『それでも日本人は「戦争」を選んだ』を読む

1.我善坊さん再度のコメント有難うございます。エリート論やオルテガの名著『大衆の反逆』についてブログで話し合ってもう4年になるのですね。相変わらず同じようなことを考え続けているなと懐かしく思います。


2.忘れずに、愚直に考え続けるというのは、せわしなく物事が流れ去るせわしない現代でも大事なことだと思う者ですが、今回は、戦後70年で「有識者懇談会」とやらがあの戦争を振り返るという報道もあり、庶民の1人としてもそれなりに振り返ろうと思い、最近読み終えた本をご紹介します。
加藤陽子・東大文学部教授の『それでも日本人は「戦争」を選んだ』(朝日出版社)です。2009年度の小林秀雄賞受賞。よく売れているようで、澁谷の本屋では27刷がいまだに平積みになっています。
栄光学園の中高校生に対する5日間の講義録を本にしたもの。
日清戦争から太平洋戦争までの「戦争」を軸に歴史を振り返り、なぜ起こったか、戦いの前後で何が変わったかなどを語っています。

私は、毎月世田谷区の有志が集まる読書会でも44枚のパワーポイント・スライドを作って、本書と補足情報について発表しましたが、他方でこれまた毎月もと職場の同期が集う会合でもごく簡単にA4で2枚のメモを渡して報告しました。
以下は後者の報告をもとにしていますが、因みにこの集まりには、栄光学園(神奈川県鎌倉にあるキリスト教系の進学校です)の卒業生が2人出席していました。


3.まず、少し硬い話になりますが、(本書の特徴)として以下があると思います。

(1)歴史の面白さの真髄は、比較と相対化にあるとして、序章「日本近現代史を考える」で、「歴史は解釈である」あるいは「歴史は現在と過去との対話である」とする英国の歴史家E.H.カーの歴史観
および「戦争は相手国の基本原理への挑戦ないし攻撃」とするルソーの戦争観(したがって敗戦国では君主制が崩壊したり日本のように憲法を書き変えたりすることが起きる)をふまえていること。

(2)第一次世界大戦に日本がいわば「強引」に参戦し、それによって客観的には権益を得たが主観的には危機感を抱き、それが1930年代に「深く・重く・ジワリと効いてくる」という認識(これは『昭和天皇独白録』における天皇の述懐にも通じる)や、
太平洋戦争前に「持久戦ができないなら、日本は戦争をやる資格のない国だ」という水野廣徳(元海軍大佐)の紹介に頁を割いていること。


3. 次に、戦争と平和という局面からここ400年の日本を総括すれば、
日本は、徳川時代の2百数十年間、他国との戦いもなく、平和であった。
→ これに対して、明治から1945年までの約80年は絶え間ない「戦争」の時代、「あきれるほどの戦争の連続」(林房雄)と言える。
→そして戦後70年、平和な時代が続いている。

4. それでは、(戦争によって得たものと失ったもの)とは?

(1) 日清戦争(1894~95):死者約13500人、軍事費約2億、
得た物:賠償金:約3.6億円 ,台湾を領土とし朝鮮の自主独立、蘇州等の開港


(2)日露戦争(1904~05):約20万の犠牲者と約20億の金を支出して,関東州(旅順・大連の租借地)と中東鉄道南支線(長春ー旅順間)その他、さらに1910年韓国併合


(3)第一次世界大戦(1914~18)―戦死者約1千万、戦傷者約2千万。対して日本は、合計1250人の死者、山東半島の旧ドイツ権益と赤道以北の旧ドイツ領南洋諸島委任統治権)を得る。


(4)満州事変・上海事変(1931~33)→満州国の建国(32)国際連盟脱退(33)


(5)その後の日中戦争&太平洋戦争(1937~45)で約310万人の死者と(1)~(4)で得た領土・権益を全て失った。


5.以下、加藤さんの本から少し離れますが、 (太平洋戦争)について
(1) 下の写真にあるように、圧倒的な国力の違いのあるアメリカと戦い、
日中戦争を入れて、約310万の死者(私事ですが私の父も含まれます)を犠牲にして、日清戦争以来得たものを全て失った。



(2)因みに、第2次世界大戦全体について言えば、いろいろな統計があるが、

・6千万人を超える死者を出した戦争だった。これは1939年の推定世界人口20億人の3%を超える。
・うち民間人の被害者数:3800万〜5500万(飢饉病気によるものは1300万〜2000万)。
軍人の被害者数:2200万〜2500万、から明らかなように、過去の戦争に比較して民間人の被害が格段に多かった。
・死者の国別では、最大がソ連、26百万強、総人口の13.5%。ドイツは7~9百万(8~10.5% )
・中国は10~20百万、 アメリカ42万(0.3%)英国は45万(0.9)
・日本は2.6〜3.1百万(3.6~4.3%)
・さらには、ホロコーストによって、730万のユダヤ人のうち570万(人口の78%)が犠牲になったとする推計がある。


6.最後に、太平洋戦争についての元ジャーナリストである (半藤一利の嘆きと教訓)を紹介します。
嘆きは――「何とアホな戦争をしたものか。この一語のみがあるというほかない。
昭和史とは、なんと無残にして徒労な時代であったか。日清戦争前の日本に戻った、つまり50年間の営々辛苦は無に帰した。昭和史とは、その無になるための過程であった」。
教訓は――
(1).国民的熱狂をつくってはいけない。
(2).日本人は抽象的な観念論を好み、具体的・理性的な方法論を検討しようとしない。
(3).日本型タコツボ社会における小集団主義の弊害
(4).国際的常識の欠如(例:ポツダム宣言の受諾は終戦ではない→満州の悲劇)
(5).時間的空間的な意味での大局観がない。
   (『昭和史1926^1945』平凡社ライブラリー

今回はまことに暗い話題になりましたが、冒頭書いたように、戦争を知らない若い人たちを含めて、考え続ける必要があるだろうと思います。