タイム誌でイアン・ブレマーが語る「中国の優位性(Advantage China)」

1. 所用で昨日まで紅葉が盛りの京都にいましたが、そのことは次回にして、東京の我が家では、昨年調布の神代植物公園で小さな苗木を買った薔薇が今年の冬もまだ花を咲かせています。薔薇は英国の国花ですが、逆境にあっても、棘で身を守り、芯の強いところが英国人好みなのでしょうか。

「棘ありて こそ凛として 冬薔薇(そうび)」。
「リベラル」もそうあって欲しいと願っていますが、日本は「リベラル」は嫌いなのか?


2.リベラルをもっとも嫌いなのが中国でしょう。
その中国では第19回共産党大会が終わり、第2期を迎える「習近平(シー・ジン・ピン)総書記への権力集中と権威付けの強化が一層鮮明になった」と言われます。

タイム誌11月13日号はこの時期をとらえて、「China won(中国が勝った)」と題する表紙を載せてこの国を取り上げています。
中で「優位に立った中国(Advantage China)」と題するイアン・ブレナーの論説を紹介します。

イアン・ブレナーは48歳の政治学者でスタンフォード大博士。
2015年に書いた本が『スーバーパワー、Gゼロ時代のアメリカの選択』と題して日経新聞社から邦訳されて話題になりました。

今回の論説は、「Gゼロ時代の中で、中国が一歩抜け出したのではないか」という彼の
新たな問題提起だと思います。


3. 以下簡単な要約です。
(1) 今回のトランプ12日間アジア歴訪で、もっとも重要な目的地は、グローバル化する経済で最強の国・中国だった。

(2) もちろんドルは依然として最強の準備通貨であり、中国の富裕層はアメリカの不動産に投資し、子弟をアメリカに留学させている。
しかし、軍事同盟、通商のリーダーシップ、西欧の政治理念を広めようとする意欲、何れの局面でもアメリカは弱体化している。

(3) 少なくとも5年前までは、中国の権威主義的・専制的な資本主義モデルは何れ行き詰ると考える意見が大勢だった。しかし今日、むしろアメリカ・モデルより問題なく持続可能なようにみえる。
しかも、ロシアだけでなく、トルコ、インドのようなかって民主主義を目指した国まで中国型モデルの後を追おうとしている。


(4)長い間、欧米は、人間の発展と繁栄は自由民主主義によって達成されると信じてきた。
彼等の期待がもしも間違っていたとしたら、世界はどうなるのだろう?


(5) 例えば、習体制は共産党の主導によって、雇用を守り増やすことに政府が直接介入する。また戦略的な産業の支援や育成、金融支援などにも政府が強力に介入する。
実例をあげれば、中国の三大石油会社は国立銀行から巨額の金融支援をうけている。同じく国有の化学会社は食料の確保が重要だとする国家戦略に沿って、バイオテクノロジーに強いスイスの某社を巨額で買収した・・・・・等々。

おまけにこの国は、このような経済活動において、法を曲げることや産業スパイやサイバー攻撃を厭わない国なのだ。

それらは、残念ながら自由で公正な市場と競争に任せるという西欧的なやり方よりはるかに効果を上げている。


(6) 言うまでもなく、このことはそこに住む人たちの幸せを意味するものではない。
自由の制限、人権の抑圧、法の支配の欠如、社会のあらゆるレベルでの不正は依然としてこの国の病根である。

しかし、それにも拘らず、ここしばらくは中国が強く安定した国であり続けるであろう。

もちろんだからと言って中国が「未来に勝利する」ことが保証された訳ではない。
そもそも細分化されたグローバルな今日の世界で、1国が政治経済のルールを独占することは困難である。

しかしそれでも、もし将来、世界的な強い影響力を与えることのできる国を1つあげろと言われたら、アメリカに賭けるのが賢明とは思えない。賭け金はおそらくは中国に行くのではないだろうか。


5. このように、リベラルとは真逆の国、人権や言論・思想の自由が抑圧される国。
しかしイアン・ブレナーは、その強い国家権力による専制体制が、国力と経済面では効果をあげていると指摘します。
その強さは上にあげた、「雇用」や「産業育成・支援」だけではなく、第3に「技術」面にもあるとして著者は、「ソーシャル・クレジット・システム」と「人口知能(AI)」の2つをあげています。
そこでこの2つについて簡単に紹介してブログを終えたいと思います。


まず「ソーシャル・クレジット・システム(SCS)」について。
(1) SCSは世界でも最大の社会実験であり、14億人の国民全てをスマートフォンを通してデータ管理しようとする壮大なプロジェクトである。
これによって国家権力は、国民一人一人の思考と行動など、あらゆるデータを把握できるようになる。過去の履歴も金融や資産も家族・交友関係も消費行動も国への忠誠度も、病歴や趣味や飲酒の程度に至るまで全て権力の知るところとなる。


(2) その上で全ての国民が評価され、「スコア」を付けられる。
良いスコアを得た者は、昇進、昇給、子弟の教育や就職、住居、医師の選択、年金、旅行の自由などあらゆる側面で有利な待遇を得ることができる。


(3) これは言うまでもなく西欧の価値観からすれば衝撃的であり、重大な「個人の自由の侵害」とみなされる筈。
しかし中国は、「調和のとれた社会」を実現するために、権力にとって有効・有用な道具と考えている。


他方で「AI」については、
(1) AI開発の国際競争はアメリカと中国を筆頭に激しさを増している。

(2) そしてここでもアメリカは基本的にシリコン・バレイの起業家たちのイニシアティブに任せている一方、中国はもっとも重要なプロジェクトとして全力をあげて、巨額な投資と人材を国家主導で投入している。

(3どちらが勝利を収めるかは明らかではないか。

6.ということで、何やら恐ろしい気持でこの論説を読みました。
ソーシャル・クレジットが、私たちの全ての情報を把握し、管理し、支配する道具として活用される社会。
それは「リベラル」が究極に否定される社会とも言っていいのではないか。
そしてこのような「中国モデル」が、徐々に世界的に広がっていくとしたら・・・・・
「自由」と「民主主義」よ頑張れ! と叫びたいのですが、まあ私の残された生は短いし、次世代の皆さんに任せざるを得ませんね。