1. 前回は恒例のタイム誌「今年の人」に「エボラ熱と戦う人たち」が選ばれ、「叫び(The Call)に応じた人たち」と讃えていることを書きました。
arz2beeさん有り難うございます。「日本では、誰が応じるだろうか?」という鋭いコメントを頂きました。
arz2beeさんご自身の意見は分かりませんが、私は、この国にもたくさん居るだろうと思います。但し(異論があるかもしれませんが)以下のことは言えるかもしれない。
(1) 居るけれど、自分の意思でというより、組織や集団への帰属意識の強い特性から、「個人個人が」という行動は多少少ないかもしれない。
(2) 陰徳と呼ばれる価値感があって、人に知られずにやる、という意識は強いかもしれない。従って目につきにくい。
(3) 最後にこれは(2)ともからむが(何度も雑文に書いたこともあるが)、どうも「ほめ方」がうまくない、「ほめる文化」が少ないような気がする。
このうち(3)を補足すると、特にアメリカで気づくのは、「ほめる」旨さです。
2001年9.11の同時多発テロの時に、政府もメディアも教会や社会も、火に包まれたビルに立ち向かっていく消防士や見ず知らぬ人を助けて逃げる市民の行動をどれだけ称賛と感謝で取り上げたか、いまも記憶にあります。
そして新聞は2頁全面を使って、1人1人の名前を挙げて感謝の言葉を載せる。
大統領はホワイトハウスに遺族を招き感謝する、国会は遺族を貴賓席に招いて黙禱を捧げ、神に祈り、感謝のスピーチとともに全議員が立ちあがって、遺族に拍手をする・・・・
私のような異国の人間でも、ジーンとくる瞬間です。
こういうことは、もう少し考えてもいいような気がするのですが。
2. また、フェイスブックからは「今年世界最大の問題はロシヤの衰退とそれに対するプーチンの対応ではないかと思っています」という、これまた鋭いコメントを頂きました。
まさに「今年の人(Person of the Year)」の候補第3位は、ウラジミール・プーチン大統領(62歳)です。そこで今回はタイム誌がなぜ彼を選んだかを紹介したいと思います。
以下,「帝国主義者プーチン、ますます孤立化するロシアの大統領は、失われた帝国の再生という使命に取り組もうとしている」というリード文から始まる文章の要約です。
(1) 昨年3月プーチンの決断によるクリミアの併合は、ロシアにとってソ連崩壊後始めての領土拡張となった。
ソ連の崩壊は、西欧諸国にとっては、自由の勝利と言えよう。しかし、プーチンや彼の同胞にとっては大災害であった。一夜明けたら、スーパー・パワーの地位から、自らロシア移民であるセルゲイ・プリン(グーグルの共同創業者)に言わせると「雪のあるナイジェリア(のような国)」に転落してしまったのだ。
ゴルバチョフ元大統領(ソ連の民主化(ペレストロイカ)やべルリンの壁崩壊の立役者である)もまた、失ったものの大きさを嘆き、「今や脇役に追いやられ、リーダーはアメリカだけになってしまった」とタイム誌の取材に語っている。
(2) しかしクリミア、人口2百万の、これといった資源もなく発展も遅れ、今後ロシアは6年間で2兆円ちかい資金をつぎ込む必要があろうと予測される地域にも拘わず、その併合によって、「プーチンはついにロシヤの名誉を取り戻したのだ」とゴルバチョフさえ評価している。
その結果、徐々に下降傾向にあったプーチンの支持率は、昨年10月にはピーク88%まで上昇し、まるで「神格化」するあり様である。
とくに「クリミア」はロシアにとって19世紀の戦いの中で国の栄光の「シンボル」とも見なされる言葉だけに、ある社会学者は「ソ連崩壊後、はじめて国民は、自国が大国の地位を取り戻したという気持ちになり、フラストレーションと屈辱感が払しょくされたのだ」と語る。
(帝国の逆襲)
(3) 1989年のベルリンの壁崩壊の時、プーチンはKGB(国家保安委員会)の駐在として旧東独のドレスデンに居た。従って、彼にとってこの出来事は自由・解放どころか脅威以外の何物でもなかった。だからこそ2000年の第1回大統領就任以来、失われたロシアの権威を取り戻すことに全力を傾けてきた。
しかし、ウクライナとの対決とクリミア併合は、ロシアにとって大きなマイナスを背負ったことも事実である。例えば、7月の民間航空機の誤った撃墜の悲劇がある。悲劇そのものだけでなくその後の死者への冷たい対応も西欧(死者の大半だった)の怒りを呼び、プーチンは数少ない友人をさらに失うことになった。
3月にはG8から締めだされ、11月オーストラリア(乗客38人が亡くなった)で開かれたG20では村八分にもあった。会議でプーチンに会ったカナダ首相は「あなたと握手はしよう。しかし言いたいことはたった1つ、ウクライナから出ていってくれ」と語りかけた。
プ―チンは会議の終了を待たずに途中で帰国した。
中で、ドイツのメルケル首相だけがプーチンの言う事に耳を傾け、長時間の面談も実施した。しかしその後の記者会見での報告は、「今回のロシアの国際法を無視する行動は、2度の世界大戦と冷戦の終結を経た私たちに、欧州の平和に対する新たな疑問符を投げかけるものだ」と厳しいものだった。
このようなドイツ(EUの中道かつ現実的路線をとると同時に原理原則は譲らない国)の厳しいロシア批判はちょうど同国を襲った経済不安とほぼ時期を同じくした。ロシアの最も貴重な財産である石油の価格は下落し、通貨ルーブルは40%下落し、国債はジャンクボンド(投機的格付け債)並みに扱われている。2015年は不況が確実視される。
果たして、プーチンの帝国への野望は、ロシアの経済的繁栄を犠牲にしても成されようとしているのだろうか?
(グローバルな選択肢は?)
(5) ロシアはいま、西欧の自由民主主義に代わる価値観を掲げる存在として自らを位置付けている。そして重要なのはそれなりの成果をあげていることだ。
中欧・東欧は言うまでもなく、フランスやイギリスの右派はプーチンを評価、ハンガリーの超右派政権は(EU&NATOのメンバーにも拘わらず)「市民社会に厳しい、非民主国家を目指す」と宣言している。
(6) プ―チンは、携帯電話を使用せず、インターネットを「CIAの陰謀」と呼んで警戒するが、彼自身の声は世界のあちこちに届きつつある。
「それは現状の世界秩序の変更に挑戦することだ」とロシア駐在のアメリカ大使は語る「彼はいまの秩序に反対する国々、中国、トルコ、おそらくはインド等との関係を強化しようとしている」。
プーチン自身も挑戦を受けている。西欧からの反発であり、国内経済の不安である。鍵は、国民が今後も彼について行くだろうかにあると言える。
しかし忘れてならないのは、かってこの国は世界でも最大の超大国だったこと、かつプーチンはその再生を目指していることだ。
彼は、10月の演説でこう述べている ――――「歴史の教訓を忘れてはいけない。即ち、
いま我々が眼にしつつある世界秩序の変化は、過去において常に、世界的な戦争か、世界的な対決か、少なくともローカルな衝突が連鎖的に起きること、から生まれるということを・・・」
3. 今回は、プーチン・ロシア大統領に関するタイム誌の「今年の人3位」の趣旨説明を要約することで終わりにします。
最後に一言付加えれば、最後に紹介した、プ―チンの10月に述べた演説は(タイム誌の紹介が間違いないのであれば)、不気味ですね。
平和な2015年であって欲しいと願いますが、年明け早々、フランスでのテロはまことに陰鬱な気持ちになります。これが、ハンチントンの言う「文明の衝突」の始まりでないことを!