プ―チンと習近平は西欧の価値観の挑戦者になるか?

1. 前回は、米タイム誌がプーチン・ロシア大統領を「帝国主義者」と呼び、西欧の価値観(自由民主主義)に挑戦する存在ととらえていることを報告しました。

この点は、中国の習近平国家主席の方が、プ―チンより態度鮮明という感じがします。
そこで今回は、英米のメディアが彼をどのように論じているかを伝えたいと思います。
というのも日本の論点とは少し視点が違うように思うからです。

2. まず少し古いですが、2014年9月20日号「英国エコノミスト」記事―「習近平には従うしかない( XI must be obeyed)の要約です。
(1) 毛沢東の独裁がもたらした混乱の反省から、70年代末�殀小平は「集団指導体制」を打ち出し、コンセンサスを重視した。集団指導は�殀自身を含めて時に無視されることもあったが、総じて中国の安定に寄与したと言える。
(2) 習近平はこれを変えつつあり、�殀以来、おそらくは毛沢東以来、もっとも強力な権力をもち、最も大衆に人気のある指導者である。それが果たして中国にとって良いことか否かは、彼がその強大な権力をこれからどのように使うかにかかっており、現時点では不透明である。
(3)彼が取り組むべき重要課題は1つは経済の活性化、2つは(より厳しい課題だが)「法治国家」への道を進めることである。
(4) 前者については、一人っ子政策の緩和、農民の戸籍制度の見直し等を打ち出し、注目される。後者も、汚職摘発などに取り組んではいるが、透明性や公正さに欠ける等の問題とリスクもはらんでいる。
(5) 鍵は、彼が強大な権力と人気を使って、リーダーシップを発揮して、どこまで「党」の影響力を抑え込めるかにかかっていよう。


3. もう1つは、同じく昨年11月17日号「米国タイム誌」記事要約―「皇帝・習近平(Emperor Xi)」
(1) 習近平ほどの速さで権力を掌握することに成功した中国のリーダーは何十年も存在しない。
また習の人気は絶大であり、政府やメディアも意識して巧妙に、彼の率直さ、ユーモア、近づき易さ、親しみ易い庶民的なイメージを売り込んでいる。その結果いまや「習伯父さん(Xi Dada, Uncle Xi))とまで呼ばれる「庶民の代表」と見なされている。
(2) 習自身が自己のパーソナリティを国民に植え付けることに熱心であり、前任者の個性のないイメージと対照的であり、その点は毛沢東を思わせる。
文化革命時の苦しい体験もプラスに働き、「苦しい過去の労働が精神を強くさせたと語り、「庶民」のイメージを強調する。夫人の役割も大きい。

(3) 最近の人民日報は「毛沢東は中国人民を立ちあがらせた。�殀小平は豊かにさせた。(注―1978年に僅か200ドルだった平均年間所得は今や6000ドルである)。そして習近平は、強くしてくれるだろう」と評価する。

(4) 「習は、ブルジョアジーの帝王(the emperor of the bourgeoisie)である。いま中国にとって最も重要なのは台頭する中産階級だからである」。
資本主義・私有財産・私企業の信奉者である彼らに、共産主義のイデロギーは魅力あるものではない。だからこそ習はこのイデオロギーに代えてナショナリズムを強く打ち出すことで彼らの結束を強めようとしている。
それが海洋進出や強硬な対外政策につながることは言うまでもない。
同時に、西欧の価値を攻撃し、インターネットの検閲を強化し、反体制派を厳しく弾圧する動きにもつながる。


(5) このような習の思考は、ソ連の崩壊を反面教師として強烈に意識しているからだが、
習への権力集中が進めば進むほど、ひょっとして経済が低迷し、社会不安が増大する事態になった場合には、その不満の矛先はもっぱら習に向けられるリスクを負うことにもなるだろう。


3.  最後に 昨年11月21日号「エコノミスト社説」―「明日に架ける橋(Bridge over troubled water )」のごく一部から・・・・

(1) 中国では握手する行為自体、権力誇示の証である。北京でのAPECで、習主席がオバマ大統領と会った際にそのことは十分意識された。
(雑誌の表紙写真を見てほしいが)習は右側に立ち、身体はカメラに向かって大きく開かれ、他方でオバマは敬意を表するように自分から近寄る必要があり、しかも左側から肩を防御するようにカメラに向けている・・・。昨今、中国のアメリカへのライバル意識はこのような些細なことにまで及んでいる。


(2) これからのアジアを左右するのは「米中関係」である。互いに覇権争いに血道をあげるのではなく、この地域の安定と繁栄に協力してリーダーシップを発揮すべきであり、そのためにも中国は、まずはTTPに加盟すべきである。



4. 以上、習近平についての英米の論調で明らかなように、(1)彼が急速に強大な権力者になっていることと(2) 国民の人気が急上昇していること、の2点で、
こういう報道、特に後者はあまり日本では伝えられないように思います。
前者の「権力集中」の事実についても日本の論調は総じて批判的で、例えば興梠一郎という先生は、こう書いています。

―――「権力を集中すればするほど腐敗は激化し、民衆の不満はますます強まるに違いない。権力の集中は、安定をもたらすのではなく、かえって混乱と停滞をもたらすことは、毛沢東時代の「文化大革命」を見れば、火を見るよりも明らかである」(「習近平体制と反腐敗運動の行方」“外交”vol28)


これに対して、英米の見方は、前述したように、冷静かつ客観的に分析しています。

「火を見るより明らかである」なんていう表現は、学者にしてはあまりに主観的・感情的ですね。しかも習自身は文化大革命の大いなる被害者の1人であることを考えれば、毛沢東と同じ誤ちを犯すかどうかは、「不透明」と言うのが妥当ではないでしょうか。
(写真3)

5. もう1つ、最後の「エコノミスト」誌の論調から明らかなのは、
(1) 欧米を始めとする世界は、これからのアジアを「米中関係=米中の覇権争い」という構図で見ていること。
日中関係」は残念ながら、この「構図」の中の1コマに過ぎない。
(2) 中国も政治外交面では、同じスタンスで見ているのではないか。おそらく日中関係は習にとって「米中」の枠組みの1つで捉えており、要はアメリカが日本の同盟国としてどう出るか?(例えば、尖閣を日本と一緒に守るか?)を見ているであろう。
(3) その点からすれば、日本は、
「米中関係」の行方をこそ戦略的にフォローすべきではないか。


6. 最後にこれは元中国大使谷野氏の指摘ですが、氏は「残念ながら、今や英米の方がはるかに中国に関する情報と人脈を持ち、知中派を増やしている」と懸念しておられます。
中国が何を考えているか、何が起きているか、を冷静に分析することが大事だろうと思います。
因みに、プーチンは2007年のタイム誌「今年の人(Person of the Year)」ですが(今回は候補3位)ですが、そのうち習近平も選ばれるでしょうか?
過去に中国からは、蒋介石と�殀小平(2回)が選ばれています。日本からはまだ誰も居ません。
どうでもいいじゃないか?と思う人も多いかもしれませんが。