・等々
・図書館で借りたレイモンド・チャンドラー村上春樹訳の『ロング・グッドバイ』・・・等々
・原書ではスコット・タロー(Scott Turow)の『推定無罪』(1987)、ロバード・ゴダード(Robert Goddard)の新作『フォールト・ライン』(2012、これは何れ邦訳されると思いますが、なかなか面白い)・・・等々

まあ、娯楽小説ばかりです(多少弁解すれば、他に、ドフトエフスキーやカミュの再読もありますが)。

3.中年以上の男性が海外(だけではないが)の小説を読まない理由は?と考えてみました。
(1)そもそも、絵空事のような海外の小説なんか下らないし、読んでいる暇がない。
(2)実は、結構読んでいるのだが、「小説なんて」と思われそうで、何となく、他人との話題にするのは恥ずかしい。
(3)若い頃は結構読んだが、中高年になって、小説、とくに海外文学はまったく手に取らなくなった。


というようなことでしょうか。
少し補足すると、
(2)については、もう20年以上昔でしょうか、大学時代の友人数人と話していて何かの拍子に某君が
宮本輝の『錦繍(きんしゅう)』が大好きだ、とふっと漏らして、あれと思ったことがあります。
まだ第一線でばりばり働いている頃でしたから、普段は会っても小説の話題など出ることが無かったのですが、何となく友人の別の一面を見たような気がして、以来、親しみが増しました。
これはもちろん海外物ではありませんが、猛烈ビジネスマンが読むような本ではないですよね。

宮本輝の『錦繍』はもう少し触れたいですが別の機会にして、
(3)について言えば、高校時代には結構、海外の小説を読む友人が多かったような気がします。
時代もあったでしょうが、私も受験勉強なんてそっちのけで、小説に読み耽っていました。
その頃、親しい友人とトーマス・マンの『魔の山』をたまたま2人とも同時に読んでいて大いに語り合ったことがあります。
もちろん今でも親しい友人ですが、しかし彼と、トーマス・マンはおろか、海外の小説を話題にすることもなくなりました、


4. ということで今回は私的な惑溺と思い出になってしまいますが、
私の場合は、まあ小学生・中学生のころ、小説ばかり読み耽っていました。


今回は、以下、カテゴリー別に(といっても恣意的ですが)これらの、私の少年時代をとびきり豊かにしてくれた無数の「物語」を並べることで、「いまは読まれなくなった小説」へのオマージュとしたいと思います。

(1) 日本の童話:もちろん小川未明(「赤いろうそくに人魚」・・・)に始まり、戦後ではいぬいとみこ(『木かげの家の小人たち』)佐藤さとる(『誰も知らない小さな国』)

(2)西洋の童話:もちろん、ドリトル先生エーリッヒ・ケストナーの『飛ぶ教室』『点子ちゃんとアントン』・・・戦後では、岩波少年少女文庫の無数の物語、例えば『トムは真夜中の庭で』『クローディアの秘密』・・・等々
(3)日本の少年・冒険小説:例えば、江戸川乱歩明智小五郎と少年探偵団、高垣眸の怪傑黒頭巾、南洋一郎の海洋もの、海野十三、もちろん吉川英治も・・・
(4)世界の少年少女名作全集に収録されている「物語」の数々{多くは原作・名作のダイジェスト}
――以下、切りがないけど例えば、『厳窟王』『ああ無情』『クオレ』『十五少年漂流記』『母を尋ねて三千里』『紅はこべ』『ゼンダ城の虜』『クオ・ヴァディス』『小公子』『小公女』『若草物語』『ルパンもの−奇厳城や八点鐘』『秘密の花園』『二都物語』『ロビンソン・クルーソー』『宝島』・・・
(5)日本の文学者が少年少女向けに書いたもの
――例えば、大正の終わりから改造社が出した「現代日本文学全集」は1冊1円だったので俗に「円本」と呼ばれました。
全63巻ですが、昭和2年に出た最後は「少年文学集」です。
懐かしくて、10年以上前に神田の古本屋でみつけて1000円で買い求めました。

ここには、若松賤子の『小公子』森田思軒『十五少年』など翻訳ものと並んで、小川未明の童話もあり、
佐藤春夫の『美しい街』などもあり、芥川龍之介からは『蜘蛛の糸』『杜子春』『魔術』の3つが収められています。


5.そう言えば友人の「ゆらぎ」さんが最近のブログで『杜子春』に触れておられます。
http://blog.goo.ne.jp/rokuai57/e/bc1a8eb520a099d46563dcd15a6de37f


詰まらぬ駄文、というか、昔を思い出しつつ、延々とオマージュを捧げていたら、これらの本、どうしても、もう一度読み返してみたくなりました。
日の名残り」を少年時代の愛読書を読んで過ごす、というのはとても楽しそうです。