1. このところ英国を支える「保守の精神」ともいうべきものを考えています。
他方でこの国の首相は(良くも悪くも?)国の構成原理である憲法の解釈を自らの判断で変えてしまう・・・これは「保守の精神」とは眞逆の「革新」そのものでしょう。
さすれば日本に「保守」はあるのか?
個人的には興味のあるテーマですが、いささか硬くなりますのでフォローは省略して今回は、「保守主義者」と言われるプーチン大統領についてです。
「フォーチュン」や「ビジネスウィーク」と並ぶアメリカの経済誌「フォーブス」が毎年この時期に、「世界で最もパワーフルな人物」を選びますが、4日付で73人のランクを発表し、日本でも報道されましたが、2015年も3年連続でロシアのプーチン大統領が選ばれました。
2位はドイツのメルケル、3位オバマ(昨年2位)、4位フランシス教皇(変わらず)、5位習近平(同3位)、6位ビル・ゲイツと続きます。
因みに73人は、世界人口の (少数点以下ゼロが7つ付く)0.00000001%、1億人に1人の割合だそうです。
フォーブスは、補足して、「彼らの行動が世界を動かすグローバルエリート。国家元首、金融家、慈善事業家、企業家(エントレプレナー)たち」と呼んでいます。
日本の報道は「最も影響力のある人物」と訳しています。
「パワーフル」が原語であり、パワー(力)は、あらゆる「権力」(権威、富、経済支配、指導、政治、外交、強制、社会変化・改善・・・等々)を総合的に駆使することでしょう。
2. プ―チン大統領を選んだ理由については、
「(今年も)引き続き、自らがやりたいことを成し遂げる力を備えていることを立証した。
クリミア併合やウクライナの代理戦争後、欧米は経済制裁に踏み切った。その結果、ルーブルの価値は下落し、ロシア経済は低迷している。
しかしそれらはプーチンにいささかのダメージを与えていない。過去最高の89%の支持率を維持し、10月にはシリア空爆に踏み切り、同国アサド大統領と面談し、この地域のアメリカとNATOの弱さと自らの影響力を強めている。」
また、2位のメルケル首相(ドイツ)については、
――「昨年の5位から躍進。
28カ国からなるEUのバックボーンであり、シリア難民問題やギリシャ債務危機にあたって指導力と決断力のある行動が評価された」
とあります。
3. もちろん、あくまで同誌が選んだ主観的なもので、いろんな意見があるだろう。むしろこういう「ランキング」をもとに夫々が考えてみることが大事ではないか?
というのがフォーブス誌の主張です。
また、「最もパワーフル」という定義には価値判断は含んでいません。
アメリカの雑誌ですから、プーチンを好意的に評価している訳では毛頭ありません。
ちょうど1年前に彼を1位に選んだ時の、同誌の「説明」は以下の通りです。
―――2013年に本誌がプーチンを1位に選んだ時はいささかの物議をかもした。
しかし1年経って我々の判断に先見の明があったことが明らかになった。2014年もプーチンである。
ロシアはますます、エネルギー資源の豊富な、核戦略に力を入れる、乱暴者国家(rogue state)のようにみえる。そしてその指導者は、疑いなく(undisputed)、予測しがたい(unpredictable)、責任をとろうとしない(unaccountable)、国際世論を全く気にしない(unconstrained)人物である。ーー
明らかに、欧米は、自分たちと異なる価値観を持った人物として、それは習近平やISについても同様と考えていますが、こういう指導者に率いられた国家や集団が、大きな影響力を持ってくることに、大いなる警戒と危惧を覚えています。
4. ウラジミール・プーチンについては改めて紹介する必要もないでしょうが
−1952年生まれ、63歳、レニングラード大法学部卒。ソ連国家保安委員会(KGBいまはFSB)に入り、ベルリンの壁崩壊の時に東ドイツ勤務。
1999年末エリツィン大統領の辞任に伴い大統領代行に。2000~08年大統領、その後首相に就任。2012年大統領に復帰。2024年まで可能。
その素顔や考え方について、『プーチンはアジアをめざす』(下斗米伸夫NHK新書2014年12月)は以下のような指摘をしています。
(1) ずば抜けた能力の持ち主である。
(2) 祖父はレーニンのコックで古儀式派だった(現在のロシア正教会以前の古い信仰を保つ、異端に近い正教一派
(3) プーチン自身も古儀式派や保守主義(ピョートル大帝のような「西欧化」」を拒否し、歴史・伝統・文化・宗教を守る。現在の保守派が評価するのはレーニンやトロッキーではなく、正教を守ったスターリンである)への関心をもつ。
⇒プーチンの「強いロシアを取り戻す」。
⇒ロシア国民は革命といった政治変動を拒否し、保守主義を強めている。
(4) ユーラシア主義――東方志向。ヨーロッパとアジアの双方にまたがるロシアアは独自の空間で、そこには独自の発展法則がある・・・という理念
―ロシアは人口の8割がヨーロッパにいて、資源の8割がアジアに存在するというアンバランスが問題。
→いずれ、極東・シベリアに人口や国家の重点を移さざるを得ない。
(5) 独裁者の側面⇒権力の集中、メディア統制、反オリガルフ(新興財閥)やシロビキの台頭(軍人・政治警察のエネルギー利権への進出)
そして、
(6)プーチンはロシア人の最大公約数的なものを体現している。ロシア人のアイデンティティが大きく揺らいだとき、そこを埋めるようにして広まってきたのが、正教的な保守主義であり、ユーラシア主義
5.何れにせよ、2016年はアメリカが大統領選挙を控え、英国はEUに残るかどうかの国民投票が予想されており、
その中で、プーチンとメルケルという2人の指導者が、国際秩序をどのように構築していくか、ますます存在感を強めていくでしょう。
メルケルさんには頑張ってほしいですが、難民問題で支持率が67%の高率から50%台に下がっていること、1企業の問題とはいえフォルクスワーゲンの不祥事などが気がかりな材料ではあります。
2016年、欧米とプ―チンとの歩み寄りが出来るとすれば、その鍵を握るのはやはりメルケル首相でしょう。
他方で、この対立で、何もしないで漁夫の利を得ているのが中国だと言われますが、習主席はどう動くでしょうか?